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『カメラを止めるな!』が世界で大ブレイク!「ちょっとはちょっとだ」の英語字幕って?!

『カメラを止めるな!』が世界で大ブレイク!「ちょっとはちょっとだ」の英語字幕って?!

国内のみならず、世界中で大人気の長編映画『カメラを止めるな!』、皆さんはもうご覧になりましたか? 今年6月、都内2館のみの上映から始まったこの作品は、その異色の作風から口コミで人気を集め、1カ月後には全国150館で上映が決定。さらに、海外でもウディネ・ファーイースト映画祭(イタリア)や、ニューヨーク・アジアン映画祭(アメリカ)、ニッポン・コネクション(ドイツ)などの数多くの映画祭で上映され、人気を集めています。この作品の英語字幕を担当したのが、JVTAの修了生でイギリス在住のスミスさやかさん(涙さやか、Sayaka Rui)です(オンラインで日英映像翻訳科を受講)。映画の字幕翻訳に加え、通訳としても活躍するスミスさんは、イタリアで行われたウディネ・ファーイースト映画祭に登壇した『カメラを止めるな!』のスタッフの通訳も務めました。今、大注目の作品の英語字幕制作秘話や海外で上映会の様子について、スミスさんに聞いてみました。

 
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JVTA まず、この映画の字幕をスミスさんが担当した経緯を教えてください。

 

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左がスミスさやかさん 米映画評論家のマーク・シリングさんとウディネ・ファーイースト映画祭で

 
スミスさやかさん(以下スミスさん)私は80年代半ばにイギリスに来て、もう30年以上暮らしています。日本ではビデオの卸し業者に勤めていて、本当に若い頃からずっと映画は観てきましたし、映画や音楽は大好きでした。ですからイギリスでも映画祭によく出かけていたんですね。私はその頃は美容関連の通訳をしていたのですが、映画祭の会場で、映画関係者に出会い、映画祭のトークやQ&Aや関係者のアテンドの仕事を頂くようなったんです。イギリスで日本の映画を配給する会社・サードウィンドウフィルムズの代表、アダム・トレル氏に会ったのも映画祭でした。

 
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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
また、映画祭でJVTAの石井さんや浅川さんとも知り合いになり、字幕にも興味が出てきました。さらに、アダムからも字幕も作ってほしいという依頼が来るようになり、必要に迫られて日英映像翻訳科を受講。イギリス在住でもオンラインで参加できたのも良かったですね。『カメラを止めるな!』もアダムが日本で見つけて世界に発信した作品で、海外の映画祭での上映やDVDでの発売のために英語字幕の依頼を受けました。

 
JVTA 日本での大ヒットに加え、世界各国の映画祭でも 多くの賞を受賞していますね。スミスさんはこうした映画祭にも同行して通訳をされているとか。

 
スミスさん 一番最初の上映は、今年4月のウディネ・ファーイースト映画祭(イタリア)で、この時に通訳として同行しました(日本での全国公開は6月)。この時、観客賞第2位を受賞したんです! それからシッチェス・カタロニア国際映画祭(スペイン)、カメラジャパン・フェスティバル(オランダ)、さらにニューヨーク、トロントと、とにかくものすごい勢いで広がっていますね。

 
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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
JVTA  ウディネの高評価が日本での爆発的人気の起爆剤になったという分析もありますよね。日本で爆発的に火がつく前、海外で話題になったその現場にスミスさんが立ち会っていたというのはすごい! こうした上映では、すべて英語字幕付きで上映されるんですよね?

 
スミスさん 海外では基本的に英語字幕はもう焼き付けてあり、そこに現地の言葉が加わるイメージです。イタリアではちゃんとイタリア語の字幕も出るし、シッチェスではカタロニア語も表示されています。だから画面が字幕だらけですごく見にくいんですよ(笑)。でも、アメリカ、オランダあたりでは英語字幕だけなので、賞を取るとすごく嬉しい! 私の字幕で作品を評価してもらえたのですから! 8月にイギリスでも1回の上映のはずが満席で急遽2回に増やして上映されたんです。これはヨッシャー! という気持ちで嬉しくなりますね。

 
JVTA 英語字幕の重要性を改めて感じますね。シッチェスには“カメ止め”の内容にぴったりの面白いイベントがあるとか。

 

