【修了生の細谷由依子さんが英語字幕】『うつろいの時をまとう』が第41回モントリオール国際芸術映画祭に出品!
JVTA修了生の細谷由依子さんは、英日と日英の映像翻訳コースを修了後、バリアフリー字幕の講座も受講。現在は、映画の字幕や書籍の翻訳など幅広く活躍している。2023年3月、細谷さんが英語字幕を手がけたドキュメンタリー映画『うつろいの時をまとう』(英題 Mantles of Transience 三宅流監督)が第41回モントリオール国際芸術映画祭でワールドプレミア上映、その後日本で劇場公開される。劇場公開時に視聴できるバリアフリー字幕も細谷さんが手がけた。細谷さんが翻訳者としてキャリアの幅を広げてきた経緯やバリアフリー字幕を学んだきっかけ、『うつろいの時をまとう』の字幕制作秘話などを伺った。
細谷さんは、美術を学んでいた大学生の頃のアルバイトがきっかけで、映画や音楽関連のインタビュー記事の通訳や翻訳をするようになった。その後、雑誌編集部で3年間勤務後に独立し、書籍翻訳(英日)に携わる。字幕翻訳を学び始めたきっかけは東日本大震災だったという。
細谷由依子さん「書籍翻訳に携わって10年余りのころ、東日本大震災があり、人はいつ死んでもおかしくないのだということを強く意識しました。そして、今まで時間がないからと諦めていたことをやろうと決心し、JVTAの英日映像翻訳のコースに通い始めました。元々日本の独立系ドキュメンタリー映画が好きで、世界中の人々に観てもらいたいと思っていたのですが、独立系の映画は予算が少ないことが多く、制作段階で英語字幕をつける余裕がないこともしばしばです。しかし英語の字幕がなければ、映画祭への応募もできません。そのジレンマを解消するお手伝いができるようになればと思い、英日コースを終えてすぐに、日英コースも受講しました。」
JVTAで英日・日英の映像翻訳のコースを修了した細谷さんはその後、ドイツの日本映画の祭典、ニッポン・コネクションなどの上映作品『売買ボーイズ』(板子監督、イアン・トーマス・アッシュ製作総指揮)や、2015年の劇場公開作品『躍る旅人―能楽師・津村禮次郎の肖像』(三宅流監督)など多くの英語字幕制作に携わってきた。また、「本を読むときに何が起きているのか ことばとビジュアルの間、目と頭の間」(著・ピーター・メンデルサンド)や「イラストでわかる映画の歴史 いちばんやさしい映画教室」(著・アダム・オールサッチ・ボードマン)など書籍の翻訳でもさらにキャリアを重ねていく。そんな時、三宅流監督の『がんになる前に知っておくこと』の制作に関わる。この作品は、若手俳優、鳴神綾香さんががん治療を専門としている腫瘍内科医、外科医、放射線腫瘍医をはじめとした医療従事者や、がんサバイバーなど15人の方々と対話する様子を捉えたドキュメンタリーだ。
細谷さん「『がんになる前に知っておくこと』は医療系のドキュメンタリーで、日本のがん医療を、日本人に分かりやすく伝える目的で作られました。つまり、この映画には英語字幕よりもバリアフリー字幕が必要だと思い、プロデューサーと監督に提案をしました。当初はバリアフリー字幕の予算が確保されておらず、JVTAのバリアフリー字幕の講座を受講し自ら字幕を作りました(JVTAが監修でサポート)。」
細谷さんによると、『がんになる前に知っておくこと』は2018年に制作されたが、現在も自主上映の要望が多い作品で、聴覚障害者を対象にした上映会ではなくても、バリアフリー字幕付きを選ぶ主催者が多いという。
細谷さん「医学用語が多く出てくるので、字幕がついていることで、聴者もより理解が深まるというご感想を頂きます。バリアフリー字幕や音声ガイドは、障害の有無を問わず、より広範囲に映像作品をお楽しみいただくための可能性を広げてくれるツールだと改めて実感しています。バリアフリー字幕の制作には、とてもやりがいを感じていますが、バリアフリー版を作っても、劇場で公開されないこともあるので、字幕付きの回が当たり前に設けられるようになることを願っています。」
そして満を持して、三宅流監督の最新作『うつろいの時をまとう』では、英語字幕とバリアフリー字幕の両方を細谷さんが手がけた。この作品は伝統の美が最新モードになる、アート感覚のファッションドキュメンタリー。日本の美意識をコンセプトに、「かさね」「ふきよせ」「なごり」など日本古来の洗練された美意識を表す言葉をテーマにしたコレクションを発表し、独自のスタイルを発信し続けている服飾ブランドmatohu(まとふ)の創造活動を追っている。伝統の技や色、文様など日本ならではの表現が多いセリフを英語字幕にする難しさはどんな点だったのだろうか?
