修了生の二階堂峻さんが語る 映画『まともな男』の見どころと配給の舞台裏
JVTA修了生の二階堂峻さんが配給を手がけた映画『まともな男』が、2017年11月18日から新宿のK’s cinemaで公開されています。先日JVTAの修了生の皆さんと石井清猛講師が一緒にこの映画を観に行く鑑賞会を開催。鑑賞後の食事会では、配給までの道のり、ミヒャ・レビンスキー監督から聞いた撮影秘話などを二階堂さんから伺いながら、映画の感想を語り合いました。
『まともな男』は、スイス国内の映画祭で多くの賞を獲得した話題作。妻と娘、さらに、上司の娘ザラとともにスキー場に出かけた中年男性トーマスに起こる負の連鎖がスリリングに描かれています。悲劇の始まりはザラがレイプされてしまったこと。「誰にも言わないで」と言う彼女を守ろうとトーマスは嘘を重ね、思いがけない事態に巻き込まれていきます。
◆鑑賞会に参加された修了生・小澤真男さん(写真右から2番目)のコメント
ドイツ語の翻訳や通訳をしているため、ドイツ映画は頻繁に観ているものの、スイス映画の鑑賞は珍しく、この作品がドイツの市場を意識していることは言語等節々に見られました。一瞬たりとも観客を飽きさせないストーリーの展開と脚本の巧みさ、さらに主人公夫婦の演技力の高さに感服しました。平凡な男が運命の罠にはまっていく様は他人ごとには思えず、考えさせられる作品でした。貴重な機会をいただきありがとうございました。
配給を通じて監督とも交流を深めたという二階堂さんに作品の魅力や配給の舞台裏などのお話を聞いてみました。
◆この作品を配給したきっかけを教えてください。
左から 二階堂峻さん、石井清猛講師
二階堂峻さん 有料で誰もが自分の動画を投稿できるVimeoオンデマンドには、インディーズで一般公開のチャンスはない良質な作品が沢山あります。その中で、英語やフランス語、ドイツ語など主要言語が網羅されているのに、まだ日本語だけがついていない作品に目をつけ、「日本語字幕をつけてみませんか?」と打診するところから始まりました。メールで配給元にコンタクトを取ったところ、快諾してくれて当初はVimeoオンデマンドで公開される予定でした。
◆劇場公開を決めた理由は何でしたか?
二階堂さん 配給の第1作としてこの作品を選んだ理由は、群を抜いたクオリティの高さはもちろん、単純に僕の好みだったことですね。配給にはコストもかかりますが、この作品はどうしてももっと多くの人に観てほしいと思いました。他の作品の中から選んだというよりはこの作品に一目ぼれでしたね。ただし、私にはまだ配給の経験はなく、相手にとってもチャレンジだったと思います。手探りでの交渉でした。映画の配給の王道は映画祭での反響をみて買い付けるものですが、今回はある意味で新しい形態ですよね。オンラインで観て直接コンタクトというやり方は時代に応じて増えていくかもしれません。
◆配給を打診後、先方の反応はいかがでしたか?
二階堂さん 監督はこの作品にとても自信があったんじゃないかなと思います。しかし、映画祭では評価が高かったものの興行的にはあまりふるわず仕方なしにVimeoオンデマンドに投稿に至ったのではないかなと想像します。実際、監督は最近、テレビ番組向けの脚本執筆などが多くなっていたと聞きました。そこにいきなり予想もしていなかった日本から劇場公開の提案があり、監督にとっても大きなチャンスだったようです。ミヒャ・レビンスキー監督作品は本作が日本での初公開。公開初日にはレビンスキー監督と、プロデューサーのHC・フォーゲル氏を迎えた舞台挨拶を行い私が進行役を務めるという機会に恵まれました。結果的に監督とプロデューサーを日本に招待できて、一ファンとしても本当に多くの話ができましたし、思い切って配給して良かったですね。
◆映画公開に向けて具体的にどんな作業があったのでしょうか?