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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
スミスさん “シッチェス映画祭”の時期にソンビウォークっていう毎年恒例のイベントがあるんですが、日本のお祭りと一緒で、町をあげての大騒ぎ。プロフェッショナルのメイクアップアーティストが何十人っていう人たちにお金をもらって本格的なゾンビメイクをするんです。もう老若男女、全員ソンビの格好をして練り歩きます。そこに今年はカメ止めメンバーが一緒に参加して…。現地の人もメンバーも大喜びでしたね。

 
JVTA 字幕についてさらに伺いたいのですが、私も劇場で観ていて、「ここは英語でどんな字幕にしたのだろう?」と気になったセリフがいくつかありました。例えば、主演女優さんが監督に無理なお願いをしながらも高飛車な感じで言う「よろしくでーす!」というフレーズです。

 

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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
スミスさん 私は、「ちゃんとやってくれるよね? ありがとう!」みたいなニュアンスを込めて「That’s great」にしました。この女の子の言い方だと、ちょっと上から目線で言い方は優しいけど有無を言わさず押し通しているイメージじゃないかと。

 
JVTA 例えば、職場でボスと部下の会話にもありそうですね。

 
スミスさん そうですね。「この週末にこれをやってくれないか」というお願いをされた部下が嫌々ながらも「分かりました」と言う。そこで上司が「じゃ、お願いね!」という感じのニュアンスでしょうか。「よろしくでーす」は何度か出てきますが、「That’s great」で統一しました。

 
JVTA また、護身術で襲ってきた相手を振り払うポーズのかけ声、「ポン!」は 「Pom!」にしたとか。ただ音だけを訳したんじゃなくて、「Pom!」だとなんだか呪文みたいな感じがして、映像に合っているなと思いました。他に、日本語ならではニュアンスで難しそうだなと感じたのが、「ちょっと…」というセリフ。あるスタッフが、ゾンビがいる屋外に何故か出て行こうとする場面です。引き留める監督に絶対に理由を説明することなく、ひたすら「ちょっと」と言い続けますよね?

 

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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
スミスさん 「ちょっと」はシンプルに「I Just…」にしました。それを聞いた監督があわてて「ちょっと?」と聞きなおすところは「You just…what?」。「ちょっとって何だよ!」と聞かれたそのスタッフが「ちょっとはちょっとだ!」と言って、最終的に扉を開けて出て行ってしまうあのシーンですよね。

 
JVTA はい。その場面です。「ちょっとはちょっとだ!」はすごく、日本語っぽいセリフですが、どんな英語字幕にしたんですか?

 
スミスさん 「Just means…just!」です。日本語からあまりひねっていないんですが、この表現は自分でも嫌いじゃないかも…。

 
「ちょっとはちょっとだ!」のニュアンスを完全に英語に置き換えられる訳文はありません。あえていうなら、「Nothing to do with you!」とかみたいな感じでしょうか。「関係ねえだろ!」みたいな…。「Just because!」でもいいかもしれない。例えば、この場面ならセリフの奥にある気持ちから、「どいてくれ! Get out of my way!」や「俺は急いでるんだ! I’m in a hurry!」というニュアンスに変えることもできると思います。でも最近、日本語を直訳的にそのまま字幕にしてみたら、実はうまくはまることもあるんだなということに気がついたんですね。「Just means…just!」、結果的にはこれが面白かったのかなと思います。

 

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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
JVTA 面白い!「 just means …just!」は日本語のセリフの面白さもちゃんと残っていますし、海外でも笑いが起きそうですね! これはスミスさんならでの面白い融合で、英語ネイティブの人には出てこないフレーズかもしれません。英語字幕を作る時は常にこうしていろいろなパターンを考えているのでしょうか?

