『サンドウィッチマンライブツアー2019』が3月25日発売! バリアフリー字幕付きで見よう!
サンドウィッチマンのお笑いライブDVDにバリアフリー字幕が付いていることをご存じですか? 実はこの字幕、JVTAが毎年制作をしています。今年発売の『サンドウィッチマンライブツアー2019』で7年連続、今年は9人の修了生が参加しました。そのメンバーの1人としてチェックを手がけた廣野道夫さんは、この作品に特に強い思い入れがあるそうです。話を聞いてみました。
※字幕を手がけた修了生
山野明日香さん、斎藤のぞみさん、星野佐矢子さん、安藤佐和さん、廣野道夫さん、武田和佳奈さん、大崎麻美子さん、原田陽子さん、稲葉紀子さん
JVTA 廣野さんが『サンドウィッチマンライブツアー』DVDの字幕に携わったのは2回目。前回は字幕のライティング、今年は他の方が作った字幕のチェック作業を担当されました。もともとお笑いは好きなジャンルだそうですね。
廣野道夫さん(以下、廣野さん) 実は講座修了後、初めて頂いた仕事が昨年のこのライブツアーの字幕でした。僕が“お笑い好き”なことを考慮してくれたのだと思います。毎年恒例となっている「DJトミーのオールライトイッポン」というラジオ番組をモチーフにしたコントの字幕のライティングをしたのですが、とにかく早口でたくさん喋るのにスクリプトがなくて、聞き起こしからハコ切りまで苦労しました。特に伊達さんは早い(笑)。恒例のものなのでトーンを統一すべく、過去の字幕をすべて見て参考にしました。このコーナーの特徴は笑い声がたくさん入っていること。通常なら音情報として(笑い声)とすることが多いのですが、ここでは音に忠実に文字で起こすことで、より雰囲気が伝わると考え、音に忠実に「ハハハ」などと文字化しました。
JVTA そして今回は、同じ企画をチェックする立場になったんですね。縦字幕で字数制限もタイトだったとか。
廣野さん はい。横字幕だと20字くらいまで出せることもあるのですが、今回は縦字幕で最大11文字でした。チェックの際に読みづらい場合は、12文字にして調整した箇所もあります。話者名を入れる余裕はなく、伊達さんが黄色、富澤さんが青の2色で表示しているので見やすくなっています。特典映像で字幕を色分けしたのはこのパートのみ。ちなみに本編のコントも同じように2色の字幕ですが、メイキングやクイズは白字になっています。
JVTA チェッカーとしてこだわった点があれば教えてください。
廣野さん 名前の表記ですね。伊達さんが街で詩を売るという設定なのですが、はじめは「ソウダミキオ」でした。でもこれは明らかに相田みつをさんをもじっているので、名前には漢字をあてたい! 「相田みきお」で「そうだ」とルビを振ったほうが、字面からも面白さが伝わると思い、ディレクターと相談して表記を決めました。
JVTA それは字幕ならではの面白さですね。オールライトイッポンは本当に早口なので、字幕があったら誰もが便利だと思います。今回は特典映像として「全国ツアードキュメント」や「サンドウィッチマンの本当をあばけ!一般常識クイズ」のパートのチェックもされました。これも本編以上に難しそうですね。
廣野さん 舞台裏のメイキング映像やクイズは、コントの本編よりアドリブが多い。メイキングはいろいろなカットが入ってきて突然しゃべり始めますし、後輩芸人の方の前節がちらっと映る1枚の字幕にも話者名が必要です。楽屋のシーンでもいろいろな人がいるのですが、もし芸人さんだったらできる限り話者名はつけてあげたいと、字幕ライターが細かく調べてくれました。カット変わりも慌ただしく、ハコ切りも大変だったと思います。
JVTA クイズはテロップが多いのが悩みどころですね。
廣野さん そうなんです。クイズはまず、司会が出した問題がテロップとして下部に横位置で出ます。画面には伊達さんと富澤さんが並んで座っていて、それぞれの脇にはセリフが縦のテロップに。さらにそこに入っていないセリフをバリアフリー字幕としてお2人の顔の前にそれぞれ分けて表示といった具合です(笑)。テロップはできるだけ生かし、足りない言葉を字幕で補足してあります。クイズの司会の方もまた早口なので、ハコ切りも苦労したポイントだと思います。顔の前に字幕を表示できる場合は、話者名を省略したり、改行位置を変えたりと工夫しています。バラエティは全般的に聞き起こしとテロップ避けが難しいですね。また、複数が同時にしゃべりだすときも多くて困ります(笑)。
JVTA 通常は使わない、“字幕の2枚出し”もあったとか。
廣野さん メイキングやクイズでは、お客さんやスタッフの笑い声は、あったかい感じが伝わるので字幕に入れたいと思います。画面上にはスタッフやお客さんの姿は見えていないので、字幕を入れないと伊達さんがボケてもリアクションがないように見えてしまうし、臨場感が伝わりません。そこで今回は、セリフを横字幕で出して、見づらくない範囲で笑い声を音情報として縦字幕で出すというパターンもありました。こういう現場感は大事にしたいと思っています。縦位置の(拍手)や(笑い声)の表記が出っぱなしで、横位置のセリフが切り替わることも。どうしても動いているものに目がいくので、同時に切りかえは読みにくい。字幕が変わるタイミングはあえてズらすなどハコ切りにも気を配りました。
JVTA 廣野さんは、音楽ドキュメンタリーや昔の時代劇、映画やドラマなどさまざまな作品を手がけています。ジャンルによって難しさは違いますか?