二階堂さん 私は大学の映画学科で映像の編集を学び、卒業後はテレビ局で映像の編集に携わっていました。自宅にはノンリニア編集ができる機材があり、同じく動画編集ができる奥さんと二人で予告編の編集なども行いました。また、映画館のロビーに飾るためのパネル(写真上)や、レビューを手書きした手作りのポップ(写真下)も制作。劇場の建物の壁にかける垂れ幕以外はほぼ自分たちで作りました。監督とプロデューサーのアテンドも初めての経験でした。
◆PRのためにラジオ出演もされたそうですね。
二階堂さん はい。きっかけはマスコミ向けの試写会でした。試写会は2回開催したのですが、全部で650枚の招待状を送り、来てくれた人はたったの25人。でもその中で熱狂的にはまってくれた人がいてラジオ番組への出演の機会も頂けました。ライターの方にもファンができて監督のインタビュー記事などを書いていただけました。苦労したのは宣伝の会社を探すこと。いわゆる映画のサイトにプレスリリースなどを出してもらう業務ですが、日にちも予算も少なくてなかなか協力してもらえませんでした。でも今回、試行錯誤したおかげでさまざまなコネクションが生まれ、これはプライスレスでしたね。
◆試写会の反応はいかがでしたか?
二階堂さん この作品は見る人によって反応が極端に違います。男性にはすごく評判がいいのに、女性には拒絶反応を示す人が多い。そもそも主人公の男に共感できないと…。僕が信頼をしている映画好きな人たちに見てもらったのですが、ほぼ100%、女性の評価が低かったんですね。でも一方で男性は絶賛する人が多かった。そこで私はFacebookの広告では20代から70代の男性だけにターゲットを絞って予告編の動画が再生されるようPRを展開しています。広く伝えるより、絶賛をしてくれる人を獲得する戦略ですね。
もちろん、例外もあり、大阪シネ・ヌーヴォでは、女性の支配人がこの作品を熱烈に支持してくださり、12月9日から上映が決まりました! ここで初めて女性でも好きな人がいてくれるんだと思えて、ありがたかったですね。
◆主人公の男性に対する感情移入ができるかどうかが評価の分かれ目なんですね。
二階堂さん ちなみに主演のデーヴィト・シュトリーソフは、『ヒトラーの贋札』や『ヒトラー 〜最期の12日間〜』にも出演しています。迷走する情けない主人公トーマスを演じるために10キロ太ったそうです。彼の妻を演じたマレン・エッゲルトは『es[エス]』に出演していたので、日本でも知っている人がいると思います。この2人はドイツでは非常に有名なので、ぜひこの機会に知ってほしいですね。
◆レビンスキー監督から聞いた撮影秘話などがあれば教えてください。
二階堂さん 同じようにスキー場を舞台にした映画『フレンチアルプスで起きたこと』の世界観にも似ていているので、あの映画が好きな人には響くと思います。しかし、監督によると実はスイスでは、『まともな男』の公開時期の少し前に『フレンチアルプスで起きたこと』が公開され、テーマや設定などで共通するものが多い作品だったので、制作スタッフ全員がザワザワしたそうです。公開時期が被ってしまうぞ、と。それ以外にもいろいろな事情はあったそうなんですが、結果的に1年ほど公開を遅らせたそうですよ。
◆一番の見どころはどこでしょう?
二階堂さん 監督は元々脚本家で、今回も自ら脚本を手がけています。私は何百回も見ましたが、何度見ても無駄なシーンが一つもありません。一般的にみると「抑圧さえた中年男性の悲劇」と捉えがちですが、監督曰く、「人が自分とは直接関係のない事件を目の当たりにした時、どのタイミングで犯罪者になってしまうのか?」がテーマだそうです。沈黙や見なかったことにするのもある意味で共犯になる。その境界線はどこなのか? 主人公の行動が理解できないという人が多い一方で小さな嘘を重ねるうちにあとにひけなくなってしまう彼に共感できる人もいます。結末を含め賛否両論だと思いますが、映画としては誰もが引きこまれる作品だと思います。
◆今後の展開を教えてください。
二階堂さん 東京のK’s cinemaでは2週間の上映延期が決定、12月2日から8日まで10時からの回で上映、最終週の12月9日から12月15日はまたもう1枠増えて、10時の回と、17時の回でも上映されます。また12月9日(土)からは大阪のシネ・ヌーヴォ、来年1月7日(日)からは新潟のCafe ガシマシネマでの上映が決まっています。今後もファンを増やしてさまざまな場所で上映できるよう、PRしていきます。ぜひ、ご覧ください!
◆楽しみにしています。ありがとうございました。
『まともな男』公式サイト
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