3人の映像翻訳者に聞きました 私たちが描いた学習の航路(ルート)②
映像翻訳の勉強を始めてみたいものの、学習環境の変化が心配でスタートを切れない――。
海の天気のように、女性の日常はめまぐるしいものです。全3回のシリーズ「私たちが描いた学習の航路(ルート)」では、三者三様の道のりで映像翻訳を学び、プロとなった3名のストーリーに迫ります。
Route②日米で学び、ハイブリッド翻訳者に
「納得いく訳ができた瞬間は、翻訳者としての醍醐味を感じます」――映像翻訳者・伊納華さん
まずは東京で通学。クラスメートと切磋琢磨した
英日映像翻訳は日本橋にある東京校で学びました。教室では提出課題について、クラスメートの訳も見ることができます。互いの“得意不得意”が翻訳のワードチョイスやトーンに面白いくらいあらわれていたのを覚えていて、お互いに勉強方法をアドバイスし合ったことが思い出に残っています。私は当時、カジュアルな口語の訳が苦手だったので、よくクラスメートに勉強になりそうな、おすすめの番組を教えてもらっていました。
映像翻訳は画と一緒になっているので、受け手にスッと入ってきて、伝えられる情報も多い。これが実務翻訳と違う魅力だと思います。課題をこなす上で必須の“リサーチ”は大変ですが、常に新しいことを覚えていくのは楽しい。学習中は自信を無くしてしまった時もありましたが、英語解釈力強化コース「English Clock」でも学んだことで、安心して「実践コース」、修了トライアルへと進むことができました。
“英日”のプロになる直前にバリアフリー字幕も習得
JVTAには耳が聞こえづらい方にも映像コンテンツの面白さを届ける「バリアフリー字幕」のスキルを学ぶコース(MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座)もあります。実践コースで学ぶ傍ら、私はこのコースも受講し、プロのスキルを身につけました。「映像のバリアフリー化」の分野は自分と違う立場の人の視点を得られて、とても勉強になります。私は大学生の時に聴覚障害のある学生の講義に同席し、ノートテイカーとして受講をサポートしていたのですが、彼女はお笑いが大好きで、多くの面白い芸人さんを私に教えてくれました。「視聴覚障害者はあまりテレビを見ない」と勝手に考えていた自分が恥ずかしくなったのを覚えています。映像翻訳とバリアフリー字幕のスキルは共通する部分も多く、どちらの字幕を作る時も「架け橋になる」という役割は同じだと考えています。たまに知人との会話で、「翻訳字幕とバリアフリー字幕のどちらが好きか」という話になることがあるのですが、両方にやりがいを感じるので、やはり両方好きですね(笑)
“日英も学ぼう!”仕事の幅を広げるためにロサンゼルスへ
その後、英語の環境に身を置きながら日英映像翻訳・通訳を学ぶために、9か月間のJVTAロサンゼルス校留学を決めました。日英映像翻訳の魅力は、やはり“日本を海外に発信できること”。ロサンゼルス校へ留学している間、英語字幕のついた邦画が映画館で上映されていたり、ローカライズされた日本製品を見かけたりした時はとても嬉しかったです。翻訳という形で私も日本の素晴らしいコンテンツを発信する力になっていきたいと思いました。
先ほど「カジュアルな口語の訳が苦手だった」と言いましたが、ロサンゼルスに滞在中、その弱点を克服する思わぬヒントもありました。ホストファミリーが話している英語を注意深く聞くよう心掛けていたら、性別や世代、性格によって使う言葉やトーンが異なることを体感。帰国後は、例えば「ホストファザーだったらこの表現をするのにどんな単語を使うだろうか?」「カフェの店員さんはどんな言葉遣いだっただろうか?」といったことを思い出しながら、実体験を翻訳に反映させるようにしています。
エンタメの中心地で製作者の思いに触れる
留学中に翻訳・通訳以外で学びたかったのは映画製作者の思いや意図でした。ロサンゼルス校の講師のご厚意で、いくつかのイベントに参加。数々の著名な監督や、プロデューサーの話を聞く機会をいただき、その目標は達成されました。また、ゴールデン・グローブ賞やエミー賞を多数受賞したテレビ・シリーズのイベントでは、主演のみならず作品のエグゼクティブ・プロデューサーも務めるニコール・キッドマンやリース・ウィザースプーンからも話を聞くことができました。ニコールとは、Q&Aセッション後のレセプションが始まる前に話す機会もあり、私の感想を直接伝えることができました。作品を深く理解することで、モチベーションも上がるし、的確な言葉選びにもつながるので、とても大切なことだと実感しました。
【テレビ・ミニシリーズ『ビッグ・リトル・ライズ~セレブママたちの憂うつ~』の特別Q&Aイベントとパーティー。キャストのアレクサンダー・スカースガードと伊納華さん】
英日と日英、両方を学ぶ面白さ
帰国後は日英映像翻訳のトライアルを通過。英日・日英・バリアフリー各分野で仕事ができるようになりました。英日と日英、両方の映像翻訳者になると、英日翻訳の際に出会った良い英語表現を自分の中にインプットし、日英翻訳するときにそれをアウトプットできるのも面白いです。日本、海外(主にアメリカ)それぞれの番組で、独特の傾向(言い回し、構成など)があるので、その違いを意識した上で納得いく訳ができた瞬間は、翻訳者としての醍醐味を感じます。
●Keyword「ロサンゼルス校留学コース」
「映像翻訳専攻」、「通訳・実務翻訳専攻」、基礎英語力を養う「プレパラトリーコース」がある。映像翻訳専攻では多様な映像素材を用いながら、作品の読み解き方、字幕・吹き替え翻訳の手法について学ぶ。「通訳の授業は、訳す時の瞬発力を鍛えることができました。英語から日本語、日本語から英語――通訳はどちらの場合も人が話す内容をすぐに別の言語でアウトプットする必要があります。英語スピーカーとのコミュニケーションもスムーズになり、役立っています」(伊納さん)
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<私たちが描いた学習の航路>
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