【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #51 『ビバリーヒルズ高校白書』に魅せられて●片柳伊佐(MTC映像翻訳ディレクター)
今年の7月、ハリウッド俳優の訃報が伝えられた。シャナン・ドハーティ、53歳。そのひと月後には、声優の田中敦子さんの逝去が報じられた。二人の訃報を聞いて一気によみがえったのは、『ビバリーヒルズ高校白書/青春白書』の記憶だ。シャナン・ドハーティはその主演であり、田中敦子さんはシャナンの役ではないが、日本語吹き替え版で声優を務めていた。
『ビバリーヒルズ高校白書/青春白書』は1990年代にアメリカで絶大の人気を誇ったドラマシリーズだ。ストーリーは、ブランドンとブレンダの双子の高校生が、アメリカ中西部のミネソタ州からカリフォルニア州のビバリーヒルズに引っ越したところからスタート。同級生のきらびやかな生活にカルチャーショックを受けながらも、徐々に溶け込み、大学生、社会人として成長していく姿を描いている。
日本では1992年から、NHK衛星放送で英語と日本語吹き替えの2か国語放送が始まった。そして、こんなことを書くと年齢がバレてしまうが、当時、自分とそう年の変わらない高校生を主役にしたこの番組によって、私の英語の基礎は作られたのだ。
それ以前から映画やドラマが好きで、海外ドラマもいくつか見ていた。そして、インターネットなんてない時代にどうして知ったのか、「ビバリーヒルズを舞台にしたアメリカの大人気ドラマ」が日本でも放送されると聞きつけ、満を持して第1回から見た。その結果、今の言葉で言えば、どハマりしたのである。作品で描かれるアメリカ文化や高校生活はまぶしく、たびたび触れられる社会問題などは勉強にもなる。さらに、当初は日本語吹き替えで見ていたが、次第に「元の英語でどう言っているのか知りたい!」と思うようになった。
当時はVHSビデオの時代。ビデオレコーダーの取扱説明書を隅々まで読んで、英語と日本語の両方の音声を録画する方法を突き止めた。それからは毎話毎話、放送の時間になるとテレビの前に座って二重音声で録画。その後はまず日本語で一通り見てストーリーを楽しみ、気になる部分を巻き戻して英語で見るようになった。
昨今の動画配信サービスのように字幕を出すこともできないので、英語のセリフの正解はわからない。自分で答えを見つけるまで、つまり聞き取れるまで、何度も同じところを繰り返し見た。それが結果的に、英語の発音やヒアリング力を高め、ボキャブラリーや言い回しの引き出しを増やすことにつながったと感じている。
それ以降も『ER 緊急救命室』や『アリー♥my ラブ』など好きな海外ドラマはあったが、前者は医療用語、後者は法律用語が難解すぎて、英語で見ることは早々に断念した。『ビバリーヒルズ高校白書/青春白書』は高校生・大学生の会話が中心で、取り上げるテーマもさほど難しくなかったことが、当時の自分の英語のレベルとも合っていたのだと思う。海外コンテンツで英語を学習するには、自分が好きでかつ身近な内容のもので、というのはいつの時代でも言えることかもしれない。
放送開始から約30年。VHSテープに必死に録画をしていたこのドラマも、その後にDVDとして発売されたり、動画配信されたりしたこともあったようだ。今なら英語字幕をオンにして、30年越しに聞き取りの答え合わせをすることも可能だろう。またいつか、どこかの動画配信サービスで見られるようになることを願っている。
最後に、シャナン・ドハーティと田中敦子さんのご冥福をお祈りするとともに、素晴らしいコンテンツを届けてくれたこと、そして(ご本人たちは意図していないとは思うが…)英語学習の機会を作り出してくれたことに感謝の意を表したい。
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Written by 片柳伊佐
かたやなぎ・いさ●MTC(メディア・トランスレーション・センター)ディレクター。メディア・広告関係のリサーチ会社に長年勤務したのち、JVTAで映像翻訳を学ぶ。映像翻訳者としてスタートし、現在は映像翻訳ディレクターとしてテレビ放送番組の字幕・吹き替え翻訳や、企業関連動画やテキストの翻訳などのディレクションを手がけている。
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