【映像翻訳者としてプロデビュー8年】修了生・青葉里知子さん
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2011年4月期 英日映像翻訳科 実践コース修了
2011年6月期 日英映像翻訳科 実践コース修了
【映像翻訳者としてプロデビュー8年】修了生・青葉里知子さん
大学卒業後、大手米銀の日本支店に入社。数年後渡米し、約20年間ニューヨークに滞在。MBAとFRM(ファイナンシャルリスクマネージャー)の資格を取得し、同社では新興国関連のリスク管理を担当した。夫の転勤をきっかけに退職し、2010年春に帰国。その後、日本映像翻訳アカデミーで映像翻訳を学び、米国に戻ったあと2年半前に再び夫の転勤で帰国。現在は英日・日英両方の翻訳者として活躍中。
JVTA 青葉さんが映像翻訳を学ぼうと思ったきっかけを教えてください。
青葉里知子さん(以下、青葉さん)夫の転勤に伴い、1回目にニューヨークから帰国した時、金融・経済関連の知識と英語力を活かして金融関連の翻訳をするつもりでした。でも当時のその分野に出てくるのは暗い話ばかりだと気づき、始める前にイヤになりました(笑)。その直後にJVTAの存在を知って説明会に参加し、今後のメディアの多様性や、日本の製品や文化を世界に発信する「クールジャパン」の取り組みなどを聞き、映像翻訳を学び始めました。
JVTA 青葉さんはJVTAで英日・日英の両方を受講され、修了後は幅広いジャンルの翻訳案件を手がけています。最近では株式投資家、ウォーレン・バフェットの手法に関するDVD『バフェットの法則』の吹き替え翻訳と日本語テロップの監修を手がけました。やはり、長いご経験をお持ちの金融関連の仕事が多いのでしょうか?
青葉さん そうですね。日英・英日ともアニメや漫画、映画台本の翻訳もありますが、現在私が定期的に仕事をしているのは、ヨーロッパの大手金融機関が週刊で出している金融レポートの中で、主にヨーロッパの債券・金利市場関連のレポートの英日翻訳と、JVTAさんから頂いている日本語版ウェブビジネスニュースのための全文訳です。
一般に「金融・経済翻訳」といわれるものには、かなり幅があり、銀行・証券会社が定期的に出している機関投資家などの顧客向けに出している(つまり主な読み手が資金運営のプロである)金融レポートから、一般向きのビジネスニュースや年次報告書、IR関連のものまで含まれます。今回手がけたDVD『バフェットの法則』は、その中間くらいの内容だと思います。金融・経済系とくくられていても内容がまったく異なり、読者を想定して言葉の使い方も変わってきます。この分野では専門性が高くなるほどカタカナ語が多くなります。
JVTA 金融関連は専門用語も多く、世界のマーケットの現状を常に知っておくことが必須。青葉さんが日頃、利用している情報ソースなどがあれば教えてください。
青葉さん 仕事に関係なく、個人的に好きという理由でThe New York Timesのウェブ版と「The Economist」というイギリスの週刊の新聞を定期購読しています。ちなみに、The Economistは自社の刊行物を絶対に「magazine」と言わずに「newspaper」と言うので、私も新聞と呼んでいます。Geekyと言われそうですが、もう25年以上購読しています。現状を把握するためにはどの言語でのインプットでも構わないと思いますが、翻訳というアウトプットの質の向上のためにはターゲット言語でのインプットが必須です。
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ですから、金融レポートの翻訳のために、日本経済新聞と、日本の金融機関系経済研究所が週刊や月刊でウェブ上に出している金融レポートに意識的に目を通しています。たとえば、みずほ総合研究所、農林中金総合研究所、大和総研グループ、ニッセイ基礎研究所などです。レポートの記事の大半は日本の話なのですが、時間の関係でその部分にはほとんど目を通さず、自分の仕事に関係がありそうな部分だけ、最近ではブレグジット(英EU離脱)、ヨーロッパ各国と欧州議会の選挙、各国の経済状況、金融政策・財政政策関連の記事を読んでいます。IMF(国際通貨基金)や世界銀行などによる世界経済の見通しにも目を通します。金融レポートの翻訳で思いのほか重要なのは、各国の政治情勢に関する知識です。
ウェブのニュース記事の翻訳は、何の話題がくるか分からないので、素材が来た時点で、納品時間内に納得がいく分だけ調べる、というやり方をとっています。今回のDVDも、仕事のやり方としてはこれと同様でしたが、日頃から知識を入れておくと、うろ覚えでもどこを見ればすぐに正しい答えをたどりつけるかを分かっていることが多いので、翻訳のスピードが上がります。
