★GW2019特別企画 先輩翻訳者から学ぶスキルアップ法 【出版翻訳・台本翻訳編】小林美麗さん
★GW2019特別企画 先輩翻訳者から学ぶスキルアップ法 【出版翻訳・台本翻訳編】小林美麗さん
現在公開中 映画『ビューティフル・ボーイ』
原作本『ビューティフル・ボーイ』(オークラ出版)を翻訳 修了生・小林美麗さん
ペンネームは市ノ瀬美麗。ミュージカルなどの台本翻訳や出版翻訳を手がける。主な作品は、書籍『イエスの遺言書』(上)(下)『復讐と愛のはざまで』『復讐の連鎖』『禁じられた恋を公爵と』『ヴァンパイア・ダイアリーズ』シリーズ(いずれもオークラ出版)など多数。
※記事中の書影はこれまで小林さんが翻訳を手がけた作品
※『ビューティフル・ボーイ』 著 : デヴィッド・シェフ(オークラ出版)
『ビューティフル・ボーイ』は、薬物依存に苦しむ息子ニックとそれを見守る父親デヴィッドの絆を描く実話です。映画でニックを演じるのは、『君の名前で僕を呼んで』の繊細な演技が話題となり、“ミレニアム世代のディカプリオ”と称されるティモシー・シャラメ。ニックは8年かけて薬物依存を克服し、現在は脚本家としてNetflixで配信中の『13の理由』などを手がけています。
映画は父親と息子がそれぞれの立場で書いた2冊を融合して映像化したもの。小林さんが翻訳したのは父デヴィッド・シェフの著作です。映画では、『フォックスキャッチャー』や『The Office』のスティーヴ・カレルが父親を演じています。
JVTA 『ビューティフル・ボーイ』の魅力を教えてください。
小林美麗さん(以下小林さん) 本書は、ジャーナリストであり作家であるデヴィッド・シェフによる自伝です。息子のニックがアルコールとドラッグの依存症になり、長年にわたってリハビリと再発を繰り返すあいだの出来事を過去の回想やドラッグのリサーチなどを交えながら綴っています。
よくある依存症者本人による手記とは異なり、依存症者がいる家族の視点から、依存症との向き合い方について書かれています。依存症者がいる家族はどんな思いをしているのか、どれだけ苦しんでいるのか。そんな独特な切り口で依存症について取り上げられている作品です。息子のために奮闘し、ニックが何度クスリに手を出しても決して見捨てない父親デヴィッドの愛情に心を打たれると同時に、苦悩や葛藤もひしひしと伝わってきます。
※『復讐の連鎖』著 : マヤ・バンクス (オークラ出版)
JVTA 翻訳するうえで苦労した点、工夫した点はありましたか?
小林さん 一番大変だったのは、事実確認のための調べ物です。著者のデヴィッドがジャーナリストということもあり、ドラッグの歴史的背景や、依存症の要因・治療法など、多岐にわたるリサーチに基づいて詳細に記されています。さらに、初版が出版されたのが2008年だったため、現在とは情報が異なる点もあり、事実確認には苦労しました。他にも、書籍や映画や音楽などが数多く言及されたり引用されたりしているため、その点も調べ物が大変でした。
※『イエスの遺言書(上)(下)』著 : エリック・ヴァン・ラストベーダー(オークラ出版)
工夫した点は、この作品にかぎらず書籍翻訳の際はつねに気をつけていることですが、とにかく読みやすい日本語で表現するように心がけています。
JVTA 小林さんはミュージカルの台本なども翻訳されています。台本翻訳、映像翻訳、書籍翻訳を比べてみてどんな違いがありますか? 意識して取り組んでいることを教えてください。
小林さん 台本翻訳と出版翻訳ですが、映像翻訳と違って視覚情報(映像)がない分、想像力が必要になってくると思います。文字や文章だけから、このセリフはどういう気持ちで言っているのか、この表現はどういう状況を伝えたいのかなど、頭の中でイメージをふくらませることが大切だと考えています。
さらに、台本や小説は文字だけでそれを分かりやすく、読みやすく伝えなければならず、そこが映像翻訳と違って台本翻訳や出版翻訳の大変な点であり、また、醍醐味でもあると言えるかもしれません。
※『禁じられた恋を公爵と』著 : エリザベス・キージャン(オークラ出版)
一方で、小説や音楽などは自分で自由に想像できるのが魅力でもあります。『ビューティフル・ボーイ』の翻訳作業をしていたときには、すでにアメリカで映画が公開されていたので、俳優さんたちをイメージしながら訳していました。個人的に父親役のスティーヴ・カレルが好きなので楽しい作業でした。
JVTA ある意味で映像翻訳とは対極にある作業ですが、共通点はありますか?
小林さん 共通点は、どれもセリフはセリフらしく訳すという点でしょうか。
特に台本翻訳はほとんどがセリフです。セリフだけで感情や背景などを表現しなければならないので、その点を意識して訳すようにしています。
小説ではセリフだけでなく、状況を説明する地の文もあり、そのシーンの背景や感情などが想像しやすいと思います。映像翻訳では、字数制限があるため、情報の取捨選択が必要ですが、書籍翻訳は基本的に原作にある情報はすべて落とさずに訳出します。ですから、原文の細部の表現にも気を配って読み物として面白い表現を考えています。地の文の文体によって作品全体のイメージが変わってくるので、まず原文で全体をざっと読んで自分が受けたイメージを基に言葉の選び方や語尾などのトーンを決めています。
JVTA 映像翻訳を学んだことで出版翻訳に活かせていることなどはありますか?
小林さん 字数が限られている映像翻訳では、制作者の意図を汲み取って短く簡潔にまとめることを学びました。その点が、出版翻訳でも、冗長で分かりづらい文章が出てきた際に、著者が言いたいことを汲み取って自然な読みやすい日本語で表現するのに役立っていると思います。
※『復讐と愛のはざまで』著 : マヤ・バンクス(オークラ出版)
JVTA 出版翻訳や台本翻訳を目指す方にお勧めの勉強法があれば教えてください。
小林さん やはり大切なのは日本語の表現力だと思いますので、いろいろな本をたくさん読むということでしょうか。ジャンルが異なれば文体も変わってきますし、様々な作品に触れることで、日本語での表現方法を学べるのではないかと思います。また、今は簡単に原書が手に入るので、好きな作品の訳書と原書を突き合わせながら読むのもいい勉強になるかもしれません。
JVTA 原書と訳書の読み比べは楽しく学べますよね。これは本当におすすめです! 皆さんもぜひ、挑戦してみてください! ありがとうございました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
原作本を読んでから映画を観るか?
映画を観てから原作本を読むか?
ぜひ両方の視点で『ビューティフル・ボーイ』を堪能してください。
『ビューティフル・ボーイ』著 : デヴィッド・シェフ(David Sheff)
オークラ出版 公式サイト
映画 『ビューティフル・ボーイ』
公式サイト
★JVTA ロサンゼルス校のスタッフと留学生が映画『ビューティフル・ボーイ』の特別Q&Aとパーティーに参加しました!
詳細はこちら
【関連記事】
★2019GW特別企画 先輩翻訳者からスキルアップ法 【吹き替え編】瀬尾友子さん
https://www.jvta.net/tyo/gw2019-yuko-seo/
★2019GW特別企画 先輩翻訳者から学ぶスキルアップ法 【字幕編】岩辺いずみさん
https://www.jvta.net/tyo/gw2019-mirei-kobayashi/