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【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭】未来の巨匠をサポートする英語字幕PROゼミをレポート

【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭】未来の巨匠をサポートする英語字幕PROゼミをレポート

デジタルで撮影・制作された作品のみにフォーカスした国際コンペティション、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が7月13日に開幕します。この映画祭は、若手映像クリエイターの登竜門としても知られており、未来の巨匠の作品に出合えるのが最大の魅力。過去には昨年大ヒットとなった『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督をはじめ、白石和彌監督(『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』)や中野量太監督(『長いお別れ』『湯を沸かすほどの熱い愛』『チチを撮りに』)など今注目のクリエイターがアワードを受賞しています。JVTAは毎年、字幕制作でサポートしており、今年も6本の長編、5本の短編の英語字幕を修了生が手がけました。

 
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こうした映画祭は、映像翻訳者にとっても実践的な経験を積める貴重な場です。JVTAでは、「英語字幕PROゼミ」を開催。英語字幕PROゼミとは、映画祭などで上映予定の作品にゼミ形式で字幕を付けるもので、MTCディレクターから2度のフィードバックを受けながらSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の上映作品のうち、数本の短編の字幕を完成させます。

 
今回は、短編『産むということ』(英題:The Birth マキタカズオミ監督)の英語字幕を作成するゼミを紹介。石川エディス講師が担当するチームの2度目のフィードバックの様子を取材しました。字幕を担当したのは、JVTAの日英映像翻訳科修了生の、田中麻衣子さん、石原麻貴子さん、菅野光雄さんの3人です。
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『産むということ』は、出生前診断をテーマにした作品。生まれてくる子どもに障害がある可能性を告げられた夫婦が直面する現実を27分という短い時間で描いた意欲作です。3人の翻訳者がそれぞれ10分弱を担当し、英語字幕を作成しました。

 
字幕をブラッシュアップするために、フィードバックではどんなポイントを話し合っているのでしょうか? レポートします。

 
『産むということ』予告編


 
◆お腹の子どもに障害がある可能性を告げられ、出生前診断を受けることになり、とまどう妻に夫がかける一言
受けてから考えてもよくない?
(受講生の字幕)Let’s decide after the test.


 
エディス講師 検査が終わっても結果がすぐに出るとは限りません。その場合、ニュアンスが微妙に変わってくるので、test ではなくresultを使ったほうがよいですね。

Let’s decide after the result.

 

◆職場で子どもが生まれることを話す夫に、同僚が自分の子どもが使っていたベビーベッドをあげると提案。それを聞いていた若い同僚が「俺もいいっすか? ベビーベッド」と言ったことに対するつっこみの一言。
お前はまず相手な
(受講生の字幕)Who will use it?
※「誰が使うっていうんだよ」という意味に意訳


 
エディス講師 Willは現実的でありそう、wouldはありえないというニュアンスになります。原文の少し皮肉っぽい感じを出したいところです。
Who’d even use it?

 
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※『産むということ』より

 
◆受講生からの質問「字幕は書き言葉? それとも話し言葉であるべきですか?」
エディス講師 それは作品の内容や話者と会話の相手との関係性によります。基本的には、SNSでよく使うような略語、cuz(because)、cya (see you)sry ( sorry)などを字幕に使うのはやはり違和感があります。例えばbecauseを短縮した 、’causeなら字幕でも許容範囲です。

 
日本語は「私」「俺」「お前」「君」「あなた」「あんた」など1人称と2人称が豊富なので、人物同士の関係性は分かりやすい。それを参考にして口調を決めていくのも一つの方法です。この作品のように医師と患者の会話、同僚同志の会話、夫婦の会話はそれぞれトーンが違うはず。そういう視点でワードチョイスをするといいでしょう。

 
◆【受講生からの質問】「中絶」を訳すとき、abortionはNGですか?

 
エディス講師 辞書で調べると確かにabortionというワードが出てきます。しかし、国や宗教によっては禁止されているという、デリケートなテーマです。特に英語字幕は、さまざまな国の人が見るという側面もあるので、end of pregnancy といったソフトな表現のほうがベターだと思います。

 
◆【受講生からの質問】会話の中で「うん」という短いセリフは字幕にしませんでした。これはOKですか?

 
エディス講師 日本語ではyesの意味で「うん」「はい」、またNoの意味で「いいえ」「いや」など短い相槌を打つことがあります。しかし、このニュアンスは海外の人には分からないので、字幕がないと情報を外されたと感じます。短いのでハコ切りが難しい場合もありますが、1枚の字幕の中で話者ごとに2段に分けて表記するなど工夫できます。字幕はinvisibleがベスト。読んでいることを忘れさせるほど、自然に読めるのが理想です。何か音がするのに字幕が抜けていて「あれ?」と思わせてしまうのはもったいないですね。

 
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※『産むということ』より

 
◆実は同僚が子どもの虐待をしていたという事実を聞いた怒りの一言
何かきづかなかったんすか
(受講生の字幕)How did you not know?


