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NHK朝ドラのノベライズを修了生が執筆!活かされた映像翻訳のスキルと経験

NHK朝ドラのノベライズを修了生が執筆!活かされた映像翻訳のスキルと経験

NHK朝の連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)と言えば、日本の朝を彩る国民的番組だ。1983年に放送された『おしん』は日本で一大ブームを巻き起こし、やがてシンガポールを皮切りに世界60以上の国と地域で放送。各国で字幕版や吹き替え版が放送され、大きな反響を呼んだ。これまでに放送された作品は111作。そして2025年春からは、アンパンマンを生み出したやなせたかしさんと小松 暢(こまつ・のぶ)さん夫婦をモデルにした第112作『あんぱん』が放送となる。

この『あんぱん』のノベライズ版の上巻が2025年3月24日に発売。執筆したのは、JVTA修了生で字幕を中心に映像翻訳者として活躍している後藤美奈さんだ。後藤さんは大学院で映画の脚本コースを専攻。卒業後にJVTAに入学し、やがて映像翻訳者としてデビューした。今ではフリーランスの映像翻訳者として、映画やドラマの字幕翻訳を数多く手掛けている。

学生時代に脚本の勉強をし、ネットドラマなどでの脚本執筆も経験している後藤さん。しかし、ノベライズ執筆は今回が初挑戦だった。

「お話をいただいたときには『やりたいです!』とほぼ二つ返事だったのですが、冷静になってみると『とんでもないことを引き受けたな』という思いでした」(後藤さん)

初めてのノベライズ執筆がNHKの朝ドラ。世の中に経験豊富な作家がたくさんいる中、未経験の自分が担当することでどんな価値を生み出せるのかと、後藤さんは自問した。そこで思い至ったのは、「映像翻訳者としての経験を生かした執筆をすること」だった。

スッと読んで、スッと分かる言葉にする
今回のノベライズ執筆は、順次届く脚本の決定稿を小説に起していく形式で進んだ。元の素材をベースに原稿を作成するという過程において、映像翻訳で求められる「分かりやすい文章を書く」というスキルが役に立ったという。

「朝ドラは登場人物が多いので、話者を明確にするという点で工夫が必要でした。家族が何人も出てきて会話をするようなシーンでは、誰が話しているのか分かりやすくしなくてはなりません。『誰にとっても分かりやすい文章を書く』という、映像翻訳のスキルが大いに活きたと感じます」(後藤さん)

数秒で消えてしまう字幕では、一瞬で意味が伝わる、端的で分かりやすい言葉を紡ぐスキルがとても重要になる。「スッと読んで、スッと分かる言葉にする」という点で、映像翻訳を通して鍛えられた日本語表現力がノベライズ執筆にも活かされた。

「作品は自分のものではない」というJVTAの教え
もう1つ、映像翻訳者としての経験が活きたことがある。それは「自分の文章に酔わない」ということだ。映像翻訳では、最初に必ず「映像作品」があり、翻訳者の役目はその作品の世界観を視聴者に伝える橋渡しである。どれほど良い言葉や表現を思いついたとしても、それが作品の世界観やシーンの流れに合っていないのであれば使うべきではない。

「JVTAの受講生だったころ、『翻訳している作品は、あなたの作品ではない』と何度も教えられました。字幕を作るときもノベライズを書く時も、つい自分が気持ちいい文章を書きたくなってしまうことがあります。でも一番大切なのは、自分の我を出さず、あくまで原文や原作に忠実に、作品のメッセージを伝えること。作品を正しく解釈し、全体を俯瞰で見るというJVTAでの学びを、執筆中に何度も思い返しました」(後藤さん)

チャンスは思わぬところからやってくる
今回、ノベライズ執筆にまでキャリアの幅を広げた後藤さん。一貫しているのは、「言葉や物語が好き」という思いだ。映像翻訳者になってからは、「字幕翻訳こそが自分のやるべき仕事」と思っていた。しかし今は、脚本執筆・映像翻訳・ノベライズ執筆に違いはなく、どれも言葉と物語に関わる仕事として携わっていきたいと考えている。

「これまでの学びや経験を活かせる機会は、思わぬところからやってくると思いました。自分で自分の道を狭めてしまうのはもったいないので、『字幕翻訳が好き』という気持ちは大事にしながら、同時に自分の間口は広げておきたいですね」(後藤さん)

テレビアニメ『それいけ!アンパンマン』のオープニング主題歌である「アンパンマンのマーチ」の歌詞には、「なんのために 生まれて なにをして 生きるのか」という一節がある。これこそが、ドラマ『あんぱん』の大きなテーマだ。戦前から戦後という激動の時代の中、夢を忘れずに生き抜いた夫婦の物語には、やなせたかしさんの人生哲学が詰まっている。

「本作のテーマは普遍的で、誰もが自分に問いかけるものだと思います。私自身、執筆をしながら『もっと真剣に生きなくては』と思いました。映像翻訳者になりたいと考えている人たちは、夢を持っている人たちだと思います。夢を持つ人に必ず刺さるストーリーですので、ぜひ多くの方に見ていただきたいです」(後藤さん)

『あんぱん』の放送は2025年3月31日(月)から始まる。ドラマとノベライズの両方で愛と勇気の物語を楽しみながら、自分の夢や生きる意味を一緒に考えてみてはいかがだろうか。

書籍情報:NHK連続テレビ小説 あんぱん 上
ドラマ情報:『あんぱん』公式サイト

後藤美奈さんプロフィール
映像翻訳者・ライター。JVTAの英日映像翻訳科を修了。映像翻訳家として海外ドラマ「地球に落ちてきた男」「ラブ&デス」、映画「グレース」などの字幕翻訳のほか、歌詞対訳などに携わる。またネットドラマ「向かい風の恋」などの脚本を手掛ける。
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