細谷さん「matohuのデザイナーの堀畑裕之さんと関口真希子さんが、コレクションのテーマにされていた日本の美意識について、映画の中で丁寧に説明してくださっていますので、お二人の言葉の意味やニュアンスをくみ取って、分かりやすく翻訳することに注力しました。その国の情緒に根差した言葉は、どの言語でも翻訳しづらいものですが、日本語のニュアンスを訳すことに固執してしまうと、英語で考える人たちにとって却って分かりづらくなることがあると思います。日本語が第一言語である私も、徹底した客観性をもって日本語を捉えられているかというと、そうではありませんので、毎回、英語が第一言語の翻訳パートナーと話し合いを重ねながら作業をしています。」
翻訳字幕には字数制限があり、一定の時間で読み切れるように、情報を取捨選択しなくてはならない。一方、バリアフリー字幕は、聴者もろう者も、同じタイミングで同じ情報を得ることができるよう、基本すべての発話を文字にする必要があり、制作には、翻訳字幕とはまた違う工夫が求められる。
細谷さん「バリアフリー字幕は、セリフやナレーションに加えて、話者名や音情報(“鳥のさえずり”、“拍手”、“車の走行音”など)の表示をするといった必要性もあり、必然的に文字数が多くなります。翻訳字幕のように情報の取捨選択ができない分、映像もしっかり見ながら読み切れる字幕にするということが特に難しいと感じます。
ドキュメンタリー映画は往々にして劇映画よりも会話が忙しく、文字量が多いなかで、matohuのお二人は比較的ゆっくりお話しになります。ただ、本作ではファッション用語や日本の美意識といった、耳慣れない言葉も多く出てきますので、話者名の表示が多くならないようにハコ切りを工夫したりすることで、できる限り、発話(セリフやナレーション)以外の文字量を抑える工夫をしました。」
最後に、三宅流監督からJVTAの受講生・修了生の皆さんにメッセージを頂いた。
三宅流監督「『日本の美意識』と聞くと何か難しそうな印象をもたれるかもしれませんが、普段何気なく見ているものの中にも美しさや豊かさを発見していくような作品です。この映画を観終わった後、劇場を出た帰りに道に見る風景が、いつもと違って見えるかもしれません。
せっかく苦労して作り上げた作品なので日本だけではなく、海外にも届けたいといつも思っています。日本語の持つニュアンスや空間性を翻訳するのはとても大変な作業で、意義深く重要なお仕事だと思います。皆さんがいなければ海外に作品を発信することが出来ません。今後とも日本の作品を海外にも届けるために、是非お力をお貸し頂ければと思います。」
『うつろいの時をまとう』は2023年3月14日よりカナダで開催される第41回モントリオール国際芸術映画祭のオフィシャルセレクションに出品され、細谷さんの英語字幕付きでワールドプレミア上映となる。その後、3月25日からイメージフォーラムで劇場公開が決定。今後、世界の反響に期待が高まる。
『うつろいの時をまとう』
3月25日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
製作・配給:グループ現代
コピーライト表記:©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD
https://tokiwomatohu.com/
※第41回モントリオール国際芸術映画祭の公式サイトで英語字幕付きの予告編が観られます。
https://lefifa.com/en/catalog/mantles-of-transience
※クラウドファンディングを実施中
伝統の美が、最新モードになる。
アート感覚のファッションドキュメンタリー『うつろいの時をまとう』を全国の映画館に届けたい!
https://motion-gallery.net/projects/utsuroinotokiomatou
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