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修了生・堀上香さんに聞く ミュージカル『シー・ラヴズ・ミー』の日本語字幕秘話

修了生・堀上香さんに聞く ミュージカル『シー・ラヴズ・ミー』の日本語字幕秘話

ミュージカル好きな人必見の新企画「松竹ブロードウェイシネマ」が4月19日から銀座の東劇でスタートします! 本場ブロードウェイで上演されたミュージカルや舞台などを映像化し、映画館で楽しめるというスペシャル企画。その記念すべき第1弾作品『シー・ラヴズ・ミー』の日本語字幕をJVTA修了生の堀上香さんが手がけました。『シー・ラヴズ・ミー』は、トム・ハンクスとメグ・ライアン主演の映画『ユー・ガット・メール』の原点となった物語。文通相手との恋は叶うのでしょうか…。
 
★関係者のお2人からJVTAにメッセージを頂きました!
 
松竹(株)「松竹ブロードウェイシネマ」プロデューサー 張本有希さん
『松竹ブロードウェイシネマ』シリーズ を通して、ニューヨーク・ブロードウェイを中心とした舞台の熱気、本場で味わう感動をそのまま、日本映画史上初で、より多くの方々に映画館で楽しんで頂きたいです! 是非“本物”をご堪能ください!
 
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©Joan Marcus
 
「松竹ブロードウェイシネマ」宣伝担当 朴美英(パク・ミヨン)さん
『シー・ラヴズ・ミー』は映画館で上映するためにクオリティーの高い撮影技術と映画のようなカット割りとカメラワークで、ライヴ劇場でしか感じられない感動はそのままに、さらにその場では感じにくい細かいキャスト側の芝居と表情まで、日本語字幕付きでお楽しみいただけます。新たにリマスターした映像で完成された“本物”を映画館でお届けいたします。
 
主演は、映画『シャザム!』のザカリー・リーヴァイ、舞台『マイ・フェア・レディ』のローラ・ベナンティが務めており、TVドラマ『アリーmy Love』『モダン・ファミリー』で沢山の日本ファンを獲得したジェーン・クラコウスキーら人気俳優達が、脇を固めております!
 
デジタル化になりつつ忙しくなりがちな昨今は、表面だけで判断されることが多くて本当の気持ちを伝えられない、本当の自分を表すことが難しく感じる人が増えています。
 
本作品を通して、心の温かさを失っているすべての人々に、本当の自分を表す“勇気”を!
試練があっても夢を諦めず頑張っている現代の女性たちには、“インスパイアー”を!
インスタント恋愛に浸っているYouth(ユース)には、本物の“ロマンティック”を!
さらに、エンタテインメントと総合芸術を愛する方々へ 音楽、ダンス、ファッションなど見どころ満載の「本物」のステージと“アミューズメント”を!
 
お届けさせて頂きたいと思っております。ぜひご覧ください。
 
予告編はこちら

 
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この企画は、本場のミュージカルを日本語字幕付きで観られるのも魅力です。自身もミュージカル好きだという堀上さんに、ミュージカルの字幕づくりについて聞いてみました。
 
JVTA 堀上さんご自身も舞台をよくご覧になるんですか?
 
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堀上香さん(以降、堀上さん)高校生の時に『ピピン』をテレビで見て「すごい!」と感動しました! その後は『オール・ザット・ジャズ』『ヘアー』『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』などのミュージカル映画にはまりました。フレッド・アステア出演のMGMミュージカルや、ジーン・ケリーの『雨に唄えば』などを夢中になって見ていた時期もありましたね。ボブ・フォッシーが特に好きで、『シカゴ』が再演した時はニューヨークで観劇。さすがに本場には頻繁には行けませんが、来日のミュージカルはよく観に行きます。最近では『キンキーブーツ』の公演を観ました。7月の『王様と私』もチケットを購入済み。ケリー・オハラの歌を聴くことをとても楽しみにしています。『シー・ラヴズ・ミー』は、名前は知っていましたが見たことがなかった作品なので今回観るのが楽しみでした。
 
JVTA 来日のミュージカルを観る時は、基本的に舞台の脇に日本語字幕が出るのでしょうか?
 
堀上さん 舞台の上部や下部に白い壁があって字幕が投影されることもありますが、私が知る限り一番多いのは舞台の両脇に縦長の電光掲示盤が2本あるケースです。実は以前、イタリア語のオペラの上演で、このパターンの字幕を担当したことがあります。
 
JVTA それは興味深いですね。具体的に教えてください。
 
堀上さん 生の舞台に字幕を合わせるために、現場で凄い職人技を見ました。楽譜を見ながら舞台の進行をリアルタイムでチェックして、字幕を出すタイミングのキュー出しをするスタッフの方がいるんです。その人が字幕を出す担当の人に合図を送り、手動で機械を操作して字幕を1枚ずつ出していくんですね。観客の皆さんは舞台を観ながら脇の字幕を見るため、字幕担当の私には「画面の中に字幕が出る映像作品と違い、表示時間が短すぎると読めません。1秒以下の字幕は作らないでください」」という指示がありました。この時は通常の映像字幕よりも表示可能な文字数は多めで、縦で20文字ぐらいまで出せたのです。ゲネプロなどでもギリギリまで字幕の調整があり緊張感のある現場でしたが、舞台好きの私には楽しかったですね。
 
JVTA 手動で字幕! 生の舞台ならではの技術ですね。今回手がけた『シー・ラヴズ・ミー』は映像の中に字幕がついているので見やすいとか。歌の翻訳がメインだそうですが、映画のセリフの字幕づくりとは違う手法がありましたか?
 
