11月10日(土)ポーランド映画祭が開幕! 巨匠の傑作や現在の注目作が一挙上映されます!
11月10日(土)、恵比寿にある東京都写真美術館ホールでポーランド映画祭がスタートします。7年目を迎える今年の注目は、同映画祭の監修を務めるイエジー・スコリモフスキ監督の80歳記念やロマン・ポランスキー監督85歳記念など、ポーランドの巨匠の特集上映です。
監修のイエジー・スコリモフスキ監督
また、「ポーランド独立回復100周年 名作映画から見るポーランド史」と題した企画では、アイジェイ・ワイダ監督の傑作『灰とダイヤモンド』、ロマン・ポランスキー監督のパルムドール受賞作『戦場のピアニスト』など新旧の珠玉の7作品が上映されます。
『灰とダイヤモンド』© STUDIO FILMOWE “KADR”
『戦場のピアニスト』
©︎ 2002. R.PRODUCTION – HERITAGE FILMS – STUDIO BABELSBERG – RUNTEAM Ltd.
JVTAは昨年に引き続き、日本初公開となる上映作品5本の日本語字幕を担当、5名の修了生が手がけました。JVTAが字幕を担当したのは、近年ポーランドで話題となっている作品を集めた特集「ポーリッシュ・シネマ・ナウ!」と、ポーランドの国内のみならず、世界の映画祭でも高い評価を受けている女性監督にフォーカスした企画「ポーランドの女性監督たち」からのラインナップです。日本語字幕を手がけ、作品とじっくり向き合った翻訳者の皆さんがそれぞれの作品の魅力を解説します。
★近年ポーランドで話題の作品が日本初公開
「ポーリッシュ・シネマ・ナウ!」より
◆『マリア・スクウォドフスカ=キュリー』
日本語字幕担当 上田麻衣子さん
©A P’Artisanfilm . Pokromski Studio Co-produktion 2016
私自身、恥ずかしながらこの作品を手がけるまであの“キュリー夫人”がポーランド人とは知りませんでした。この作品の原語はフランス語(一部ポーランド語*)です。私は現在フランス在住ということもあり、フランス語のニュアンスを崩さないよう意識しながら訳しました。ポーランドを代表する女優カロリナ・グルシュカ演じるキュリー夫人のポーランド語のアクセントのあるフランス語がなんともチャーミングで、専門用語も多く翻訳に苦労する中、耳にとても優しく響きました。
また、“Qu’est-ce que je ferais sans toi ?”(君がいなかったら、どうしていただろう?)というセリフが2度、キュリー夫人に投げかけられます。シチュエーションが違うので同じ日本語にはしなかったのですが、カギになるセリフなので、フランス語が分からない視聴者にもこのセリフの重要さを感じ取ってもらえれば、と思います。
◆『クリスマスの夜に』
日本語字幕担当 小路真由子さん
第20回ポーランド映画賞で作品賞、主演男優賞などを受賞した話題作ですが、ポーランドというあまりなじみがない国が舞台で決して明るい作品ではなく、はじめは作品に入り込めず、翻訳がなかなか進みませんでした(ごめんなさい)。でも物語が進むうち地方に暮らす、特に若者が感じる閉塞感や都会との格差(映画ではポーランドと外国ですが)、家族の葛藤といった、今の日本にも通じるテーマが扱われていて身近に感じることができました。自分自身も同じように就職で苦労した経験があるので、大学院を出ても、むしろ出ているからこそ余計に就職口がないと主人公たちが話す場面には、翻訳をしながら胸がつまりました。ちなみに、本作品を翻訳するに当たり、作品の概要や感想を英語のサイトでチェックしたのですが、某メジャー映画データベースではジャンルが「comedy, drama」となっていたのが意外でした。個人的にはもっと深いテーマのある作品だと感じています。ご覧になる方にもそんな思いが伝わったら嬉しいですね。
★ポーランド国内のみならず、世界で注目を集める女性監督を紹介
「ポーランドの女性監督たち」
◆『ポコット 動物たちの復讐』
日本語字幕担当 屋鋪桂子さん
© Robert Palka/Studio FIlmowe Tor
物語の舞台はポーランドの国境に近いズデーテン山脈。へんぴな村で、ハンターばかりが狙われる連続殺人事件が起きます。犯人は誰なのか? 老女が主張するとおり、動物たちの復讐なのか? ――圧倒的な山の自然美もさることながら、骨太な物語と魅力的な登場人物に支えられた本格ミステリーです。特に魅力的なのは主人公の老女。知性と狂気が絶妙のバランスで同居し、さらにユーモアや少女のようなかわいらしさも備えており…。複雑なキャラをリアルに表現するために、演出と脚本にきめ細やかな工夫がちりばめられていました。一見関係のなさそうな仕草が後のセリフにつながっていたりします。字幕を作る際には、ミスリードを含め、どんなささやかな演出や伏線も見落とさないよう、最大限に気をつけました。2時間強があっという間に思える映画です。ぜひご覧ください。
◆『お願い、静かに』
日本語字幕担当 福原里美さん
©Państwowa Wyższa Szkoła Filmowa, Telewizyjna i Teatralna
日本人の水谷江里監督が現地のろう学校で撮影した短編映画。子どもたちのありのままの日常を追ったドキュメンタリーだからこそ、見ているうちに幼少時代を回想しながら追体験できるような作品です。子どもたちは目にするもの、感じ取るものすべてを全力で受け止め、吸収していきます。ろう学校に広がる世界は、一見何気ない日々の連続ですが、そういう積み重ねこそが尊く、宝物がたくさん隠されているのだと教わったようでした。一日一日を懸命に生き、みずみずしい感性を発露させる姿は美しくもあります。子どもたちの世界観を壊さぬよう、言葉の選択に気をつけながら童心にかえって訳すことを意識しました。人や事に触れ心が動く時や、赤裸々に交わされる手話での会話、あどけなさを残しつつも時には大人びた一面をのぞかせる心情の機微、そういった瞬間のきらめきを伝えられたら幸いです。
※同特集の『こんな風景』の日本語字幕を修了生の加藤一恵さんが担当しています。
※JVTAのポーランド人スタッフ、カイェタン・ロジェヴィチが今年の上映作品『ピウスツキ・ブロニスワフ~流刑囚、民族学者、英雄~』の人物について過去のスタッフコラムで紹介しました。併せてご覧ください。
https://www.jvta.net/blog/20180803kirari/
ぜひ、お出かけください。
ポーランド映画祭
11月10日(土)~23日(金・祝)
東京都写真美術館ホール
公式サイトhttp://www.polandfilmfes.com/