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修了生・原ミユキさんが音声ガイド付き上映会で活躍中! “書いて読む”ことへの想いとは?

修了生・原ミユキさんが音声ガイド付き上映会で活躍中! “書いて読む”ことへの想いとは?

皆さんは、音声ガイド付きで映画を観たことがありますか?
音声ガイドとは、映像の情景描写や場面転換、人物の動きや表情などを言葉で補足するツールです。JVTAでは、音声ガイド講座の最終回に、視覚障害者のモニターさんをお招きして受講生が作成した2種類のガイドを聞き比べて意見を頂く、「モニター検討会」を開催しています。この検討会を支えてくれているのが、プロのナレーターで講座修了生の原ミユキさんです。原さんは、音声ガイドの原稿を自ら書いて読むという活動を続けており、地元葛飾区の立石図書館で行われている音声ガイド付き映画会でも音声ガイドの制作とナレーションを担当しています。同図書館でのこの取り組みは今年で3回目。このイベントが始まったきっかけや音声ガイドとの出会い、ガイドを書いて読むことへのこだわりなどについて原さんに聞きました。また、このイベントを原さんと共に企画・運営する図書館スタッフの方にも参加者の反響などを取材しました。

 
◆音声ガイドとの出会いはJVTA
初めて音声ガイドに出会ったのは、2011年。JVTAの音声ガイド講座にナレーションの仕事でお世話になった時でした。エクセル表に独特の色分けがしてある台本を初めて見て、こうしたツールがあることに驚きました。この時の私はとにかく読むのに精いっぱいでしたね。
モニター検討会では毎回お二人の視覚障害者の方にお会いしますが、ご意見も違うし、求めている情報もそれぞれです。半年ごとに違う皆さんにお会いすることでさまざまな好みや傾向を聞かせていただくことができて、私にとってはお仕事をしながら学べる貴重な機会となっています。
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◆音声ガイドを学んだきっかけは、あるモニターさんの言葉
私を音声ガイドの道に引き込んだのは、ある全盲の男性の言葉でした。「どんな作品に音声ガイドをつけたらいいと思いますか?」という質問に「すべての作品です。そこから選びたいんです」と答えたのです。「そんな当たり前のことが当たり前じゃないんだ」と気づいた私は、「それはおかしい。それなら私も音声ガイドを書こう。すべての作品につけよう!」と決意。そこで私もJVTAの講座を受講し、ガイドを書くことを学び始めました。

 
◆「想像する楽しみを奪わないでほしい」
あるモニターさんの「想像する楽しみを奪わないで」という声が印象に残っています。想像する間もないほど情報量の多いガイドや、監督が観客にゆだねている部分にまでガイドが意味付けしてしまうことへのご意見でしたが、とても考えさせられました。どこまでガイドすればいいのか…最初は誰もが悩むところです。音声ガイドはあくまでも作品を補足するためのツールです。ですから、ガイドを書く側の勝手な思い込みや主観を入れるのはNG。製作者が視聴者に委ねているところは、ガイドもその余白をきちんと残すべきなのだと思います。
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◆思い込みは禁物、ジェミーは女の子!?
今年の音声ガイド付き上映会の作品は、『僕と駐在さんの700日戦争』でした。高校生男子グループと駐在さんのいたずら合戦のような内容なのですが、視覚障害者のモニターさんにチェックをしてもらったとき、大きな失敗に気づきました。男子グループの中に冨浦智嗣君が演じるジェミーという後輩がいるのですが、声がハスキーでとてもかわいいので、モニターさんはずっと女の子だと思って聞いていたそうです。「当然わかるだろう」という思い込みでガイドを作っているとこういう誤解を招いてしまいます。慌てて初出のガイドに「男の子」という言葉を加えました。

