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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #55 からあげになりたい●板垣七重(翻訳事業推進部)

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #55 からあげになりたい●板垣七重(翻訳事業推進部)

 ある休日の午後のことだった。駅に向かう大通りで信号待ちをしていたら、となりにいた親子の会話が聞こえてきた。4歳くらいの男の子と、そのお父さんだ。

お父さん:「○○は将来何になりたい?」
息子:「からあげ!」
お父さん:「そうか、人気者だもんな!」
息子:「うん!」

 清々しい思いがした。からあげになりたいと声高らかに宣言する男の子の無邪気さに、さらには息子の夢をありのままに受け止めて応援するお父さんの懐の深さに。でも、無邪気なんて言葉で片づけるのは何か違う。幼い子どもには常識なんてない。この男の子にとって、からあげになることは現実の目標であり、真実なのだ。

 子どもが見る世界ほど自由で想像力に富むものはない。一昨年に娘が生まれてから私は絵本をよく読むようになった。ストーリーテリングの媒体として絵本が魅力的である理由のひとつは、その非常識な設定にある。動物たちは人間の言葉を話し、森でパンケーキを焼いてお茶会を開く。裏庭の木にはチョコレートがなり、金魚は自由に空を飛ぶ。世の中の常識は絵本ではむしろ滑稽で、型破りなストーリーほど読み手の心に響く。だから男の子はからあげを食べない。からあげになるのだ。

 映像翻訳というクリエイティブな翻訳の世界では、翻訳者にも想像力が求められる。作り手の思いや感性を共有できる思考の柔軟さが必要だからだ。「友だちは大切」というテーマひとつをとっても、ストーリーの設定は無限にあり、表現する言葉の選択肢も無限にある。翻訳する側は常に、作品の世界を理解して別の言語で語れるよう準備をしておきたい。絵本の自由な発想に触れていると、自分の思考の幅が少しずつ引き延ばされて、言葉の表現力が育っていくような刺激がある。

 普段あまり絵本を読まないという方へ、参考までに、最近私が読んだ作品をいくつか紹介したい。図書館でも、本屋さんでも、表紙やタイトルが少しでも気になる絵本があったら、今度手に取って読んでみてほしい。

「お月さまってどんなあじ?」
作・絵:マイケル・グレイニエツ
訳:いずみ ちほこ
書籍情報:https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=1925
らんか社公式X:https://x.com/rankasha
 夜空に浮かぶまんまるい月はどんなあじ? 好奇心旺盛な小さなカメがある晩、月をかじってみようと山に登る。一匹では背が足りないと知ったカメはゾウを呼ぶ。それでも届かないのでゾウはキリンを呼ぶ。そしてキリンはシマウマを呼ぶ。みんながみんなの背中に乗ってついに月をかじることができたとき、それはどんなあじがするのだろうか。原作は英語だが、オノマトペを随所に使った日本語訳の文章がとても美しく、リズミカルで心地よい。和紙で作ったような柔らかい凹凸のある絵は、触れたときの優しい手触りが感じられるほど丁寧に描かれている。

「もう ぬげない」
作・絵:ヨシタケシンスケ
ブロンズ新社:https://www.bronze.co.jp/books/post-115/
 「りんごかもしれない」など、ユーモラスなストーリー展開で人気のヨシタケシンスケさんの作品。主人公は、シャツを自分でぬごうとしたものの途中で引っかかってしまった「ぼく」。両手を挙げてお腹を出した格好で前が見えなくなった「ぼく」は、この先ずっと服がぬげずに大きくなったらどうするか、ひたすらポジティブに想像していく。そのあまりの前向きさに、人生何があってもどうにかなるかなと思えてしまう。仕事や勉強などで悩んでいるときにもおすすめしたい。

「ぼくはぼくのえをかくよ」
作・絵:荒井 良二
Gakken:https://hon.gakken.jp/book/1020334400
 一本の黒くて長い線を描くところから始まるお話。線は、想像力によって水平線となり、そこから空が現れ、海が生まれ、大地につながっていく。ページを開くたびに大胆な色使いや構図に驚かされ、次は何が起こるのか、どこへ行くのかとワクワクさせられる。子どもの目に映る世界がいかに自由で力強いかが伝わってくる。情報量の多い映像とは違い、絵は見る側が想像を膨らませる余白を残してくれる。


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Written by 板垣七重
いたがき・ななえ●日本映像翻訳アカデミー・映像翻訳ディレクター。実務翻訳者を経てJVTAに入学し、映像翻訳を学ぶ。英日映像翻訳科と日英映像翻訳科両コースを修了。英日、日英の映像翻訳者として活躍し、現在は吹き替え翻訳を数多く担当している。

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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!

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