 
エディス講師 このセリフは激しく怒鳴っています。でも、このままだと「え? 知らなかったの?」くらいのニュートラルなイメージ。より強い言い方にするにはdidではなく、couldを使いましょう。このワードを変えるだけで、「知らないってどういうことだよ!」という強く責めているイメージになります。
How could you not know?

 
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※『産むということ』より

 
◆●●●の可能性があると医師に告げられた母の一言。
※ネタバレにならないよう、伏せています。
●●●ってこの子がですか?
(受講生の字幕)Does my baby have ●●●?


 
エディス講師 この表現はシンプルすぎます。もっと驚きや困惑を示す言い方にしたいセリフです。
Are you saying my baby has ●●●?
Do you mean my baby has ●●●?


 
◆【受講生からの質問】英語の時制の感覚がつかめません。効果的な学習法はありますか?

エディス講師 文法を学ぶには本を読むのが一番勉強になります。映画やドラマで字幕を見ていると、ストーリーを追うことに気を取られて、細かい文法を見ている余裕がありません。一方、本は文字だけを追うので文法や時制などを見ながら自分のペースで読み進めることができます。本に書かれているのは過去形の表現が多いので、そこからさらに過去完了などの表現が沢山出てきます。こうした多くの英文例を見ることで感覚がつかめると思います。

 
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字幕を手がけた翻訳者は、田中麻衣子さん(リーダー、写真中央)、石原麻貴子さん(写真左)、菅野光雄さん(写真右)の3人。初めてチームでの翻訳を手がけました。5月10日に素材到着後、リーダーの田中さんが尺や文字数を見ながら3つのパートに分割。前半が田中さん、中盤は石原さん、後半を菅野さんが担当しました。約2週間で各自が翻訳し、3人で各パートを照らし合わせてブラッシュアップ。初稿を6月4日に納品後、JVTAでの2度のフィードバックを基にさらに直して6月21日に最終納品となりました。PROゼミに参加した感想を聞いてみました。

 
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田中麻衣子さん(リーダー) 文法や時制が合っているかに囚われてしまい、お2人の字幕もそこばかりチェックしていました。一方で、自分が日本語と字数制限にしばられやすいという傾向も再確認「字数の制限もあるし、この表現で分かってくれるだろう」といった甘えに、びしっと指摘をいれてもらえたのは、絞り切った脳をもう一度揺り動かす良い機会で、チームのお2人のご意見から学ぶことが多かったです。フィードバックでは、1行ずつ丁寧に見てもらえたのが有難ったです。「英文としては間違っていないけれど、映像に合っていない」という指摘で、単語を一つ入れ替えることで字幕に勢いがつくのが印象的でした。フィードバックを受け、字幕が映像に近づいていくのがよく分かりました。そして、2度繰り返し受けることで、さらに良い字幕になる!ということを実感しました。

 
石原麻貴子さん 調べものより、その場その場で適切な表現を決める方が難しかったです。日本語の決まり文句を英語ではなんと表現するのか、感覚的に分からずに苦労しました。田中さんが文法や時制を細かく見てくれたので、私は解釈やセリフのニュアンスについて意見を出させてもらいました。私自身も自分では気づかない視点から指摘してもらえたのが良かったです。お互いの意見の間を取ったり、時には自分の意見を通したり。それがチームの面白さでした。映画祭の上映作品なので緊張感もありましたが、講義で課題に取り組むよりもターゲットが明確でやりやすいと感じました。

 
菅野光雄さん 作中に「母子手帳」や「桜の花」などを映したシーンに、英語字幕でも日本ならではの文化的な意味を伝えるべきなのではと考えて検討しました。最終的には、講師の指導で今回は入れない判断になりましたが、視点は面白いと評価していただきました。また、こうした提案がある時は申し送りに入れて最終判断を仰ぐという具体的な対処法も学べました。3人でのチーム翻訳は初めてだったので、土壇場でバタバタしましたが、もう1回一緒にやったらうまくいくはず。PROゼミでこれが体験できて良かったです。

 
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PROゼミのメリットは、チーム翻訳やフィードバックで他者の意見を聞きながら学べることに加え、プロとしての仕事の進め方を具体的に体験できることにあります。皆さんもぜひ、挑戦してみてください。

 
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
2019年7月13日(土)~7月21日(日)
SKIPシティ 映像ホール/多目的ホールほか〔埼玉県川口市上青木3-12-63〕
メディアセブン〔埼玉県川口市川口1-1-1 キュポ・ラ7F〕
公式サイトhttp://www.skipcity-dcf.jp/ 

 

「私も字幕を作ってみたい!」という方はオープンスクールへ!
https://www.jvta.net/tyo/open-school/
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