『Range Rider』の日本語字幕を制作 日本では馴染みのない文化や職業を伝える難しさとは?
ドキュメンタリー映画『Range Rider』が、アウトドア用品のメーカー「パタゴニア」の店舗で3月に上映される。これは約30分の短編作品。アメリカのワシントン州を舞台に、繁殖するオオカミと家畜への被害を憂慮する牧場主との共存のために従事する『Range Rider』という仕事に取り組むダニエル・カリーの姿を追っている。この作品の日本語字幕を、JVTAの修了生の永山康子さん、谷岡美佐子さん、渡辺牧さんが手がけた。
タイトルであり、この作品の核となるテーマでもある『Range Rider』とは何か? 翻訳チームが最も話し合ったのはこのワードの訳出だったという。今回は3人で各10分ずつ担当。さまざまな経験のある翻訳者が意見を出し合いながら、流れやトーンを統一して字幕を制作した。
渡辺牧さんはこれまで、アウトドアブランドの展示会用商品PR動画の翻訳などを担当している。
「日本には『Range Rider』に当てはまる職業、似たような職業も見つからなかったので、まず、“ない”ということを証明するのは大変だと感じました。チーム翻訳でしたので、それぞれが調べ、それでも当てはまる職業が見つからず、また、Range Riderに関する日本語の記事や文献等も見つからなかったので、やっと”日本では認識されていない仕事”という結論に至りました(つまり、対訳もないということです)。映像の中でRange Riderの仕事内容について語っているので、訳出は無理やり日本語を当てはめるのではなく、発音どおり『レンジライダー』とすることをチーム内で相談して決めました。」(渡辺牧さん)
永山康子さんは、映画、バッグブランドの商品PR動画、スポーツ世界大会の選手インタビューなど幅広く手掛けてきた。
「『Range Rider』は日本にはない職業のため、仕事の内容や実情の把握、またそれをどのように日本の視聴者に分かりやすく伝えるか表現に苦労し、チーム内でも話し合いました。また今回、オオカミ保護支持者とオオカミ駆除支持者の対立が際立つ作品でしたので、その対立をどのように興味深く描けるか留意して訳出しました。」(永山康子さん)
永山さんは今回、本編の他に30秒と90秒の予告編の字幕も担当している。本編から該当箇所の字幕を抜き出して、多少短く編集し字幕として整えた。
「本編では全体の流れの中で分かりやすい表現に留意しましたが、トレーラーでは短い尺の中で『観たい!』と思っていただけるようより分かりやすく、またインパクトのある表現を使うよう工夫しました。」(永山康子さん)
谷岡美佐子さんは、AI技術に関するセミナーなどの企業案件の映像翻訳や子ども向けの動物図鑑の翻訳の経験がある。
「この『Range Rider』に携われたことは、非常に勉強になりました。環境問題という難しいテーマを、きれいごとだけではなく両者の立場から伝えていくにあたり、社会的な視点から適切な表現を探るのが難しかったです。調べ物につきましては、作品の中に登場する “Shoot, shovel & shut up.”(撃ち殺し埋めて 口を閉ざせ)という標語のリサーチに苦労しました。これは、家畜を狙い侵入したオオカミを撃ち殺した牧場主たちがその事実を隠し、自分たちの土地が動物保護の規制の対象になるのを防ぐためのスローガンです。Redditというアメリカの掲示板型ソーシャルニュースサイトで何とか確認できましたが、こうした公にならないデリケートな問題を調査することの難しさを感じました。」(谷岡美佐子さん)
海外の作品の日本語字幕をつくるという作業には、言語を置き換えるだけではない難しさがある。異なる文化を理解し、登場人物の背景や心情を正しく伝えるために、映像翻訳者は膨大なリサーチと話し合いを重ねている。『Range Rider』では、日本ではあまり馴染みのない職業や環境問題に触れることができる。神戸、京都、軽井沢、仙台、札幌北のパタゴニアの店舗で3月に無料上映されるので、お近くの方はぜひチェックしてほしい。
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