【吹き替え翻訳】映像翻訳者から声優へと台本の“バトン”が渡される裏側に迫った!
日本映像翻訳アカデミー(JVTA)は、声優の榎本 雄二さん(写真右)と上原 かずみさん(写真左)をお招きした特別セミナー「みんなで吹き替え~プロの声優×翻訳講師と一緒に大勉強会!」を開催した。これは2022年夏のイベントの第2弾。好評につき、またお2人にご登壇いただき、今回も約170名が参加した。
吹き替え翻訳とは、海外の映画やドラマに入っている外国語の音をすべて日本語に置き換え、スタジオで声優がアフレコをするための台本を作る作業。つまり、映像翻訳者が作成したセリフを声優が読むことで作品が完成する。訳文の長さをオリジナルの映像のセリフに合わせる尺合わせのほか、俳優の口の動きに合わせるリップシンクというスキルも求められる。
声優のお2人が台本を受け取ってから収録に臨むまでの間には視聴者の目線で全体を見てから、演じる人物や登場シーンについて深く考えていくという。時代が古い作品なら当時の時代考証やイントネーションの確認、医療系など専門的な分野なら専門用語を調べて、今このシーンで何が行われていてどういう状況なのかを把握する。映像翻訳者もセリフを訳すだけではなく、その背景や歴史、用語などを調べるのが必須なだけにその点ではお互いに通じる点が多かった。
セミナー開催に先立ち、約170名の参加者に任意の事前課題を送付した。そのうち、自主的に約70名が短編映画の2つのシーンの吹き替え原稿を作成し提出。JVTAの石井清猛講師が全員分を見て、気になったセリフをピックアップし、当日は、皆さんの原稿を組み合わせてブラッシュアップしながら、訳例を作り上げた。映像に映る人物の口元と声優が話すセリフがずれていると視聴者に違和感を与えてしまう。登場人物が話す呼吸を見極めるのも吹き替えならではのポイントだ。句読点などを意識して原音が2呼吸なら訳語も2呼吸で合わせていく。さらにキャラクターを想定した言葉遣い、語尾や言い回しなどについて榎本さん、上原さんのアドバイスも伺いながら、最適な言葉選びについて吟味していった。
◆知っトクポイント◆吹き替えに適した、声優が読みやすい原稿とは
進行役 岩崎:吹き替えに敵した日本語について教えてください。
登壇者 榎本雄二さん:
キャラクターが統一した一貫性があるといいですね。
途中でセリフの言い回し、このキャラクターのこの風貌のこの体形のこの雰囲気の人が本当にこういう言葉遣いでこういう喋り方をするだろうか?というセリフを台本の中で見つけた時に、自分の心の中でしっくりこない時もあって…。そういった場合は、もちろん翻訳していただいた台本は大事にするのは大前提なんですけど、演者としての気持ちは「あなた」より「あんた」のほうが演じやすいということですね。吹き替えに関して言いやすいセリフというとそういう感じですかね。最初から最後までキャラクターらしさを感じながら翻訳していただけると嬉しいですね。
登壇者 上原 かずみさん:
やはり、聞く日本語と字幕で見る日本語は違うので、同じ意味でも、聞いた時に「なんだ? この言葉?」と考える余地を与えない言葉選びがすごく大切だと思うんですよね。例えば、今回の題材のテキストの後半パートthe mocking spurnsというワードで、「嘲笑」とそのまま吹き替えにすると一瞬、「ん?」となると思うんですよ。吹き替えなら「あざ笑う」など聞いた時にすっと入る言葉のほうが良いと思います。喋っているときにも「何だ、この言葉?」というセリフがあったりするので、そういうところに気をつけると、よりよい言葉選びができると思います。
声優の息の演技が圧巻
そして、いよいよ、参加者の皆さんと石井講師が作り上げた台本が完成し、声優お2人による生のアフレコが実現! 台本上で文字として見ていたセリフに息吹が吹き込まれ、登場人物と一体化する。中でも圧巻だったのは、アクションシーンの息の演技だ。同じシーンを息の演技なしとありの2つのパターンで演じていただいた。「うっ」「あっ」など言葉にならない声が入ると一気に映像がより立体的になる。人物の動きや相手との距離感なども意識した臨場感のある演技に圧倒される。最後のQ&Aでも多くの質問が寄せられた。参加者には映像翻訳を学習中の方やすでにプロとして活躍する方も多く、「正直、吹き替え翻訳は難しくて苦手意識をもっていたのですが、今回のセミナーに参加して、吹き替え翻訳に対する挑戦意欲が俄然湧いてきた」「今日のこのセミナーを見て、吹き替えの楽しさを実感した。声優の方の話しているところを想像すると、翻訳を頑張ろうと思えるようになった」などの感想が届いた。
登壇者 お2人からのメッセージ
◆榎本雄二さん
今回はたくさんの方にみていただいて本当にありがとうございました。
改めて皆さんの努力やセンス、いろんなことでお時間をかけていただいて日本語訳の台本にしていただいていることが分かり、我々はそのバトンを受け取ってよい作品にできるようにしたいと感じました。また、台本を受け取る前の皆さんのお仕事を知ることで、私自身いろいろな視野や見方ができました。素敵な大勉強会に皆さんとご一緒できて嬉しかったなと思っております。本当にありがとうございました。
◆上原かずみさん
自分も今回、(なんちゃってなんですけど)グーグル翻訳を駆使して翻訳をやってみたんですが、やっぱり直訳するだけではない言葉がすごくたくさんあって…。それこそ、役者でいうところのセンスだと思うんですよ。言葉選びのセンス、翻訳するセンスだと思います。今回70名の方は(事前課題として)それをやってくださったということで、皆さんすごく英語も勉強しているし、センスも磨いていてすごいな!と思いました。これからもよろしくお願いします。
第2弾の今回も大盛況となった吹き替えセミナー。翻訳者と声優がそれぞれの仕事を理解し、リスペクトし合える貴重な機会に早くも続編を望む声が多く寄せられている。今回見逃してしまった方はぜひ次回、ご参加ください。
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