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第73回エミー賞 字幕翻訳の舞台裏

第73回エミー賞 字幕翻訳の舞台裏

日本映像翻訳アカデミー(JVTA)では2013年から「エミー賞」のレッドカーペットや授賞式の様子を伝える番組の字幕翻訳を手がけている。このアワードは、アメリカのテレビ業界で優秀な功績を残した番組に与えられるもの。アカデミー賞に並ぶ、エンターテインメント界の最高の栄誉といわれている。2021年9月20日には「第73回エミー賞」の授賞式がロサンゼルスで開催され、『ザ・クラウン』(Netflix) がドラマ部門の全7部門(作品賞、主要演技部門、監督賞、脚本賞)を制覇したことが話題に。JVTAは今年もその翻訳を担当し、授賞式から4日後に字幕版が配信された。
 

賞レースの番組は旬な情報をいち早く視聴者に届けることが重視されるだけに、翻訳の質はもちろん、スピードが問われる。その背景にはどんな流れがあるのか? この案件を手がけた藤田庸司ディレクターと今回初めて「エミー賞」のチームに参加した翻訳者・中村早希さんに話を聞いた。
 

藤田庸司(映像翻訳ディレクター)
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メディア・トランスレーション・センター(MTC)、チーフ・ディレクター。大量案件を短い期間で納品するために多くの翻訳者を束ねる「チーム翻訳」を行い、さまざまなジャンルのディレクションを手がけている。
 

中村早希さん(英日・日英翻訳者)
中村さん
日本語学校、英会話学校での勤務を経て、2019年にJVTAロサンゼルス校に留学。現地では英日・日英両方の映像翻訳、通訳、実務翻訳を学ぶ。実践クラスを修了後、プロの映像翻訳者としてJVTAの翻訳受発注部門に登録を目的としたトライアルに合格。帰国後は、プロの翻訳者としてのデビューを果たす。
 

* * *
 

スピード重視で
35人の映像翻訳者を招集

今回は、授賞式終了後すぐに35人の翻訳者が4つの班(「スピーチ、コメント翻訳班」「テロップ翻訳班」「誤訳チェック班」「誤字脱字チェック班」に分かれて翻訳作業を開始。24時間でまず翻訳を終え、その後の24時間で原稿をチェックし納品した。
 

中村さんは、ロサンゼルス校で学んでいたころに同賞について詳しく知る機会があったという。今回担当することができたのはとても嬉しかったと同時に、身が引き締まる思いだった。
 

「素材が届くまでのあいだは過去の『エミー賞』授賞式の映像を研究したり、今年ノミネートされた作品を可能な限り見たりして、知識を蓄えておくことを心掛けました。このアワードでは、受賞者の出演作のワンシーンが差し込まれることがあります。限られた時間の中で視聴者に分かりやすい字幕を作るためには、自分がそのシーンの担当になったとしても、慌てず翻訳できるよう準備しておくことが大切です」(中村さん)
 

納品までのわずかな時間、リサーチに時間をかけている余裕はない。だからこそ、翻訳チーム一人ひとりの知識や経験などが問われてくる。藤田ディレクターによれば、こういった研究や準備を率先して始める情熱こそが、短期間で良い字幕を作るための原動力だという。
 

「JVTAでは、翻訳者が得意な分野や好きな作品などのデータがあるので、案件ごとに最適な人選が可能です。今回、メンバーを編成する上で、最も重視したのが、海外ドラマなどのエンタメに対する情熱です。経験の差こそあれ、最後にものをいうのは仕事に対する気持ちの強さ。それが良い字幕を作ることにつながります。そして中村さんをはじめ、すべての翻訳者が高いプロ意識を持って対応し、それをこちらで効率よく取りまとめていくことが、チーム翻訳を成功させるカギといえます」(藤田ディレクター)
 

実際に作業が始まって、中村さんが担当したのは『ザ・クラウン』の受賞シーン。イギリス女王・エリザベス2世の知られざる素顔を描く同作で、チャールズ皇太子の役を演じたジョシュ・オコナーが受賞する場面などを翻訳した。
 

「どのパートが担当になるか事前に分からないので、できる限り多くのノミネート作品をチェックするようにしました。『ザ・クラウン』はエミー賞発表前から最有力候補に名前が挙がっていた作品で、私も注目していました。同作のワンシーンも自分で字幕を作る必要がありましたが、事前に作品の流れを理解していたので、スムーズに進めることができました」(中村さん)
 

難易度の高い歌詞翻訳
ベテランの翻訳者に依頼

翻訳するのは受賞者のスピーチだけではない。本アワードでは参加者らが屋内で“テレビの素晴らしさ”を歌にして、開催を喜び合うシーンがあった。そのパートを手がけたのは、翻訳者の野村佳子さん。映像翻訳だけでなく、海外アーティストや俳優の通訳やインタビューも行うベテランだ。過去には、ポール・マッカートニーの“リアルタイムMC翻訳”も手がけたこともある。(参照記事:ポール・マッカートニー MC翻訳の舞台裏
 

「『エミー賞』のように長尺の映像を複数で翻訳する際、始まりの部分や終わりの部分は特に高いスキルを求められます。始まりの部分をどう作るかは全体の流れに関わりますし、終わりの部分を分かりやすく伝えるためには、それまでの流れを汲み取る力が必要です。また、歌詞の字幕翻訳は難易度が高いため、歌詞対訳などに経験豊かな野村さんに担当していただきました」(藤田ディレクター)
 

ロサンゼルスの経験が
臨場感ある言葉を生む

中村さんは、まずは東京校で映像翻訳の基礎を学んだ後、JVTAロサンゼルス校に留学。英日・日英両方を学べるカリキュラムで多くのことを学んだ。現地では、監督や俳優が登壇する映画上映イベントなどにも数多く参加。その経験が今回の翻訳に生かせたのだという。
 

「ロサンゼルス校のスタッフの方に連れていってもらったイベントには、有名な映画監督の姿もありました。その時の空気感が、自分をレベルアップさせてくれた気がします。エミー賞やアカデミー賞が映画人たちにとってどれほど大切な賞なのかもロサンゼルスで学びました。あの時の経験があったからこそ、より臨場感のある言葉を選ぶことができたのだと思います」(中村さん)
 

日々の好奇心や学びが
プロとしての対応力を上げる

「映像翻訳者の仕事は、本当にいろいろなものがあります。だから、学んでいる今からでも、“自分は何が好きなのか”を声に出して周りに伝えていくことが大切だと思います。今回の『エミー賞』のように賞レースのことを学んだり、話題の作品を見たりしておくと、いざ依頼が来た時に即座に対応できます」(中村さん)
 

第73回エミー賞の日本語字幕版はU-NEXTで独占配信中。
皆さんもぜひ、字幕にも注目しながらご覧いただきたい。
 

第73回エミー賞(U-NEXT サイト内)
 

【関連記事】
『フレンズ:ザ・リユニオン』24時間で字幕を完成させた舞台裏とは?

https://www.jvta.net/mtc/friends-the-reunion/
 
 

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