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ベテラン通訳者が教える コロナ禍が変えた通訳業界の常識

ベテラン通訳者が教える コロナ禍が変えた通訳業界の常識

翻訳者・通訳者として20年以上のキャリアを重ね、JVTAロサンゼルス校で通訳クラスと実務翻訳クラスの講師を務める比嘉・ディッキンソン・佐恵子さん。長引くコロナ禍でリモートでの交流が日常になった今、通訳者、翻訳者の仕事環境も大きく変化している。ディッキンソンさんに通訳業界の今と通訳者としての心構えを伺った。
 

◆通訳者デビューのきっかけは日経企業の技術翻訳
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「仕事として初めて通訳をしたのは、アメリカで最初に就職した日系の建設会社でした。取引先のアメリカの会社との技術交渉に上司が苦労した際、私が取引先関係の技術翻訳をやっていたので、『出張して通訳をやってみないか』と社長に言っていただいたのがきっかけです。翻訳をやっていたので、テクニカルな内容でも意味がわかり、会議でのコミュニケーションが案外スムーズにいったので、『また次もお願いします』と言われて感激し、通訳の喜びを知りました。(ディッキンソンさん)
 

その後ロサンゼルスに引っ越してから、現JVTAロサンゼルス校の前身である、通訳養成学校「ISS」で訓練を受けた。企業の社内通訳として働く経験を経て、フリーランスの通訳として活躍。ISSの講師やクラスメートとは今も連絡を取り合っており、仕事を紹介しあったりもする。また、社内通訳をした企業の上司や先輩方や同僚とも交流が続いている。
 

◆コロナ禍が変えた通訳者の仕事環境とニーズ
2020年始めから続くコロナ禍は、通訳者の仕事環境も大きく変えた。現場に立ち会わず、リモートで行う実務は時差があるものの、どこの国からもアクセスが可能になった。実際にディッキンソンさんに依頼がくる通訳業務もリモートが増えているという。顧客やエージェントにとって、移動やチケットの確保などの手間を省けるのは大きなメリットだ。
 

「例えばヨーロッパやオーストラリア、日本で開催される会議の通訳としてロサンゼルスの夜中や明け方に働くこともできます。また、タイムゾーンが異なる国の会議の通訳を一日に2回、3回行うようなこともあります。また、通訳者はリモートで通常ビデオをオフにしているので、同じPC画面や別のデバイスで辞書を引いたり、調べものをしたり、スクリプトを見ることもできます。さらに、PCの周りに難しい専門用語をペタペタと貼って、いつでも見られるようにもできます。」(ディッキンソンさん)
 

また、通訳者の新たな仕事のニーズもある。「既存の英語のビデオに日本語の同時通訳を被せる」「ビデオの音声から文字起こしをしてスクリプトを作成し、映像に合わせて日本語を録音する」といった吹き替えのような仕事も増えているという。通訳の仕事の件数そのものが増えていることに加え、同時通訳をした仕事に関連したビデオに字幕をつけるなどオンラインイベントのアーカイブ動画などの需要も高まってきたとディッキンソンさん。AI技術がどんどん活用されており、テクノロジーに強い若い人が参入できる追い風とも言える。
 

◆現場ではなく、自宅で通訳をするにはリスクも伴う
リモートで便利になった反面、自宅が“仕事の現場”になるということは、安定した通信環境や静かな空間などの確保が必要だ。飛行機の騒音や犬の吠え声、アラーム音などはNG。停電やPCのフリーズに備え、自家発電機や背景用スクリーンを購入する人もいるという。
 

また、現場に出向かない分、クライアントや通訳のパートナーとのコミュニケーションが取りにくいというデメリットもある。これまで1日あるいは半日現場で稼働する中でクライアントの要望や担当案件を深く理解できたが、オンライン上で1~2時間の拘束時間ではいきなり本番という感じが否めない。
 