 
スミスさん 実は、通常は納期がとてもタイトで、ネイティブが自然にどういう表現を使うか、深く考える余裕はないことが多いんですね。でも先日、外国人のクライアントと話していたら、「SAYAKAは30年イギリスに住んでいるから、それは無意識にやっているはず」と言われたんです。逆に私自身が自然な英語表現に寄せ過ぎて「日本語的ニュアンス」を消しすぎてしまう傾向があるかもしれません。

 
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実はJVTAを受講中に1度だけ、すごく褒められたことがあったんです。それは、ノーマン・イングランド講師の授業で、学生同士の会話の字幕を作る宿題でした。学生がみんなで携帯を持ちながら「で、なに?」「ああ、まあね」といった超カジュアルで断片的な会話を英語字幕にしたのですが、「これって本当に今どきの子が言っているみたいだ! びっくりしたよ!」と。こういう日常的で自然な会話は得意なのかもしれません。

 
JVTA 『カメラを止めるな!』もテンポが良い作品なので生き生きとした英語字幕がたくさんありそうですね。

 
スミスさん 超ハイテンションな作品なので、実は私が作った字幕では、シーンによってはswear wordsが結構使われているんです。でも東京国際映画祭の上映では、誰にでも見やすいようにということで、よりマイルドな表現に変えたそうです。私はそれには携わっていないので、どう変わったかは分かりませんが。もしかしたらすべてダメだったのかもしれません。

 
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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
JVTA  やはり、生きた英語に触れてきたスミスさんならではですね。私たちはネイティブがどう言うかが分からずに、それを一生懸命探ろうとする。でもスミスさんは海外生活が長いのでネイティブの表現が自然と出てくることもあるのですね。

 
スミスさん はい、でもそこに問題もあるんです。イギリス人のクライアントからそれを指摘されたことがあります。以前「この人の悪口を言うからじゃない」というセリフを「Slag off」という言葉で訳したら「それはイギリス英語で広くは通じないから使っちゃダメだよ」と。私にとって一番苦しいのは、イギリス英語とアメリカ英語の明確な違いが分からないこと。実はそれがとても大変で、調べものをしても意外と調べきれないんです。

 
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『カメラを止めるな!』より ©ENBUゼミナール

 
JVTA スミスさんにとっては、日本にいる日本人が日英をやる場合とはまた逆の難しさがあるんですね。他にも何か具体的な例があったら教えてください。

 
スミスさん 先日、字幕をイギリス人のネイティブチェック後に納品したんですが、編集の前に戻されてきて。よく見てみたらコーテーションマークを付ける箇所が全部、イギリス式だったんです。指摘されるまで私もイギリス人チェッカーも全然気が付かなくて。本当に申し訳ないんですが1日もらって全部直して提出しなおしました。

 
(例)
アメリカ英語(ダブルクオテーションマークで最後のピリオドは内側に打つ)
Jimmy said, “It’s time to go.”

 
イギリス英語(シングルクオーテーションで最後のピリオドは外側に打つ)
Jimmy said, ‘It’s time to go’.

 
JVTA  確かに、こうした普段当たり前のように使っているルールの違いに気づくのは難しい…。海外在住の翻訳者さんならではの悩みかもしれませんね。最後に『カメラを止めるな!』の魅力を一言お願いします。

 
スミスさん 今まで字幕を手がけた映画の中で、これだけ何十回も見ても同じ場所で必ず笑い、同じ場所で必ず泣いている作品はないです。私は字幕チェックをしながらもラストシーンでウルウルしていました。見る度に楽しい作品です! 海外でも同じ反応があり、評価されていることは、翻訳者として嬉しいですね。

 
JVTA  今後、海外での反響がますます楽しみですね! ありがとうございました。

 
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『カメラを止めるな!』 大ヒット公開中!
製作:ENBUゼミナール
配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール
©ENBUゼミナール
公式サイト http://kametome.net/index.html

 
◆スミスさやかさん(涙さやか、Sayaka Rui)が英語字幕を手がけた作品
『下衆の愛』内田英治監督(2015年)
『獣道』 内田英治監督(2017年)
『神と人との間』 内田英治監督(2018年)
『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督(2018年)
『星くず兄弟の伝説』手塚 眞監督(1985年)
『ケンとカズ』小路紘史監督(2016年)※字幕チェック
『あの日々の話』玉田真也監督(※東京国際映画祭2018の上映作品)

 
※日活の60年代、70年代のロマンポルノ作品をベルリン国際映画祭の上映用に、
4Kでドイツでリマスターしたものに100%新しい字幕を制作。
『荒野のダッチワイフ』 大和屋竺監督(1967年)
『おんな地獄唄 尺八弁天』 渡辺護 監督(1970年)
『変態家族 兄貴の嫁さん』周防正行監督のデビュー作 (1984年)※大杉漣が出演
『ブルーフィルムの女』向井寛監督(1969年)

 
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