廣野さん 時代劇は言葉遣いや話者名、語尾が難しいですね。さらに、固有名詞を調べるのが大変です。単語が分からないと聞き取れないし、一度聞き間違えるとそうとしか聞こえなくなってしまう(笑)。かつて1940年代くらいのモノクロ作品を担当したときは、本当に情報がなくて、国立国会図書館で原作を探し、固有名詞だけはチェックしてきました。でも脚本はあくまでも原作をベースアレンジしたもので全く同じではなく、とても苦労したことがあります。
JVTA 音楽ドキュメンタリーはどうですか?
※イメージ
廣野さん ステージと楽屋裏のシーンがありました。ステージでのライブシーンは(拍手と歓声)などの音情報も定番です。楽屋裏のシーンはやはりいろいろな人が出てくるので話者名を調べるのが大変です。僕の場合、Aさんが出てきたら画像検索をして顔と声を確認していました。すると声だけで姿が見えないシーンでも「あ、Aさんだ」と分かるようになります。古い作品は資料があまりないので、こうした地道な作業が必要ですね。
JVTA 他にチェックで大変な点はありますか?
廣野さん バリアフリー字幕の場合、クライアントによってルールがかなり違うので、案件ごとに混ざらないことを意識しています。実はテレビで字幕を見ていても、各局でかなりバラつきがあるのです。例えば、句点を使うか使わないか、携帯電話のマークを出すか出さないか、2行になった時に頭を合わせるか、ずらすかなど。もちろん、基本的なルールはありますが、まだこちらに託されている部分も多いので工夫のしがいがありますね。
JVTA 何か具体的な例があったら教えてください。
※イメージ
廣野さん 例えば、あるアニメ作品のお経を読んでいるシーン。セリフとして漢字だらけの字幕にするか、音情報として(読経)とするか迷いました。最終的には、分かりやすく(読経)としました。また、サンドウィッチマンの出囃子では、通常、音楽を表す♪だけでなく、「♪ 『青葉城恋歌21』」と表示しました。また、声のトーンが分からない場合、やはり、カタカナや記号(!、?、…)などは重要、これを多用するのもバリアフリー字幕の特徴ですね。
JVTA 確かにバリアフリー字幕では、言いよどみの「…」もよく使いますよね。翻訳字幕とはまた違うセンスが問われるかもしれません。
廣野さん はい。JVTAで講義を受けて面白いと思ったのは、同じ日本語の作品を見て課題に取り組んでいるのに、クラスメートが作った字幕が全く違うということ。翻訳字幕ならそれは当たり前ですが、日本語から日本語にしても違うんですよね。「ここでハコを切る人がいるんだ」「この音情報を入れるんだ」と、全く同じになることがないのは不思議で面白かった。「バリアフリー字幕ってただ書き起こしてるんじゃないの」とよく言われるのですが、決してそうではないと実感しました。
JVTA バリアフリーの字幕の場合、自分の感覚だけで考えるのではなく、「これで分かるかな、伝わるかな」と考えて、もう1歩先をおもんばかることが求められると思います。講座では、その姿勢や意識を学んでほしいと思っています。
廣野さん そうですね。実際に仕事で字幕に携わると、講座で習ったルールも、たくさんある中の一つでしかない。例えば、「金をだせ」というセリフを一つとっても「かね」と「きん」と両方にとれてしまう。だからあえて「かね」とルビを振ろうという意識ができるかどうかが鍵なのだと思います。クライアントによって、これも指示が分かれますが、こちらが気づかなければ選択の余地もない。その視点は大事にしていきたいと思います。
JVTA 『サンドウィッチマンライブツアー2019』でも、ぜひそんな視点で字幕を見てほしいですね。ありがとうございました。
◆『サンドウィッチマンライブツアー2019』
https://www.hmv.co.jp/news/article/2001281027/
◆MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座
https://www.jvtacademy.com/chair/lesson3.php
◆サンドウィッチマンライブツアー 過去の字幕秘話はこちらからご覧ください。