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“世界で一番新しい国” 南スーダンの物語を伝える 2023年度 明星大学特別上映会

“世界で一番新しい国” 南スーダンの物語を伝える 2023年度 明星大学特別上映会

2023年12月2日(土)に、東京・日野市にある明星大学で映画上映会が開催された。

JVTAでは、2014年から明星大学人文学科国際コミュニケーション学科で通年の学科科目「映像翻訳」の指導を担当している。本授業では、履修する学生たちが夏休みの集中講義で1本の映像作品に字幕をつける活動がハイライトの1つとなっている。学生たちはプロの映像翻訳者であるJVTA講師の指導のもと、学んだ字幕のルールや基本的なスキルを活かしながら、協力して字幕を作っていく。

学生が字幕をつける作品は、難民映画祭の上映作品だ。難民映画祭は国連UNHCR協会が主催する映画祭で、難民をテーマとした映画を通じて、日本社会で共感と支援の輪を広げていくことを目的としている。JVTAはこの映画祭の協賛企業であり、第3回目の2008年から字幕制作にボランティアで協力。多くの受講生・修了生と共に翻訳者ならではのカタチでサポートを続けてきた。明星大学の映像翻訳の授業では、履修生たちがその上映作品のひとつに字幕をつけ、さらに自ら上映会を企画し運営を行う。映像翻訳では、単に訳すだけではなく、その物語の背景を調べることも欠かせない作業の1つとなる。そのため、この授業を通して学生たちは翻訳を学ぶだけではなく、映像翻訳を通して世界の難民問題への理解を深め、さらに上映会によってその情報を広く伝える活動までを体験することができる。

学生が作成したパンフレット


今年の課題作品は、2011年に独立した「世界で一番新しい国」である南スーダンが舞台となった長編ドキュメンタリー『南スーダンで生きる ~ある家族の物語~』。監督はアクオル・デ・マビオル氏。現南スーダン副大統領であり「南スーダンの母」として知られるレベッカ・ニャンデン・デ・マビオル氏の娘である。亡命先で生まれ育ったアクオル氏は、自身が「南スーダン人」と呼ばれることの意味を模索し、いまだ情勢が不安定な南スーダンのために尽力する母や妹の姿をカメラで追う。家族と祖国に向き合い奮闘する一家を描いた作品だ。今年の履修者である26名の学生たちは南スーダンの歴史や情勢を調べ、理解を深めながら翻訳作業に取り組んだ。

上映会では、作品上映の前に学生発表が行われた。映像翻訳の授業についての発表では、学生が授業を通して学んだ字幕翻訳のポイントを説明。また作品のテーマや背景を知り、さらに翻訳作業によって学生同士の連携の大切さを学んだということが語られた。その他、作品の舞台である南スーダンの歴史や情勢、文化なども学生が紹介。学生発表の後は、本作の監督であるアクオル氏からの動画メッセージも上映された。

そしていよいよ作品上映がスタート。学生たちが翻訳した字幕と共に映像が流れていく。映像内では南スーダンの独立や内戦の歴史に触れるようなシーンもあるが、南スーダンについて全く知らない人が見ても理解しやすい字幕になっていた。学生たちが南スーダンに対して理解を深め、どの情報を優先したら日本の視聴者に分かりやすいかを考えぬいた成果だ。

上映後には南スーダンのことをより深く知るためのトークイベントが開催された。学生が司会となり、ゲストとして南スーダンのヌエル社会について中心に研究している立教大学文学部准教授の橋本栄莉氏と、報道カメラマンとして活動した後に南スーダンの紛争後の社会について調査を行っている静岡県立大学助教の村橋勲氏が登壇した。橋本氏と村橋氏は南スーダンの現地でフィールドワークを繰り返し、研究を続けている専門家だ。実際に現地を訪れた際に撮影した写真などを交え、南スーダン国内の様子、独立に至るまでの国の変化、南スーダン国民が政府に対してどのような印象を持っているかなどを解説。また2013年に南スーダン国内で武力衝突が勃発した際にもそれぞれ現地にいたということで、紛争時のリアルな体験談も語られた。

トークイベントの様子



質疑応答の時間には、上映会参加者から「南スーダンに今必要な支援は何か?」という質問が投げかけられた。その質問に対し、橋本氏と村橋氏は次のように答えた。

「南スーダンの支援のために、すでにたくさんの費用がかけられています。それなのに教育も医療も整わず、まだ国は良くなっていません。まずはその理由を考える必要があります」(橋本氏)
「支援を与える側も『こういうことをやった』と言いやすいものを作りがちです。でも、長い目で見てその支援が現地の人にとって本当に意味があるのかを考えなくてはいけません」(村橋氏)

今回の字幕翻訳、そして上映会開催は、学生にとって南スーダンや世界の難民問題を考えるいい機会になったのだろう。トークイベントの最後、司会を務めた学生の一人は「映画を見るだけで終わらず、今日をきっかけに皆さんにも南スーダンや難民問題について考えてほしい」と観客に向けて語りかけた。

上映会終了後、JVTAの講師と学生の振り返りが行われた。リハーサルや練習が思い通りに進まなかったこともあったようだが、「最後は大きな問題なく進められてよかった。自分たちが作った字幕も、改めて上映会で見たらいい字幕だと思えた」と、学生たちも達成感を感じていることが伺えた。

字幕翻訳や上映会に関わったことで、南スーダンという国は履修学生にとってとても身近になったはずだ。上映会は終了したが、授業全体を通して学んだ南スーダンや難民に関する知識、そして映像作品を通じて得た感情は学生たちの中に残るだろう。今回の経験が学生たちの視野をさらに広げることを願っている。

◆2023年度 明星大学 特別上映会/難民映画祭パートナーズ 特設サイト

字幕翻訳・上映会運営に携わった学生と



明星大学 国際コミュニケーション学科「映像翻訳」について
明星大学 国際コミュニケーション学科では、2014年から英日字幕翻訳を中心に学ぶ通年の正規授業の指導を受け持ち、JVTA所属の6人の非常勤講師が毎週授業を行っている。夏休み期間中に行われる夏期集中講義において恒例となっているのは、国連UNHCR協会主催の難民映画祭で上映される長編ドキュメンタリー映画の日本語字幕を作成すること。さらにその成果を発表する学内での上映会の企画・運営・宣伝活動も講師陣の指導の下、学生が担う。学生たちにとっては映像翻訳の作業を通して難民問題を学び、深く考える機会となっている。

JVTAの学校教育プログラムについては▶こちら



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