【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #54 ほろ苦いチョコレートの話●池田明子(広報)

チョコレートは奥が深い。
2016年、第1回チョコレート検定(株式会社 明治が主催)を受験し、「ショコラアドバイザー」の称号(現チョコレートスペシャリスト。「ショコラアドバイザー」は初回検定時限定の称号)を頂いた。そしてこれを機に、チョコレートに関する書籍をいくつも手に取るようになる。チョコレートの歴史からカカオの品種や生産国、各産地の味や風味の特徴、チョコレートの製造方法、チョコレートの4大発明、BEAN to BAR、さらにはザッハトルテの商標権をめぐる裁判まで、チョコレートにまつわる様々なことを学んだ。セミナーにも参加し、カカオやカカオ豆の現物に触れたり、生産地やカカオの含有率、焙煎の時間などによる味の違いやドリンクとのマリアージュを体験したりして、もともと好きだったチョコレートへの愛がより深まった。
チョコレートといえば、バレンタイン。チョコレートジャーナリストの市川歩美さんの著書「チョコレートと日本人」(ハヤカワ新書)には、日本のバレンタインの歴史が詳細に紹介されている。日本では1970年代に女性から男性に愛を伝えるためにチョコレートを贈る日として広く定着、80年代には「本命チョコ」「義理チョコ」という言葉も生まれた。
この「義理チョコ」という言葉は、BBCの取材で「obligation chocolate」と英訳された。市川さんはこの翻訳に「責任」や「責務」という抑圧的なイメージが強調されすぎる気がしたそうで、むしろ、「感謝」を示す「儀礼チョコ」というニュアンスに近いのではないかという見解を示している。確かに義理チョコの英訳を検索すると「courtesy chocolate」などの表現も出てくる。私もかつて学校や職場でお世話になっている人に義理チョコを渡していた経験から、こちらのニュアンスの方がしっくりくる気がする。令和の今は「義理チョコ」も鳴りを潜め、「自分チョコ」を買う人が増えているという(私もその一人だ)。海外発祥でありながら、日本で独自の変化を遂げてきたバレンタインという文化。その背景を伝えずに、言葉だけを翻訳して真意を伝えるのは難しい。
私のチョコレート好きはあくまで趣味の域を出ないと思いきや、意外な形で仕事に活かされることになった。アメリカの「ダンデライオン・チョコレート」のオフィシャルブックの翻訳をJVTAの修了生たちが手がけ、その翻訳チームのリーダーに取材することになったのだ。翻訳チームは「チョコレート」「スイーツ」「グルメ」「料理」などに興味を持つ13名。原文を正しく解釈するため、翻訳前に日本の店舗で製造過程を見学したという。取材にあたり、私も完成した分厚い日本語版を読んだ。カカオの栽培から収穫、カカオ豆に加工されてチョコレートに仕上げられていく製造過程、チョコレートを使ったレシピなどが詳細に解説された同書は専門用語の嵐だったが、あらゆる本やセミナーでその工程を学んでいた私は驚くほどすんなりと理解することができた。翻訳の仕事にはあらゆるジャンルがあり、どんな知識が役に立つか分からない。それを改めて実感した。
◆取材記事は▶こちら
日本では華やかなイメージがあるチョコレートだが、原料であるカカオの生産地に目を向けるとさまざまな課題が見えてくる。カカオは、赤道を挟んで北緯20度~南緯20度のカカオベルトとよばれる熱帯地域で栽培されており、日本に輸入されるのはガーナ産が最も多い。高温多湿の地での生産は過酷で、児童労働という問題もある。現地では生産者でありながらチョコレートを食べたことがないという人も多いという。昨今は、生産地の天候不順などにより、カカオ豆の価格高騰も懸念されている。そこで日本の大手メーカーはカカオ生産地と交流を深め、現地の生産者の労働環境を向上する取り組みとして、「メイジ・カカオ・サポート」(株式会社 明治)、「1チョコ for 1スマイル」(森永製菓株式会社)、「ガーナ共和国のカカオ豆生産地での活動」(株式会社ロッテ)などを行っている。また、これまでは多くが廃棄されていたカカオ豆の種皮(カカオハスク)を原料にした雑貨や、カカオ豆を覆うゼリーのような甘酸っぱい果肉(カカオパルプ)を使ったジュースやお菓子が作られるようになり、カカオの再利用も始まっている。
日本のチョコレート市場はバラエティに富んでおり、コンビニやスーパーには、昔から馴染みのあるミルクチョコレートやポッキー、チョコパイなどのお菓子に加え、昨今は高カカオチョコレートや機能性チョコレートなど多彩な商品が並んでいる。また、百貨店などでは国内外のショコラティエによる高級チョコレートも人気だ。チョコレートファンとしては、こうした華やかな面だけでなく、その背景にある現実にも関心を寄せていきたいと思う。私たちが日本でチョコレートを食べられるのは、遠く離れた国でカカオを生産してくれる人たちのおかげなのだから。知れば知るほどチョコレートの世界は奥深く、その探求には終わりがなさそうだ。
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Written by 池田明子
いけだ・あきこ●日本映像翻訳アカデミー・コーポレートコミュニケーション部門所属。English Clock、英日映像翻訳科を受講後、JVTAスタッフになる。“JVTA昭和歌謡部”のメンバーとして学校内で昭和の歌の魅力を密かに発信中。
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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
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