JVTA 常にアンテナを張り、金融関連を得意分野とする青葉さんですが、プロデビュー後は思わぬ苦労もあったとか。
青葉さん 実は私の場合、翻訳を始めるまで、金融経済について話したり読んだりするのは英語のみだったので、初めの頃は話の内容は分かるのに、日本語の定訳や適切なボキャブラリーをほとんど知らなくて訳せない、という状況でした。ですから、仕事をいただくごとに、その分野の日本語の本を数多く読みました。そうしているうちに気づいたのは、専門用語の正しい訳を調べるより、その専門用語の適切なコロケーションを調べることのほうが難しいということです。特定の分野の翻訳を始めて日が浅いうちは、自分の仕事に直接関係がなくても、同じような表現が出てきそうな記事や書籍を数多く読んで「自分の訳のこのコロケーション、もしかして変?」と気づける感覚をつけるのがいいと思います。
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JVTA 確かに、翻訳には日本語としての正しさやトーン・マナーが重要ですよね。さらに、金融関連の堅いトーンと漫画やアニメのカジュアルなトーンを使い分けるのは難しそうですが…
青葉さん 私は、アニメ・漫画の英日・日英翻訳をほぼ同時に始めたため、あちらで出てきたあの表現をここで使える!ということがときどきありました。さらに、子ども向けのアニメの英訳をやっているときに、子どもが普通に使う言葉が思い浮かばないことに気づきました。「先生に叱られた」というときに、私を含めて日本で育った日本人だったらscoldという言葉が最初にでてくると思いますが、普通のアメリカ人の子どもだったらchew outを使うことが一番多いはず。ですから、アニメの英訳をやっているときには、小学校中高学年向きの本をたくさん読みました。中でも、今の子供たちの生活が分かるような本です。たとえば、Diary of Wimpy Kid(邦題は「グレッグのダメ日記」)シリーズ。実はこの分野の本はもともと好きなので、読む口実ができたから堂々と読んでいる、というほうが正しいかもしれませんね。友人の子どもにそういう本を次々に借りて読んでいて「どうして大人の本を読まないの?」と不思議がられました(笑)。
JVTA 自転車競技やゴルフ、ヨガ、料理、編み物と常にさまざまなことに関心を持ち、それぞれに造詣が深い青葉さんにとって、調べものを通して楽しみながら常に知識を深めていける映像翻訳者は天職かもしれませんね。
青葉さん そういえば、日本のマンガの英訳をしていたときにヨガで覚えたサンスクリット語が役に立った経験があります。あと、何に出てきてたかは覚えていませんが、「under counter lightがカウンターの下ではなくて上にある」とか、「建材の2×4(two by four)は、最近では2インチ×4インチより細いのが普通」といった、アメリカで家を建てたときに得た、どうでもいい知識が役に立ちました。お料理がたくさん出てくるアニメでは、料理をすることとレシピを読む趣味が役に立ちました。マンガやSFは本当に何が出てくるかわからないので、調べずに分かるものに出会えるのはラッキーです!
JVTA 10年目に向かう今、青葉さんの今後の目標を教えてください。
青葉さん 好きな分野は仕事に関係なく、自分の楽しみとして見たり読んだりして、それが役立つ仕事ができたらラッキー、あとは、来たものごとに丁寧に対応、というのが基本姿勢です。
『この内容はどう逆立ちしても楽しめない』というようなものをお断りするのも、息切れせずに長く続けるのに必要だと思います。
これは、40年書籍翻訳をやっていて今でも仕事が楽しいと言っているベテラン翻訳家からつい最近伺った言葉です。年月を重ねてキャリアを積むうちに、多くの作品や素材に向き合い、新たな得意分野も生まれてきました。自分の引き出しを増やし、それを生かせる機会があるのも映像翻訳者の醍醐味だと感じています。
得意分野だと思っていても何もしないでいるとあっという間に知識は風化してしまいますからそれを防ぎ、知らなくても興味のもてるものには喜んでチャレンジする一方で、全く楽しめそうにないものはお断りするというスタンスも必要なのかもしれません…。
JVTA 今後のご活躍も期待しています。ありがとうございました。
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