【冬セミレポート】制作者の意図をくみ取り、ガイドするポイントを見極める
開催日時:2月22日(木)19:30~20:30 ※日本時間
登壇者プロフィール
ゲスト:川北ゆめき氏(映画監督)
1994年生まれ。神奈川県出身。中央大学入学と同時に映像制作を始める。中編映画『変わらないで。百日草』が、TAMA NEW WAVEやカナザワ映画祭などの多くの映画祭で入選を果たす。2018年に監督した長編映画『満月の夜には思い出して』は、映像と音楽の祭典 MOOSIC LAB 長編コンペティション部門に正式出品され、音楽を担当した大槻美奈が特別賞を受賞した。同作は、2019年に渋谷シネマ・ロサ、京都出町座などで劇場公開された。
2020年には、ヨコハマ映画祭で監督賞を受賞した城定秀夫監督『アルプススタンドのはしの方』のメイキング監督を務めた。
公式HP:合同会社ユメキラメクhttps://yume.kirameku.co.jp/
進行役:石原彩(日本語字幕ガイド制作ディレクター・講師)
日本映像翻訳アカデミー(JVTA)「バリアフリー講座」修了生。10年以上にわたり、劇場公開映画・アニメ・ドラマ作品の日本語字幕ガイド制作に携わる。
見えづらい人のための、映像作品の「画」が伝えている情報を言葉で説明する音声ガイドや、聞こえづらい人に「音」が伝えている情報を文字にして表示する日本語字幕ガイドの普及が進んでいる。このセミナーでは川北ゆめき監督が自身の体験を基に5年かけて制作した映画『まなみ100%』を題材に、監督が作品にこめた思いを聞きながらガイド制作の裏側を解説し、参加者もセミナー内で字幕ガイド作りに挑戦した。この日、取り上げたのは、主人公の「ぼく」と学生時代に憧れていた瀬尾先輩との再会のシーン。ガイド制作者が気になったポイントは、就活中の瀬尾先輩が手にしているお酒が缶ビールでも酎ハイでもなく、カップ酒だという点だ。
◆作品の背景や人物の関係性などを踏まえて字幕化する
瀬尾先輩は容姿端麗な部活のマドンナ。そんな先輩がカップ酒を手に夜の公園で酔っ払ってふざけているシチュエーションや、「ぼく」との関係を踏まえた上で字幕を作ることが求められる。この作品は「ぼく」自身の、一人称視点の青春物語。「ぼく」と自分の青春時代を重ね合わせて懐かしむ視聴者もいれば、全く新しい体験として見る視聴者もいる。視聴者に作品の楽しみ方を委ねるため、制作者はどちらの立場も取らず、客観的に読みやすい字幕を制作することが求められるが、主観を入れた字幕表現で演出しなければならないセリフもある。題材となったシーンはラストにも伏線がある重要なシーン。千鳥足になっている先輩の楽しそうな、たどたどしいセリフにこだわり、あえて崩した表現の「きもち~よ~」と「気持ちいいよ」を使い分けた。こうした判断にも字幕制作者は丁寧に時間をかけて考えているのだという。
◆映像に映る何をどんな言葉で音声にしてガイドするのか
一方、音声ガイドにはまた別の視点が必要だ。映像から得る視覚情報はとても多い。すべての情報を漫然とガイドするのはではなく、色、形、場所、位置、動きなどの中で何を優先して伝えればよりその映像を楽しめるかを常に考える必要がある。字幕作りに取り上げた同じシーンの音声ガイドも参加者と共に聞くと、ここでも瀬尾先輩が手にする「カップ酒」がガイドされていた。また、スーツ姿の瀬尾先輩が始めは束ねていた髪を公園でほどいていることにも言及。ガイドを聞いた川北監督が、彼女が手持ち無沙汰のように自分の指に触れながら話すしぐさの描写が面白かったと話していたのが印象的だった。
参加者からは、「とても素敵な作品で字幕/音声ガイドのグッとさせる工夫に感動しました」「ディスクライバーという職業を初めて知りましたし、映像のどの部分を音声ガイドとして視聴者に届けるのか、という視点がとても面白いと思いました」などの声が寄せられ、翻訳字幕や吹き替えとは違う難しさを実感したようだ。