長島祥講師が翻訳を手がけたミュージカル『HOMEMADE FUSION』が上演!
JVTA修了生で、現在は英日映像翻訳科で講師を務める長島祥さん。舞台役者としてミュージカルに出演していた経験を生かして、ミュージカルの台本翻訳やドラマや映画の吹き替え翻訳のスペシャリストとして活躍しています。そんな長島さんが翻訳を手がけたミュージカルの最新作『HOMEMADE FUSION』が2月22日(土)23日(日)に高円寺のStudio Kで上演されます。音楽はマイケル・クーマン氏、脚本と詞はクリストファー・ダイモンド氏が担当。ニューヨークを拠点として活動する彼らは、ミュージカルやディズニーのテレビアニメシリーズなどの映像作品を数多く手掛けています。一般的なミュージカルと一味違う「ソングサイクル・ミュージカル」という手法によるこの作品、その魅力と翻訳のポイントを長島さんに聞きました。
JVTA まず、ソングサイクル・ミュージカルについて教えてください。
長島祥さん(以下、長島さん) 一曲完結型の楽曲で構成されたオムニバス形式のミュージカルです。一般的なミュージカルのような筋だった物語はありませんが、あるテーマに沿った楽曲が集められます。コンセプト・アルバムやコンセプト・ライブのミュージカル版と考えてもらえれば分かりやすいと思います。途中にセリフが入る作品もあれば、セリフは一切なく音楽だけで紡がれる作品もあります。
『HOMEMADE FUSION』のテーマは「自分らしくありたい」。メロディアスなラブソングからコミカルなナンバーまで、あらゆるテイストの楽曲を6人の男女がノンストップで歌い上げます。話の筋を追う必要がないので、ミュージカルというよりも音楽ライブに近いような感覚で楽しむことができる作品です。
(公式サイトより To Excess ホセ・ジャナ)
JVTA では、歌詞対訳がメインなのですね。翻訳において、ソングサイクル・ミュージカルならではの面白さはありましたか?
長島さん 何と言ってもバラエティに富んだ楽曲。『HOMEMADE FUSION』には、病と闘う少女から荒ぶる変態まで(!)、とにかく幅広いキャラクターが登場するので、それぞれの設定や言葉遣いを考えるのは面白い作業でした。とはいえ、詞を作る時にはあらゆるキャラクターのあらゆる感情を追体験するわけで、エネルギーを絞り取られます(笑)。これを歌い分ける役者さんの苦労はいかほどか…と、ただただ敬意を評したくなります。
(公式サイトより Blue Horizon フィービー・ストロール)
JVTA 16曲それぞれに物語とキャラクターがあるわけで、キャラ付けは翻訳者の腕の見せ所ですね。さらに、歌詞対訳ならでの難しさもありそうですね。
長島さん ソングサイクルの楽曲は一曲完結型なので、登場人物のキャラクターや背景、物語の起承転結など、一曲の中ですべてを表現しなければいけない難しさがあります。そもそも英語の歌詞を日本語にすると、半分以下の内容しか入れられません。さらに訳詞の場合、言葉のアクセントやイントネーション、母音なども意識して言葉を選ばないといけないので、必要な内容を漏れなく入れるのは、制約だらけの複雑なパズルのような作業になります。そこが翻訳の醍醐味でもありますが、コレ! という言葉がなかなか浮かばず、1つのフレーズに何日も頭を悩ませることもありました。
(公式サイトより Lost in the Waves アンダーソン・デイビス)
JVTA 短い1曲の中に必要な情報を選んで入れるのは映像翻訳の手法にも似ていますね。他にも訳す上で大切にしたポイントがあったら教えてください。
長島さん ソングサイクル・ミュージカルは音楽そのものを楽しむ側面が強いので、原音の語感を生かすことを意識しました。
具体的には、印象的なロングトーンはできるだけ母音を変えない(例:「me~」で伸ばす音に「に~」の音を入れる)、ライムは日本語でも韻を踏んでリズム感を出す、同じ単語を繰り返し使っている箇所は日本語でも敢えて繰り返す、などといった点です。
一方で、『HOMEMADE FUSION』にはコミカルな楽曲も多いので、笑いがカギとなるナンバーでは思いきって意訳をして、原曲のもつ面白みを伝えることを優先させています。
JVTA 母音や口の形に合わせたセリフづくりは、吹き替え翻訳の手法が生かせますね。
長島さん まさにその通りですね。あともうひとつ、ソングサイクル・ミュージカルの特徴として、楽曲の解釈の幅が広いということが挙げられます。一般的なミュージカルのナンバーは、物語の中で明確な役割があります。でもソングサイクルの場合は一曲一曲が独立しているので、聞き手によって色々な受け止め方ができるのです。もちろん楽曲ごとに大きな設定は決まっていますが、細かい部分は聞く人によって感じ方が違うはずです。そのため、観客の皆さんが想像を膨らませられるような、遊びのある詞を作るよう心掛けました。
(公式サイトより The Temp and the Receptionist パティーナ・ミラー&アンダーソン・デイビス)
JVTA 最後にご覧になる方にメッセージをお願いします!
長島さん ドラマティックでいて耳馴染みのいい楽曲ばかりなので、劇場では「翻訳物」ということを忘れて、『HOMEMADE FUSION』の面白カッコいい世界観を楽しんでいただけたら嬉しいです。
JVTA ありがとうございました。
ソングサイクル・ミュージカル
HOMEMADE FUSION
2020年2月22日(土)~23日(日)
高円寺 Studio K
公式サイト:https://tokyotheatreplace.org/shows/?_fsi=UlWJNnYA
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