園子温監督×ニコラス・ケイジ『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の撮影現場でJVTA修了生が通訳として活躍
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』は、園子温監督のハリウッドデビュー作でニコラス・ケイジ主演として注目を集めた話題作。2021年1月、サンダンス映画祭のPREMIERESとして上映され、日本でも同10月に公開された。この作品の撮影は、コロナ禍前の2019年に滋賀県などで行われた。各国の俳優やスタッフが集まった現場の通訳にJVTAが協力、現地に赴いたのはJVTA修了生の横山治奈さんと田村麻衣子さんだ。2人は、ハリウッド俳優グループの通訳チーム(俳優各一人につきメイン一人とサポートスタッフ数名)の一員として参加、田村さんはソフィア・ブテラ、横山さんはニコラス・ケイジの担当を務めた。俳優陣と同じホテルに滞在し、1日を通して通訳のみならず生活のあらゆる面でサポートしたという。国際色豊かな現場の様子をきいてみた。
田村さんはこれまで、企業の会議や映画の舞台挨拶等の単発案件の他に、「ハリウッド・コレクターズ・コンベンション」や「東京コミコン」など、海外スターを日本に招くイベントで、毎年数々のハリウッドスターの通訳や滞在時のサポートをしてきた。Aリスト俳優と呼ばれるスター俳優も何度か担当したという。一方、横山さんは、CMやテレビ番組の撮影現場で監督やブロデューサー、役者の間に入る通訳などを務めてきた。しかし、今回のように長期にわたる現場は2人とも初めての経験だった。
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◆空港へのお迎えから生活全般をサポート
田村麻衣子さん 「私は主演のソフィア・ブテラを空港に迎えに行くところから始まり、基本的には撮影が終わり空港に送り届けるまで、ほぼ彼女の専任の通訳として活動しました。
撮影日は現場への入り時間に合わせ事前にADやドライバーさんと打ち合わせし、遅れないように必ず同じ送迎車で送り届けます。現場ではもちろん実際の撮影以外に待ち時間やメイク、着替えもありますので、すべて時間通りに進むよう各部門と細かく俳優の動向を共有し、撮影後はホテルまで送り届けます。食事の手配も私達で行いました。特に滋賀では滞在地付近での食事場所が非常に限られていたため、現場での食事も含め、俳優分は朝昼晩、日々ホテルと連携をとりながら手配していました。撮影のない日も常に何か必要であれば対応できる状態でスタンバイし、行きたいところ、やりたいことがあればそれを叶えられるよう手配しました。もちろん言語の壁が彼らにとって主な問題ではありましたが、通訳も含め、彼らの滞在がスムーズに行くように日々のケアを事細かに行うアシスタントのような業務のほうが多かったと思います。」
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横山治奈さん 最終的には6~7人の通訳が集まることになり、それぞれが役者担当、監督担当、プロデューサー担当などに分かれ、私はニコラス・ケイジの担当になりました。彼を空港まで迎えに行くところから始まり、それから6週間ほぼ毎日付きっ切り。実際の撮影中は監督担当の2名が訳していたので、役者担当はそれ以外の場面、例えば休憩、食事、お買い物、観光などに付き添いました。一言でいうとカオスでしたが、現場の情熱・エネルギーというものはデスク仕事では絶対に感じられないもので、ワクワクさせられました。現場では限られた日数で多くの人たちがみなそれぞれの役目を果たし、作品がやっと完成される様が印象的でした。我々字幕翻訳者は通常、映画が出来上がった状態のみを見るものですが、その裏ではどれだけの人数が走り回って苦労しながら出来ているのかを身に染みて感じられたのは現場ならではの体験だったと思います。」
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◆長期滞在の現場で大切にしたのは信頼関係
異国の地で長期間にわたって撮影に臨むには、生活全般で言葉の壁を取り除く通訳の存在が不可欠だ。常に行動を共にするなかで、最も大切なのは信頼関係。田村さんはソフィアと交流する中で仕事からプライベートまで深く語り合い、俳優と通訳という垣根を超えて、家族ぐるみで友情を築くことができたのが、他では決してできない経験だったと話す。
