日本人俳優による快挙の瞬間を翻訳!エミー賞授賞式
アメリカ時間の2024年9月15日、第76回エミー賞の授賞式がロサンゼルスでおこなわれ、俳優の真田広之氏がプロデュースと主演を務めたドラマ『SHOGUN 将軍』がドラマ部門の作品賞を受賞。真田氏もドラマ部門の主演男優賞を獲得した。同作は撮影賞や編集賞など計18の賞を受賞し、ひとつのシーズンの作品として最多の受賞記録を打ちたてる快挙である。日本のメディアでも大きく報道され、同作に出演し主演女優賞を受賞したアンナ・サワイ氏や真田氏のスピーチは連日TVで放送された。
「日本人俳優が初めてエミー賞を受賞」…そんな見出しがいたるところで見られたが、そもそも「エミー賞」とはいったいどういったものなのか?
名前は聞いたことがあるけど…「エミー賞」って何?
エミー賞は音楽のグラミー賞、映画のアカデミー賞、演劇のトニー賞と並ぶ、アメリカの4大エンターテイメント賞の1つ。アメリカのテレビ業界で功績を残した番組やキャスト・スタッフに与えられる賞で、テレビ番組における世界最高峰の賞である。「作品賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「脚本賞」など各部門に分かれており、作品賞はさらにコメディ部門、ドラマ部門、テレビ映画部門といった各部門に分かれている。
優れたドラマ作品やバラエティ番組に与えられるこの賞は、正確には「プライムタイム・エミー賞」と言い、アメリカの夜間(プライムタイム)に放送された番組が対象となる。エミー賞には他にも、朝から昼の番組を対象にしたデイタイム・エミー賞、スポーツ・エミー賞、技術・工学エミー賞、地域エミー賞、国際エミー賞などがあるが、一般的に「エミー賞」と言ったらプライムタイム・エミー賞のことを表している。
エミー賞やアカデミー賞では華々しいセレモニーがおこなわれ、その様子は日本でも見ることができる。例えば近年では、アカデミー賞、トニー賞、グラミー賞がWOWOWで放送され、エミー賞はU-NEXTで独占配信されている。またセレモニーそのものだけでなく、開始前のレッドカーペットの様子も併せて放送されるのが一般的だ。レッドカーペットでは代わるがわる芸能人が登場し、インタビューが繰り広げられる。
エミー賞やアカデミー賞のようなアワード番組は「情報番組」に位置づけられるが、実はこの翻訳需要は多い。4大エンターテインメント賞ではすべて、アメリカで放送されている番組を日本でもリアルタイムで放送する「同時通訳」版と、終了後に字幕をつけて改めて放送する「字幕翻訳」版があるのだ。同時通訳と字幕翻訳はセレモニーだけでなく、レッドカーペットの様子にもつけられる。
アワード番組で特に求められる翻訳者のスキルとは?
JVTAでは2024年のアカデミー賞、トニー賞、そして今回のエミー賞の字幕翻訳を担当。数十名の翻訳者で協力して行う、JVTA独自の「チーム翻訳」で対応した。チーム翻訳ではJVTAを修了しデビューして間もない新人翻訳者から、情報番組の経験が豊富なベテラン翻訳者までが参加している。
このようなアワード番組の翻訳では、どのようなスキルを持つ翻訳者が求められるのか?JVTAの映像翻訳ディレクターである藤田奈緒は「特に正確性、リサーチ力、そして日本語力が必要」と語る。
アワード番組では、朝に生放送、夜に字幕版を放送というケースもある。つまり、通常の映画やドラマなどに比べて圧倒的に翻訳スピードが求められるのだ。翻訳にかけられる時間が短く、さらに翻訳チェックに使える時間も限られている中、「誤訳のない」翻訳ができるというスキルはとても重要となる。
そして誤訳を防ぐためにはリサーチ力がものを言う。セレモニーでは、司会者や受賞者がノミネート作品に絡んだ話や業界の裏話を盛り込んでくる。またアメリカの時事問題を取り入れていたり、流行り言葉を使ったりすることもある。
今回のエミー賞でいえば、ドラマ部門作品賞のプレゼンターとしてドラマ『ザ・ホワイトハウス』(1999-2006)のキャストが5名登場した。ホワイトハウスを舞台にした同作らしく、プレゼンターたちは現代のアメリカ政治を揶揄するようなスピーチを披露。同シーンの翻訳を担当した八木真琴さんは、政治背景や話者の意図を正確につかむため、海外の記事を複数調べたという。
「字幕は限られた文字数で訳出するので、情報の取捨選択が必要です。話者が何を伝えたいかを理解していないと、たとえ英文を正しく訳していても、話者の意図から離れてしまうことがあります」(八木さん)
他にもセレーナ・ゴメス氏、ジョン・レグイザモ氏などが、政治的な皮肉を込めた発言をスピーチに盛り込んでいた。日ごろから広い話題にアンテナを張っておくことが、リサーチすべき箇所に気づきやすくなる秘訣である。
そしてもう1つ大切なのが日本語力だ。英語から日本語の翻訳と言うと、「英語力が重要」と思われがちだ。しかし実は、日本語の表現力が強く求められる。
「スピーチでは、印象的な言葉やウィットに富んだ言葉が使われることがよくあります。そのようなスピーチを翻訳するときは、日本語も工夫しなくてはなりません。そのため、スピーチにふさわしい言葉を選ぶ日本語センスがある人はアワード番組の翻訳に向いていると言えますね」(藤田)
今回の授賞式でハイライトとも言えるのが、真田氏とサワイ氏の受賞の瞬間だ。両シーンを翻訳することになった佐藤麻里さんはこの大役を務めるにあたり、真田氏とサワイ氏の熱量や人柄が伝わるような言葉選びを心がけた。
例えば、サワイ氏はスピーチで “Thank you to every single one of the crew and cast.”と感謝の気持ちを伝えていた。”every single one of”のような表現は、字数を考えると「皆」や「全員」と訳されることが多い。しかし、佐藤さんはサワイ氏が“every single”の部分を強調している様子を見て、「誰ひとり、欠けることなく」というニュアンスは入れた方が良いと判断。その結果「一人ひとり」という表現を使うことにした。
また真田氏は、力強いメッセージを一言ひとことしっかりと発言していた。そこで間を大切にし、言葉の重みが伝わるような表現を吟味したという。真田氏の過去のキャリアやインタビューを時間の許す限りリサーチし、そこから得た真田氏の謙虚な人柄に合うように「身に余る光栄です」など、普段なら少し堅苦しく感じる表現もあえて取り入れた。自身も翻訳をしながら繰り返し見て感動したシーンであるため、「字幕で見た人にもその感動を余すところなく伝えたい」という思いで取り組んだ。
アワード番組の翻訳には様々なスキルが求められる。とはいえ、まずは「エンタメが好き」という気持ちを持っていることが第一だ。数々の歴史的瞬間が訪れるアワードを共に楽しみ、自分が感じた感動を日本のエンタメファンにも伝えたいという熱意が翻訳の質に大きく関わってくる。「映画やドラマが好き!」という人は、ぜひアワード番組の翻訳担当を目指してほしい。
第76回エミー賞の字幕版はU-NEXTにて現在も独占配信中。ぜひご覧ください!
詳細は▶こちら
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