【JVTA講師が字幕を担当!】多数の国際映画祭でノミネート!ドキュメンタリー映画『Dr.Bala』英語字幕制作の裏側
各国の映画祭で注目されている日本のドキュメンタリー映画がある。『Dr.Bala』(Koby Shimada, 2022)だ。ロサンゼルスインディペンデント映画祭で長編ドキュメンタリー部門のBest Director、ヒューストン国際映画祭の教育部門でRemi Award金賞に選出されるなど、現時点で8カ国11の国際映画祭でノミネートもしくは受賞にも輝いている作品だ。
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毎年1週間の夏休みを利用して東南アジアでの国際協力を続ける大村和弘医師の、12年間の足跡をまとめたドキュメンタリー映画である。JVTAはこの『Dr.Bala』の英語字幕制作を担当。翻訳したのはJVTAで日英翻訳の講師も務める南久美子さんだ。
南さんにとって、医療に関するドキュメンタリーの翻訳は初めてではない。しかし、『Dr.Bala』はこれまで担当してきた医療ドキュメンタリーとは一味違ったようだ。
「医師のドキュメンタリーは他にも扱った事がありましたが、本作ではとにかくDr. Balaと呼ばれる大村和弘先生の熱意に圧倒されました。医療行為そのものに携わるだけでなく、支援活動システムの構築まで精力的に取り組み、先生のバイタリティー・信念の強さに心を打たれました。」(南久美子さん)
※大村和弘医師
Photo:シマダ監督より提供
映像翻訳では言葉を訳し始める前に必要な作業がある。それが「ハコ切り」だ。字幕制作ソフトで字幕が出るタイミング/消えるタイミングを計り、1枚の字幕の長さを決めることである。南さんは通常、初見の段階でこのハコ切りをしながら大まかな訳をつけていく。しかしながら、『Dr.Bala』はまずは通しで見たいと感じたそうで、ハコ切りをする前に、一気に見てしまったという。それほど引き込まれてしまう作品だということだ。
ハコを切ると、実際に1枚の字幕に何文字まで使うことができるかが決定する。ドキュメンタリーはフィクションに比べて情報量が多い場合がある。特に本作は会話のほかに医学用語の注釈、舞台となる東南アジアの人々の名前など、視聴者にとってなじみのない言葉が登場する。すると必然的に、文字情報は多くなっていく。
そんな中、南さんが意識したのは「視聴者を疲れさせてしまう字幕」にならないようバランスをとることだ。必要な情報が伝わるようにしつつ、字幕に情報を詰め込み過ぎないように注意をした。それに加え、医療現場のシーンと日常的なシーンでは、大村医師の人柄が伝わるような工夫も施している。
「医療現場から離れたシーンでは、フランクな言葉遣いにしてメリハリをつけるようにしました。例えば、映画の終盤に大村先生がご自宅の台所で、娘さん達のお弁当を作るシーンがあります。短いシーンですが、先生の素の姿と、ご本人にとってこの活動の意味を捉えた心に残る場面だと思いました。そこであえて字数を少なくし、ハコに対して短すぎるぐらいの訳にして余韻を出す工夫をしました。」(南さん)
本作の監督であるコービー・シマダさんは映像に字幕がつくことについて、「その国や地域の文化・慣習を理解して英語翻訳をする、字幕をつけるということが重要で、作品の面白さに繋がると感じています」と言う。南さんの字幕はそれに加え、大村医師の「人柄」までも反映した英語字幕となっている。
機械翻訳の精度が向上する昨今において、セリフの一つひとつを忠実に逐語訳していくのであれば、機械翻訳でも事足りるようになるかもしれない。しかし、セリフやシーンの背景にある文化や慣習、登場人物の性格や場面ごとの変化までを捉え、さらに見ている視聴者に読む負担を感じさせない字幕を作るには、やはり映像翻訳者の技術とセンスが必要だ。
※撮影の様子
Photo:シマダ監督より提供
南さんは英語字幕を制作する際、「読み手側の気持ちに立つこと」にも気を配っている。翻訳者が映像内のセリフを正確に理解することは必須だが、必ずしも「原文に忠実な訳=視聴者にとって良い字幕」とは限らない。
「翻訳をする際に常に心がけている事は、“読み手側に立つ”という姿勢です。下訳段階では日本語に忠実な訳から始めますが、読み手にとって読みやすい訳を意識してリライトしていくと、最終的にはシンプルな訳に落ち着いていることが多いと感じます。」(南さん)
監督のシマダさんが「世界中の人に見てもらいたいと思っていたので、英語字幕は必須だった」と言うように、日本語で制作された作品を世界に届けるためには、字幕が不可欠だ。実際に英語字幕がついた本作は様々な国際映画祭に出品され、多数のノミネートや受賞という高い評価を得ている。作品そのものが持つ力はもちろんだが、南さんが制作した英語字幕の存在も、作品のメッセージを伝えるために一役買っていると言えるだろう。
南さんは映像翻訳者として活躍しながら、JVTAの日英翻訳の授業で講師も務めている。そんな南さんに、これから映像翻訳者を目指そうとしている人や学習中の方たちへのメッセージを頂いた。
「映像翻訳はどんな分野の仕事が来るか分からない所が大変でもあり、刺激でもあります。今から色々なことにアンテナを張っていて下さい。いつか大いに役立つと思います。また学校で作った仲間は今でも自身の宝物です。皆さんも、ぜひクラスメートと切磋琢磨し良い仲間をつくって下さい。」(南さん)
南 久美子
父親の転勤に伴い小学校~高校をカナダ、日本、UAE、イギリスで学び、高校卒業後に帰国。国際基督教大学教養学部でコミュニケーションを専攻。卒業後、日本の保険会社及び外資系の旅行会社に勤務。その後、夫の留学に付き添い米国に在住中、コンピュータープログラミングなどを学ぶ。帰国後、特許事務所に入社し、特許翻訳の仕事に7年間携わる。違う分野の翻訳を模索中にJVTAを知り、2013年に日英映像翻訳科実践コースを受講・修了。現在はテレビ、WEB動画、映画、企業PV等の日英字幕やボイスオーバーを担当。 JVTAの日英映像翻訳講師も担当している。
■『Dr.Bala』公式サイト
https://www.kobypics.com/drbala/jp
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