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【「ヘルヴェティカ・スイス映画祭」代表 松原美津紀さんインタビュー】映画でスイスと日本を繋いだ10年の軌跡

【「ヘルヴェティカ・スイス映画祭」代表 松原美津紀さんインタビュー】映画でスイスと日本を繋いだ10年の軌跡

「ヘルヴェティカ・スイス映画祭」が11月9日(土)に神戸の元町映画館で開幕する。この映画祭を主催するのは、スイスで2014年から「GINMAKU日本映画祭」を開催する松原美津紀さん。10年にわたり、英語字幕つきの日本映画の上映をチューリッヒで続けてきた。満を持して第1回「ヘルヴェティカ・スイス映画祭」が日本で開催されたのは、2019年。しかし、コロナ禍もありブランクが空いていたが、今年ようやく第2回の開催が決定した。今年は新旧のスイスの名作を上映。JVTAは3作品の字幕制作に協力している。スイスは公用語が4言語あり、街なかの表示やテレビ、映画の字幕なども複雑だという。そんなスイスの言語事情やスイス映画の魅力について、同映画祭代表の松原美津紀さんに話を聞いた。

「GINMAKU日本映画祭」が誕生したのは、日本とスイスの国交150周年にあたる2014年。スイスで新旧の日本の作品を上映する唯一の日本映画祭だ。今年2024年5月には10周年を迎え、コメディ・SF映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』、小林聡美さんと松重豊さん主演の『ツユクサ』、ドキュメンタリー『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』など14作品が上映された。

今年の会場の様子

「この10年で、特に人気が高かった作品は、伏原健之監督の『人生フルーツ』、近浦啓監督『コンプリシティ 優しい共犯』、田中絹代監督『乳房よ永遠なれ』です。『人生フルーツ』はアンコール上映をするほど人気の作品で、繰り返し見てくださるリピーターの方もいらっしゃいます。『乳房よ永遠なれ』と共に、涙される方が多くいらした作品で、上映後にボックスティッシュを持ち観客の方をお待ちしました。ティッシュを手に持っている主催者を見て、観客の方は泣き笑い!お越しくださる観客の方々が、毎年少しずつ感情を外に出して鑑賞されるようになり、とても嬉しく感じています。『コンプリシティ 優しい共犯』は、近浦監督にスイスまでお越しいただき、活発な質疑応答が行われました。来日後に劣悪な職場環境から逃げ出し、不法滞在者となってしまった中国人の青年の姿を描いた劇映画なのですが、作品をご覧いただいた若い世代の観客の方々から特に多くの反響をいただきました。実際に両親がスイスに不法滞在をした上で、今の自分のスイスでの生活が成り立っているとメッセージを送ってくださった方や、自分自身の人生と作品の登場人物たちを照らし合わせ、さまざまなことを感じ、救われた気持ちになったという方もいらっしゃいました。どれも忘れがたい、大切な思い出です。『GINMAKU日本映画祭』は、多くの方々に支えていただき、今年で10周年を迎えました。この10年でスイスから日本を訪れる人は一段と増え、日本への文化理解が深まっていると感じています。実は『GINMAKU日本映画祭』の常連さんが神戸で開催するヘルヴェティカ・スイス映画祭のために来日されるというお話も頂きました。」(松原美津紀さん)

スイスでは、ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の4言語が公用語とされている。「GINMAKU日本映画祭」には10代〜80代までの幅広い年齢層に加え、約30カ国とさまざまな国籍を持つ人たちが参加しているという。チューリッヒで暮らす松原さんは日々どのように言語と向き合っているのだろうか。

チョコレートのパッケージもドイツ語、フランス語、イタリア語が併記されている

「商品パッケージや広告などは、その地域で話されているそれぞれの言語バージョンを作成する必要があります。商品によっては、ドイツ語・フランス語・イタリア語を同時表記するものも多いですが、ロマンシュ語は話者が少なく、残念ながらほとんど省かれてしまうことが多いのが現状です。『GINMAKU日本映画祭』の上映作品は、英語字幕での上映となります。チューリッヒはとても国際色豊かで、ドイツ語を母語としない人が多く暮らしているためです。英語圏の作品は、ドイツ語圏ではドイツ語字幕、フランス語圏ではフランス語字幕といったように、地域によってDCPをそれぞれ作成します。または、ドイツ語とフランス語が2段になって表示される作品も多いです。」(松原美津紀さん)

『白い町で』

今年の「ヘルヴェティカ・スイス映画祭」の上映作品もオリジナル言語は「スイスドイツ語」「フランス語」「ポルトガル語」「英語」「セルビア語」「タミール語」など多岐にわたる。JVTAが字幕を担当したのは、『白い町で』と『旅路』『マイ・スイス・アーミー』の3作品。基本的には英語字幕を基に日本語字幕を作成したが、ドイツ語の知識もある翻訳者が字幕翻訳とチェックに携わり、原文のニュアンスを生かすことができた。

『旅路』

「出来上がった字幕を拝見し、見事な翻訳にただただ感動するばかりで、翻訳者の方々の作品に対する温かな眼差し、そして軍事や医療などといった難しいテーマに関して徹底して調査をされるプロの姿勢に感服いたしました。第1回開催時は、すでに日本語字幕がある作品からセレクトしていたので、第二回となる今年のスイス映画祭から、初めて字幕作業をお願いし、日本未公開の作品も上映する夢が叶います。字幕翻訳を仕上げていただくスピードや、きめ細やかなやり取りにたくさんの学びの機会を頂戴しました。心より感謝申し上げます。」(松原美津紀さん)

『マイ・スイス・アーミー』

松原さんは、映画祭の上映作品のセレクトやチラシに掲載の各作品の紹介文作成なども自ら行う。今年はスイス映画の3大巨匠の作品がラインナップされており、日本ではなかなか見ることができない貴重な機会となる。見どころを聞いた。

『ラ・パロマ』

「スイス映画の巨匠と言えば、『山の焚き火』のフレディ・M・ムーラー監督、『光年のかなた』のアラン・タネール監督、『ラ・パロマ』のダニエル・シュミット監督です。公用語として4つの言語があり、国際色豊かなスイスから発表されるスイス映画は、さまざまな文化が交わり、それぞれの言語ならではの特徴が作品に表れます。今年はこの3大巨匠の作品を含む6作品を上映します。ダニエル・シュミット監督の『ラ・パロマ』は50年前の作品で現存する35ミリフィルムでの特別上映です。アラン・タネール監督の『白い町で』の主演は、『ベルリン・天使の詩』や『ヒトラー 〜最期の12日間〜』などで知られるブルーノ・ガンツ。80年代の名作です。彼はフレディ・M・ムーラー監督の『僕のピアノコンチェルト』では天才少年をあたたかく見守る祖父役を演じています。ぜひ両作品共にご覧ください。他にも家族の愛を描いた『マダム』と『旅路』、スイスの兵役にフォーカスした『マイ・スイス・アーミー』など日本初公開となる現代のドキュメンタリー映画も上映します。スイスという国の多様性やスイスに暮らす人々の姿をありのままに感じていただけるような選考を心がけました。」(松原美津紀さん)

『僕のピアノコンチェルト』

松原さんのように、スイスでの日本映画祭と日本でのスイス映画祭と双方向での開催するのはレアケースと言える。両方の良さを知っている松原さんならではのセレクトは、スイス映画の初心者から上級者まで楽しめるはずだ。どうぞお見逃しなく。

『マダム』

◆ヘルヴェティカ・スイス映画祭

11月9日(土)~11月15日(金)

神戸 元町映画館

公式サイト:https://www.h-sff.com/

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