堀上さん この作品は全体で歌が7割、セリフが3割といったところでしょうか。歌の場合、私はまず音楽を聴きながら小節に合わせてハコ切りをしていきます。だいたい、2小節ごとにハコを切っていくことが多いですね。同じ長さで字幕を出していくとリズム感が出るので、歌を聴きながら字幕を読みやすくなるんです。その後で歌い上げて伸ばすところや、アクセントで短いフレーズなどは臨機応変に変えていきます。なかには2小節で切るとネタバレになってしまう箇所もあり、内容やタイミングを見ながら調整が必要です。また英語ならではの表現の時は倒置法で字幕にしたほうが映像とぴったり合うパターンもあります。早口な歌も多いので、同じようなテンポで小節を切ったら歌詞が溢れてしまうことも…。でも、物語の伏線が歌に沢山入っていて省略できないので小節を短めに切るなど、ハコ切りは工夫しましたね。
 
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※イメージ
 
JVTA それは映画でBGMとして歌が流れている時も同様ですか?
 
堀上さん 基本的にはそうしています。歌にはフレーズがあるので、1番2番がある場合は譜割りも意識して合わせるようにしています。観ている人はそこまでこだわっていないかもしれませんが、私は気になってしまうのです。ちなみに映画の場合は権利関係などもあり、時にははじめから歌に字幕はつけないという指示もありますが、ミュージカルの場合は、もちろんマストですね。今回も20曲以上に字幕をつけました。セリフと違って歌詞の場合、チドリ(歌詞を字幕にするときに段の頭を下げること)にしないといけないので、字数が少なくなってしまうという苦労もあります。
 
JVTA 今回の字幕は基本的に横字幕ですか?
 
堀上さん はい、横字幕です。実は、2017年にも同じブロードウェイシネマの『ホリデイ・イン』というミュージカルの字幕を担当しました。その作品ではタップダンスの場面が多く、横字幕を表示すると足が隠れてしまうので、縦字幕にすべきか?という話が出ました。これもミュージカルならではのエピソードかもしれません。
 
JVTA ミュージカルには複数で歌う場面もありますよね? 
 
堀上さん そうなんです。今回の作品でもいくつかあるのですが、例えば「I Don’t Know His Name」という曲では、ヒロインのアマリアと同僚のイローナが2人で全然違う歌詞を歌います。知的な文通相手への恋に夢中なアマリアと、恋愛では不運続きで次こそはまともな男性と出会いたいと必死のイローナが対照的な歌詞を同時に歌っていくのです。この場合は中央を空きスペースにし、右と左で2つに分けてそれぞれの字幕を出しています。同じタイミングで2つの字幕を出しているんですね。こうしたパターンは今回複数ありました。
 
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※『シー・ラヴズ・ミー』より©Joan Marcus
 
JVTA それは翻訳者にとって見どころの一つですね。
 
堀上さん 字幕の場合、複数のセリフが被るのは一番の悩みどころですが、以前面白い体験がありました。『RWBY』というアメリカのアニメの字幕を担当した時、特典として音声解説の字幕も手がけました。この音声が製作関係者3人の会話なのですが、ずっと同時に喋っているわけです。どこでどのセリフを拾うべきか…。それは大変な作業でグッタリしてしまいました。実はその後、関係者が来日した際にその3人に会う機会がありました。「困ったことや聞きたいことがあったら何でも言ってね」と言われた私は思わず、「3人でしゃべりすぎ。字幕にするのが大変なんです…」と。「そうか、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ(日本語で)」と言ってくれたものの、次のシリーズの音声解説でも状況は変わりませんでした…。おかしかったのは会話の中に、「日本で字幕翻訳者に3人一緒にしゃべりすぎで困るって言われちゃってさ。ゴメンナサイ」と入っていたこと(笑)。「私のことだ!」と苦笑いをしながら訳しました。後にも先にも翻訳原稿の中に自分が出てきたのはこの時だけですね(笑)。
 

JVTA それはお疲れ様でした(笑)。でも翻訳者としては貴重な体験ですね。最後に『シー・ラヴズ・ミー』で見逃せないポイントを教えてください。

堀上さん 一言だけ歌うところもきちんとアップを抜くなど、カメラワークもすごく計算されています。顔をアップにしてくれるので、唄っている表情や衣装、アクセサリー、セットなどもよく見えます。ミュージカルファンには嬉しいですよね。生で観劇の時は席が離れていたらこれは叶わないので、映像ならではだと思います。特に主役ジョージ役のザカリー・リーヴァイはコメディの間の取り方や表情が絶妙なので、映像でアップになるとより魅力的です。ドラマ『アリーmy Love』にも出演のジェーン・クラコウスキーのダンスやコミカルな演技も素晴らしいのでぜひ注目してください。そして何といっても、アマリア役の ローラ・ベナンティの歌唱力! 感情表現が豊かで、聴く人の心を揺さぶります。また、「Twelve Days To Christmas」というクリスマスショッピングの歌を歌う場面は舞台上がすごいことになっていくのでお楽しみに! ネタバレになるのでこれ以上は言えません!
 
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※『シー・ラヴズ・ミー』より ©Joan Marcus
 
今回のように舞台と同じ画面上で字幕を読めるのは、とても見やすいと思います。皆さんもぜひ、映画館でご覧ください!
 
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「本場の舞台を海外までわざわざ観に行くのはハードルが高い」という皆さんにもおすすめです。『シー・ラヴズ・ミー』は4月19日(金)から東劇で3週間限定上映。詳細は公式サイトをご覧ください。今後は年に3~4本くらいのペースでさまざまな作品が上映される予定だそうなので要チェックです。
 
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