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田村麻衣子さん「今回の仕事と、通常の通訳と違ったのは、担当する俳優陣ととても近い距離で親密にコミュニケーションを取り、彼らと衣食住を共に過ごしたことです。通常ハリウッド俳優が来日する際はマネージャーや家族など近しい人も一緒に来られることが多いのですが、ソフィアは完全に一人での来日で、言葉も文化も違うなか、不安もたくさんあったと思います。私は彼女の滞在がとにかく少しでも快適になるよう、頼ってもらえる存在になれるよう、出来る限りのサポートを行いました。オフの日は観光や買い物にもとことん付き合いましたし、仕事からプライベートまでお互いにいろいろな話もしました。オフの日には折しも私の実家のある広島に行きたいとのことで同行し、家族を巻き込んで色々と案内しました。俳優陣と一人の人間として、とても濃く密度の高い関わり合いを持つことができたのが、今回ならではの特別な経験だと思います。今回通訳チームのメンバーには各自担当がありましたが、常にお互いがサポートしあい、足りないところはカバーしながら日々乗り切っていました。チームのサポートがなければ回っていなかったと思いますし、本当にチーム一人ひとりに感謝しています。」
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ニコラス・ケイジは日本のアニメや漫画、映画に造詣が深く、親日家として知られている。サムライやチャンバラ、美しい着物姿の女性など鮮やかに彩られたこの作品は、彼にとっても特別な1本となったようだ。
横山治奈さん 「子供のころから日本映画が大好きだったので、この作品の出演で夢が叶ったそうです。園子温監督や共演のTAK∴(坂口拓)さんと取り組んだ、手作りで丁寧な日本の映画制作は世界最高峰だと話していました。園監督が『カァ~ット!』や『アクション!!』などと叫ぶ様子をとても気に入っていたのを覚えています。日本ではよくある光景だと思いますが、彼にとっては珍しかったのかもしれません」。
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◆通訳に求められるのは思いやりと理解
語学が堪能な映像翻訳者には、今後こうした通訳の現場を体験する機会があるかもしれない。そこにさらに求められるのは、どんなスキルだろうか?
田村麻衣子さん「相手のことをきちんと理解し当人とコミュニケーションを取れる語学のスキルはもちろん大事だと思いますが、それ以上に相手を思いやる気持ち、相手が何を欲しているのか、何を伝えたいのかを理解し、それを周囲に伝えることができるコミュニケーションスキルがとても重要だと感じます。時には空気を読み状況によって使う言葉や伝え方も変えなければいけません。映像翻訳はほぼ自分一人で完結できますが、通訳は自分以外の人と人の意思疎通を言葉でサポートするのが仕事です。とても単純で基本的なことかもしれませんが、常に相手を思いやる気持ちを持つことこそが一番必要なスキルだと思います。」
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横山治奈さん 現場通訳で非常に役立ったのは通訳同士だけではなく、クルーとのコミュニケーションだったと思います。現場で何が起きているのかを把握することで、空気を読みながら通訳に臨めました。言葉だけではなくカルチャーの違う人々が集まっているので、勘違いが生まれやすい中、両側を理解してあげることが大事だと思いました。」
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映像翻訳者は、映画やドラマ、ドキュメンタリーといったさまざまなコンテンツと常に向き合っている。その語学力や人脈を生かし、撮影現場や、映画祭、上映イベントなどで通訳を務める人も少なくない。JVTAはこうした様々なニーズに応え、あらゆる現場で修了生が活躍している。映像コンテンツは、監督や俳優をはじめ、多くの人の力が結集して完成された作品であり、映像翻訳者もその一員という自覚を新たにして字幕づくりや吹き替えづくりに取り組んでいきたい。『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』は、“狂暴かつ強烈なふたつの才能の、奇跡的な融合から生まれた痛快エンターテインメント”。今後、海外でもさらに注目を集めるに違いない。
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『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』
※上映中の劇場は公式サイトをチェック
https://bitters.co.jp/POTG/
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