【JVTAが英語字幕】小宮山菜子監督の短編『街に溶ける』が大阪アジアン映画祭に入選

日本のクリエイターの作品が国際映画祭に出品される際に必須となるのが英語字幕だ。JVTAはこれまで多くの作品の英語字幕を手がけてきた。2025年3月、小宮山菜子監督の『街に溶ける』が大阪アジアン映画祭のインディーフォーラム部門に短編作品としての入選し、大阪中之島美術館で上映される。この作品の英語字幕をJVTAの修了生、新田ありささんが手がけた。
『街に溶ける』は、文化庁が主催する若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)で2023年度のサポートプログラムに選ばれた長編企画のパイロット版として製作された短編作品。今回が世界初上映となる。
『街に溶ける』 英題: my name is 予告編
小学5年生の二藤と詩織。秘密を共有し合い、恋をした二人は“なりたい自分”になれる湖へと向かう。クィアな子供たちの小さな冒険譚。
※大阪アジアン映画祭公式サイトより引用
JVTAは過去にも小宮山菜子監督の『手のひらの子どもたち』の英語字幕を手がけている(字幕翻訳はやまたま ひろさんが担当)。小宮山監督の作品は全体的にセリフが少なく、視聴者に解釈を委ねるようなシーンが強く印象に残る。翻訳者は作り手の意図をくみ取って正しく字幕に落とし込むため、小宮山監督と話し合いを重ねて英語字幕制作に臨んだ。小宮山監督はどのように翻訳者に想いを伝えたのだろうか。
「映画をつくる際に、登場人物が持つ言葉のニュアンスを丁寧に扱うことを心がけています。私の映画はセリフが少ないので、各セリフの心情をまとめた資料作成など、事前に伝えられる情報はなるべく細かくお伝えするようにしています。特に今作『街に溶ける』はクィアの登場人物を扱った作品のため、登場人物やセリフが持つニュアンスを大切にした翻訳をお願いしました。今作の重要なアイテムであるランドセルが日本特有のものであったり、ノンバイナリーである主人公の人称や名前の呼び方など、翻訳者さんには一つひとつご提案していただき、より多くの方に届けられる作品にできたのではと思っています。英題もテーマに寄り添ったものをいくつかご提案してくださり、本編含め丁寧な翻訳をしていただけたことに感謝しています。」(小宮山菜子監督)
『街に溶ける』には主人公の二藤と詩織が交わすセリフに、2人が互いに好きな色を聞いて答えあうシーンがあるが、その背景には周囲の大人との距離感を図るような互いの想いが垣間見える。翻訳者の新田ありささんはその微妙な心情を字幕に込めた。

「好きな色を聞くシーンが特に繊細で、小宮山監督とのブラッシュアップがありました。
『ほんとは、茶色?』の「ハテナ?」の感じが伝わって欲しいというご要望をいただきまして、“自分のことを自分でも確信していない”という気持ちを1つの字幕に詰めるのにやりがいを感じました。
『なりたい自分になれましたか』というセリフにもご要望いただき、“言い切るのではなく、問いかけで終わる”と表現して欲しいということでした。こちらもテーマのクィア・アイデンティティーと合わせて意識して翻訳いたしました。
英語のタイトルに関しては、「My Name is」 の他に「Melt into Me」や「Belong」も提案いたしました。どれもLGBTQ+でしたら悩むであろう「真の自分」や「居場所」を考えたものです。
やはり短編ならでの難しさはありますが、それが短編の面白さでもあります。翻訳は限られた尺に作品の気持ちをどれくらい込めるかの戦いなので、短編で自分の腕を極めることができます。また、セリフそのものはシンプルですが、シンプルだからこそ観客の心に刺さると思います。」(『街に溶ける』英語字幕翻訳者 新田ありささん)
一方、『手のひらの子どもたち』は、不安定な状態にある母親との微妙な関係に苦悩する女性の物語。子どもの頃と現在が交錯するなかで詩のような断片的な言葉がちりばめられている。この作品も42分の中に約100枚の字幕とやはりセリフが少ない。翻訳者のやまたま ひろさんは日本ならではの文化などを切り取った言葉のニュアンスに気を配ったという。

「非常にセリフが少ないがために英訳が難しい箇所がたくさんありました。感情を示唆するBGMもないため、視聴者は記憶の断片のようなシーンや端的に交わされる会話から登場人物たちの状況や背景を想像する必要があります。
日本独自の『ランドセルの10円玉』(字幕ではAn emergency coin to call Mum.)など、そのまま英訳したのではイメージが伝わらない文や、「待ってるね」など同じセリフでもイントネーションが異なるために受ける印象が違う文は、意訳をしたり英訳に変化をつけたりするなど工夫しました。
ただ、どこまでが現実でどこからが想像なのかが分かりにくいまま進んでいきますので、原文の持つ曖昧さを英訳が打ち消す(=クリアにし過ぎる)ことがないように心がけていました。
また、夕方のチャイムやテレホンカードなど、子ども時代を想起させるキーワードも出てきますが、わたしたちが感じる懐かしさを同じように英訳で出すのは難しく、結局はそのまま訳出しました。」(『手のひらの子どもたち』英語字幕翻訳者 やまたま ひろさん)
セリフが少なく、日本独特のアイテムやニュアンスが出てくる作品の場合、英語字幕を通して海外に伝えるのは、翻訳者にとって至難の業だ。しかし、今回のように監督から直接意図を聞けたことは貴重な体験となった。初上映される短編『街に溶ける』が長編化された際にはどのような作品になるのか、今後も注目していきたい。
『街に溶ける』 英題 : my name is
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