 
◆自ら書くことでライターさんへのリスペクトが生まれた
「ナレーターの仕事の中の一つとして知った音声ガイド。当初は「尺が厳しいから言葉をカットできないか?」と思うこともありました。でも書く立場も経験すると、「ライターさんも苦労して作っている。この内容をどうしても盛り込みたかったんだな」とリスペクトできるようになりました。自分が原稿を作る際は、作品のリズムを大切に句読点の打ち方にもこだわっていますし、とにかく正しく解釈して必要な情報をきちんと伝えようと心がけます。ナレーターの時もそういう想いを感じるようになり、どんな尺でもライターさんが選んだ言葉を大切に読むこと、作品やシーンに合った表現をすることを心がけるようになりました。
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◆地元の図書館での問い合わせが、音声ガイド付き映画会へ発展
音声ガイドを学ぶ中で多くの音声ガイド付き作品を見たいと思いました。そこで、地元の立石図書館に問い合わせたことが、音声ガイド付き映画会の始まりです。「資料検索機で『音声ガイド付き』や『副音声』で一括検索できませんか?」と相談したのですが、その時に対応してくださったのが、現在上映会を一緒に企画しているOさんでした。「不勉強で申し訳ありません。音声ガイドというものが分からないので、教えていただけませんか」と関心を寄せてくれて、簡単に概要をお話ししました。

 
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※<立石図書館で当時対応し、現在は映画会を共に企画する0さんのお話>
原さんが当館にいらしたのは、開館した2011年の夏でした。当時の私はハンディキャップサービスの担当になって間もなくて、音声ガイド自体を知りませんでした。葛飾区の一番大きな中央図書館のハンディキャップサービスに問い合わせたところ、「それは検索機ではできないので私が手作業で調べます」とのことでした。この時の担当者が別の区でも長くハンディキャップサービスの経験があり、この方からバリアフリーについていろいろ教えて頂いたことが、映画会にも繋がったと思います。調べてもらった結果、当時は10数点しか作品がなく、「こんなに少なくてもいいのだろうか」と思いながら原さんにリストをお渡ししたのを覚えています。
それから約1年後、音声ガイドとバリアフリー字幕が付いたDVDで『舟を編む』の上映会を当館で開催することになり、そこに原さんが見に来てくれました。そしてご自身が音声ガイドを書いて読む活動をされていて、何か協力したいと提案してくださったのです。地域の中で大きな中央図書館ではなく、地元の立石でやりたいと言っていただけたのが嬉しかったですね。これがライブ音声ガイド付き上映会の企画に繋がりました。※

 
◆2017年に音声ガイドつき映画会が実現 初回は『ポテチ』
第1回目(2017年)は『ポテチ』、2回目(2018年)は『アヒルと鴨のコインロッカー』、そして3回目の今年は『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』を上映しました。初回は、ライブで音声ガイドを聞いたことがある人は、ほとんどいなかったのですが、今年は半分くらい手が挙がっていて確実に認知されているのを感じました。アンケートでも「みんなで一緒に笑えて嬉しかった」「多様性のある人たちと一緒に観たのが初めてで楽しかった」「原さんのガイドの声が聴きやすかった。通常、ライブガイドの声はくぐもっていたりするが、今日はとてもクリアだった」「晴眼者だが、ガイドがうるさいとは感じなかった」「ライブで音声ガイドを聴けたのが良かった」といった声が寄せられていました。普段は映画館の映写室の中でマイクを持ってガイドを読んでいるので、今回のように同じ空間の中で客席の後ろに座り、皆さんの反応を見ながら読めるのは、私にとっても珍しく嬉しい体験です。今後もぜひ続けていきたいですね。

 
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※<前述の0さんのお話>
原さんが選んでくれた映画はどれも明るく楽しくて、皆で笑えるのがいいですね。過去のバリアフリー映画会では、暗く寂しい作品が多く、笑い声が起こるような雰囲気ではありませんでした。作品選定に際しては、まず区内に映像の所蔵があり、さらに上映権があるものに限られます。原さんはそんな条件の中から良い作品をチョイスしてくれて感謝しています。3年目の今では「原さんのライブガイド付きで観られるのが楽しみ」と言ってくれるファンもついています。映画会では皆さんが積極的にアンケ―トを書いてくれますが、「映画を観て原作を読みたくなるような作品を上映してほしい」というご希望があり、当館では上映作品の原作本なども展示しています。当館では、奇数月に字幕付きで洋画の上映会を開催していますが、ご高齢の参加者が多く、O・ヘプバーンなどの古い作品がとても喜ばれます。今後はこうした洋画の吹き替え作品にも音声ガイドを付けて上映してみたいと原さんと話しています。今後も明るい作品を選んで、バリアフリー上映を増やしていきたいですね。※

 
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上映会に参加したJVTAスタッフが、立石図書館のバリアフリーに関する取り組みについてさらに取材しました。
詳細はこちら
https://www.jvta.net/tyo/miyuki-hara-2/

 
★MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座
詳細はこちら
http://www.jvtacademy.com/chair/lesson3.php