「同時通訳は高い集中力が求められるため、複数の通訳者が待機して通常15分ほどで交替しながら行います。対面なら同じブース内にいるのでパートナーと連携しあい、助け合いながらスムーズに交替できます。しかし、ズームの同時通訳機能はパートナーの声は聞こえない。これをチャット機能などで連携するのは難しい。LINE、FaceTimeなどで連絡するものの、音声に集中していて、LINEのメッセージに気がつかない等、交替時間を過ぎても同じ人がしばらく通訳をやってしまったということもあります。現場ではサウンド関係の担当者も現場にはりついているので、技術的なトラブルにも対処してもらえるのもメリットでしたが、自宅だと自分ですべてに対応しなければなりません。また、依頼が細切れなので、1時間くらいの会議やセミナーの場合、パートナーなしで一人で同時通訳をするパターンも多くなりました。」(ディッキンソンさん)
 

◆今後も増えるオンラインの仕事に対応するには
ZoomやRSI (遠隔同時通訳Remote Simultaneous Interpretation)プラットフォームなどを使ったオンラインの仕事は今後も増えると思われる。今後はこうしたツールに慣れて使いこなせることも通訳者としてのアピールポイントになる。日頃から新しいITツールやアプリへのアンテナをはっておきたい。
 

「お客様も若い方はIT ツールやAIアプリを使って音声認識や簡単な通訳機器も使いこなせるようになっています。ですから他の言語は分かりませんが、今後英語通訳に関しては、よりスムーズな訳出、滑舌のよい美しい発話がさらに求められ、より難易度や完成度の高い通訳が求められるようになると思います。その意味で自分の専門分野を持っている人は、それを極めることで他者との差別化を図れるでしょう。全体の依頼件数が増えている中、新人の方は、急で難しい内容でも自分の専門分野なら思い切ってチャレンジしてみては。」(ディッキンソンさん)
 

◆通訳はサービス業 大切なのはお客様にとって分かりやすく、相手のニーズを満たすこと
ディッキンソンさんが通訳者として意識しているのは、「臨機応変にふるまうこと」「失敗で落ち込むより、分析して次に生かすこと」だという。 そして何よりもクライアントとの関係性をしっかり築くことが和やかな雰囲気を作れる秘訣だ。ディッキンソンさんが尊敬する通訳者は、現場に行った際、最初に少しお話をしてクライアントが何を求めているのかを把握するよう心掛けているそうだ。例えば、「英語がかなり聴けるので、細かいところを正確に訳してほしいのか」「内容をかいつまんで訳して欲しいのか」「セールス関係の華やかなミーティングで、盛り上げることが大切なのか」「高齢者の方々も分かるように易しい言葉を使うのが望ましいのか」など、それぞれの会議の性質やクライアントの意向によって、通訳の仕方もできる限り臨機応変な対応をしたい。
 

「長年NHKのラジオ英語番組「実践ビジネス英語」の講師をされていた杉田敏(さとし)先生が、『英語力とは、雑談ができる能力』とおっしゃっていましたが、対面通訳をする通訳者もまさに雑談能力が大変役に立つと思います。スポーツや流行りの商品、地元のレストラン情報、芸能情報などを知っていると、お客様との緊張をほぐす良い材料―ice breakerになります。お客様の出身地についてリサーチしておくと、共通の話題が生まれ、現場の雰囲気もよくなってきます。エージェントへの労いや、感謝も忘れずに表現すると、次のお仕事につながりやすくなるかもしれません。」(ディッキンソンさん)
 

「通訳は、サービス業―お客様にとって分かりやすく、お客様のニーズを満たす通訳を心がけることが一番大切」とディッキンソンさん。ベテランとして多くの現場で活躍する今でも、自分自身、それが本当にできているか自問自答しており、毎回肝に念じていると話す。ディッキンソンさんのお話からは、通訳者に求められるのは語学力だけではないことがよく分かる。次回は現場で対応できるスキルを身につけるための具体的な学習法についてさらに伺う。
 

★ベテラン通訳者が教える 映像翻訳と通訳の相乗効果とは?
https://www.jvta.net/tyo/instructor-dickinson-learning/
 

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