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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #41 “死ぬ気でやってごらん、死ぬ前にできるよ” 2011年の記憶と現在●先崎 進(MTC映像翻訳ディレクター)

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #41 “死ぬ気でやってごらん、死ぬ前にできるよ” 2011年の記憶と現在●先崎 進(MTC映像翻訳ディレクター)

2011年、リーマンショックのあとの失業期間を経て、私は契約社員として働きながら、JVTAで英日映像翻訳実践コースの土曜クラスを受講していた。さらにその年には、かつて経験したことがないほどの大地震を体験した。いろいろなことが本当に大変だった。

会社員をしながらスクールに通学していた当時、毎週水曜は決まって課題の仕上げで徹夜、木曜は朝5時に課題をメールで送信。横になるとそのあと起きられないので、エスプレッソ・コーヒーを飲んでそのまま仕事に行った。金曜日は、尋常ではない疲労感と眠気で、目を開けているだけでも精一杯だった。間近で見ていた家人は「本当に死ぬんじゃないかと毎日ハラハラしていた」のだとか。

当時の職場の上司だったMさんの言葉は、私の記憶に深く刻まれ、今でもたまに思い出す。眠気と闘いながら懸命に作業していた時のことだ。「大丈夫?」とMさんから声をかけられた。心配してくれて声かけてくれたのかと思いきや、満面の冷たい笑みでこう言われた。

「あなたが映像ナンタラの勉強していようが、酒を飲み歩いていようが、私と会社には一切関係ないんだよね。仕事はキッチリやってもらうから」

私はその言葉を聞いて、体中の血の気が引いていくのを感じたが、眠気も一気に吹き飛んだ。こんなに不愉快極まりない言葉はないとも思いながらも「トライアルに絶対に合格する」と自分に決意させてくれた。

計画停電で電車がしょっちゅう止まり、動いている電車を何とか乗り継いで職場に向かう途中、渋谷の駅で衝撃的なコピーが私の目に飛び込んできた。確か転職エージェントの広告コピーだったと思う。その言葉を持ち歩いていたノートに夢中で書き留めた。

「死ぬ気でやってごらん、死ぬ前にできるよ」

2023年の今なら、パワハラやモラハラを助長するような不謹慎な表現として問題になるかもしれないし、決して自分から人に勧められるような言葉でもない。だが、その当時の自分にとってはとても真実味があり、夢に向かって突き進む力を確かに与えてくれた。

強烈な言葉とは、劇薬であり、人の心をえぐり、深く傷つける鋭い刃にもなる。でも危険だからと言って、人間が本来持っている毒や牙を排除して、当たり障りのないスマートな言葉を並べてやり過ごそうとする大人は、人間としての底の浅さというかどこか嘘っぽさが透けて見えるような気がしてならない。例えば「慎重に検討する」「適切に判断する」「丁寧に説明していく」という言葉を聞いて、果たしてどれだけの人が心動かされているのだろうか。

今、映像翻訳を学ぶ上で、ディレクターとしてもう少し具体的な話を皆さんにしよう。

人から言われて嫌だったことも、悲しかったことも、憤ったことも、書き留めておくとよいと私は思う。それは受けた痛みや恨みを忘れないためではない。一生消えない傷を相手に負わせることができる言葉の刃を「自分は決して使わない」と再確認するためだ。また、人から言われて嬉しかったこと、感謝や感動の言葉もぜひ書き記しておいてほしい。「いつか人の心を動かせるような言葉を書ける人間になりたい」と思うなら、まずは自分が心動かされた体験から書こう。

①計画停電の前に、電車に乗ろうとする人たちの列
②電車が動かず 駅のホームで仕事する男性

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Written by 先崎 進

せんざき・すすむ●メディア・トランスレーション・センター(MTC)ディレクター。主にドキュメンタリー案件の受発注を担当する。主な映画作品は『ソニータ』『アレッポ 最後の男たち』など。
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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
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