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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #43 こだわりのカフェインレス・コーヒー●桜井徹二(学校教育部門)

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #43 こだわりのカフェインレス・コーヒー●桜井徹二(学校教育部門)

以前、このコラムで受講生さんからよく聞かれる質問のひとつ、「自分の翻訳原稿を客観的に見直す方法」について書いた。その他によく聞かれる質問としては、「どんな人が映像翻訳者に向いているか?」というのがある。ほとんどの人にとって映像翻訳に取り組むのは初めてなので、「果たして自分は映像翻訳に向いているのだろうか?」と疑問に思ってしまうのはとてもよく理解できる。

この質問には僕はいつも「こだわりがないタイプの人、バランスが取れた人」と答えてきた。映像翻訳では扱う映像のジャンルやテーマもさまざまだし、1つのセリフを翻訳する時にも正しいインプット、アウトプットはもとより、背景情報やトーン、その他多くのルールや決まり事まで意識し、あらゆる点を差配しつつ(もちろん強弱はあるが)訳文にまとめなくてはならない。そういう意味では、1つのことにこだわって視野を狭くせず、いろんなことをバランスよく考えられるクールな視点が必要である――というのが一応の理由だ。

じゃあそういう自分はどうなんだ? と、もし問われたら「まあまあそうかもな」と思う。クールかどうかは別として、あまりこだわりはないほうだ。「大事な日の朝には必ずこれをやる」とか、「玄関の靴はきっちり並べておかないと気が済まない」みたいなこだわりは特に思いつかない。食事なんかでも多少の好き嫌いや好みはあるが、強いこだわりみたいなものはあまりない。

たとえば「こだわりのなさ」で思い出すのは、少し前に4~5人のスタッフと雑談していた時のことだ。何かの流れでコーヒーについての話になった。そこにいたスタッフはみんなコーヒー好きで、銘柄や淹れ方のこだわりについての話で盛り上がっていた。僕は無垢なうさぎのようにふんふんと話を聞いていたのだけど、そこでふと「桜井さんはコーヒーは好きですか?」と聞かれた。僕が「一日に何杯も飲む」と答えると「へえ~! じゃあこだわりはありますか?」と聞かれた。そこで僕は「たくさん飲むからカフェインレスのコーヒーにしてるくらいかな」と答えた。するとどうやら完全にノリが違ったようで、(カフェインレスか…)というあからさまに微妙な空気になった。

今もあの空気を思い出すと無垢なうさぎだった頃に戻りたい気分になるが、あの反応は当然といえば当然だとは思う。総じて言えば味わい深いとはいえないカフェインレス・コーヒーを常飲しているなんて、コーヒー談義を期待した側からすれば思わず呆れてしまうほどのこだわりのなさだと感じるのも無理はない。

ともかくそんなこともあって、自分は特にこだわりのない人間という認識でいた。だけど最近、その認識を覆されることがあった。これもコーヒーがらみの話だが、僕がある人に対して「どうしてもコーヒーを飲みたくなると、ミーティングの5分前でも大急ぎでコーヒーを淹れている」という話をしていた。するとその人から、「すごくこだわりがあるんですね」と言われたのだ。

確かに飲んでいるのはカフェインレス・コーヒーではあるけれど、別の視点で見れば「そうまでしてコーヒーを飲むことにこだわりがある人」と言えなくもない。または別の視点で見れば「カフェインレス・コーヒーを飲むことにこだわりがある人」と言うこともできるかもしれない。どれが正しいわけでもなく、どれも1つの見方に過ぎない。要するに、「自分がどんな人間であるか」という認識は、自分が思っているよりも不確かなものなのだ。

だから、「どんな人が映像翻訳者に向いているか?」という質問に対しての僕なり(他の誰かなり)の答えが、もし自分で認識しているつもりの自分とは違ったとしてもそれはただの一面的な捉え方に過ぎない。別の人から見たら、あなたという人間に対してきっとまた別の捉え方がある。もしかしたら真逆の捉え方かもしれない。だから「自分が向いているかどうかなんてことはあまり気にする必要はない」というのが最近の僕の考えだ。

ある視点から見れば「不向き」となるかもしれないが、少し視点が変われば全くそうではないかもしれない。そもそも「こんな人が映像翻訳者に向いている」なんていう意見自体も、やっぱりどうしたって一面的な見方でしかない。だから映像翻訳者を志している人は、向き不向きなんていうことはあまり考えずにいてくれたらと思うのだ。

ちなみに、僕が普段飲んでいるカフェインレス・コーヒーは実は3種類くらいを飲み比べて一番おいしいと思ったものを選んでいる。だけど(と言っていいかわからないけれど)、銘柄はセブン-イレブンだ。こだわりがあるのかないのか、やっぱり自分でもよくわからない。

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Written by 桜井徹二
日本映像翻訳アカデミー・学校教育部門
さくらい・てつじ●JVTAの映像翻訳ディレクターとして、MTVやBBCのドラマ、ドキュメンタリー、リアリティ番組やMOOC(大規模オンライン公開講座)用字幕などを手がける。本科のほか、明星大学、青山学院大学などの教育機関でも講師を務める。『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』(小社刊)の執筆にも参加。
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