【字幕翻訳者・原田りえさんに聞く】モロッコのマリヤム・トゥザニ監督最新作『青いカフタンの仕立て屋』の魅力
今、カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で高い評価を受けているマリヤム・トゥザニ監督をご存じだろうか。
トゥザニ監督は北アフリカのモロッコ出身の女性。2019年に初の長編作品『モロッコ、彼女たちの朝』を監督し、臨月の未婚女性というモロッコのタブーを取り上げた意欲作として2021年に日本でも公開され、話題となった。そして、2023年6月、最新作『青いカフタンの仕立て屋』が再び、日本で公開される。この2作品の字幕をJVTA修了生の原田りえさんが手がけている。
トゥザニ監督の特徴は、モロッコを舞台に、現地の文化や風習を背景にそこで暮らす人々の日常や心象風景を丁寧に描き出す作風にある。『モロッコ、彼女たちの朝』ではパン職人の女性と、モロッコでは違法である未婚の母との交流がテーマとなっている。モロッコの長編映画が日本で劇場公開されたのは本作が初だという。
「カサブランカの旧市街で出会った、深い孤独を抱える二人の女性。ゆっくりと心の扉が開かれて、新たな人生へと歩み出そうとする姿が、フェルメールの絵のように美しい光や色彩と共に描かれていきます。少しずつ変化していく心のゆらぎを伝えるために、1枚1枚の字幕を丁寧に積み重ねました。」(字幕翻訳・原田りえさん)
最新作『青いカフタンの仕立て屋』は、民族衣装の仕立て屋を営む夫婦の物語。カフタンとは結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせない伝統衣装で、コードや飾りボタンなどで華やかに刺繍されたオーダーメイドの高級品だ。しかし、安価で手早く作れるミシン刺繍の普及で伝統的な技を持つ職人が少なくなる今、トゥザニ監督は、その丁寧な手仕事を映しだしていく。
主演は『モロッコ、彼女たちの朝』と同じく、ルブナ・アザバル。闘病しながら25年間連れ添った職人の夫と、才能あふれる若い助手の男性との関係に苦悩しつつ、惜しみない愛を注ぐ女性をひたむきに演じている。背景には、異性愛しか許されないモロッコの男性の生きづらさがある。
「マリヤム・トゥザニ監督は、今年のカンヌ国際映画祭コンペ部門の審査員も務めるなど、世界から注目を集めている映画作家です。前作に続いて、社会のタブーに苦しみながらも、本物の幸せを求めて自分らしく生きようとする人々の姿を描いています。つらい試練の中でお互いを思いやる気持ちや、さりげない会話の奥にある優しさが伝わるように、“本当にこの表現がベストなのか?”と言葉を吟味しながら字幕を作り上げていきました。」(原田さん)
「映画の中では職人の手仕事によって、ブルーのシルクに金糸の刺繍が、一針一針大切に縫い上げられていきます。極上のカフタンにこめられた、失われつつある伝統と、永遠の別れを超えて生き続ける愛。深い葛藤を抱えながらも、夫の幸せを願ってすべてを受け入れる、ミナの強い愛と覚悟に心を打たれます。特にラストシーンの美しさは圧巻です。」(原田さん)
『青いカフタンの仕立て屋』は、2022年カンヌ国際映画祭「ある視点部門」に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞。また、2023年米アカデミー賞®モロッコ代表として国際長編映画賞のショートリスト(最終候補15本)にも選出(モロッコの女性監督初の快挙)された。
今後ますます注目を集めるに違いない新星、トゥザニ監督の傑作をぜひ劇場でご覧いただきたい。
『青いカフタンの仕立て屋』
6.16(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
英題:THE BLUE CAFTAN/2022 年/フランス、モロッコ、ベルギー、デンマーク
/アラビア語/122 分/ビスタ/カラー/5.1ch /字幕翻訳:原田りえ
提供:WOWOW、ロングライド 配給:ロングライド
© Les Films du Nouveau Monde – Ali n’ Productions – Velvet Films – Snowglobe
https://longride.jp/bluecaftan/
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