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【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭×JVTA】新進気鋭のクリエイターの映画に向き合う英語字幕PROゼミとは?

【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭×JVTA】新進気鋭のクリエイターの映画に向き合う英語字幕PROゼミとは?

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭は2004年にスタート。“新たな才能を発掘し、育てる映画祭”として知られ、これまで白石和彌監督(『孤狼の血』)をはじめ、中野量太監督(『湯を沸かすほどの熱い愛』)、上田慎一郎監督(『カメラを止めるな!』)など新進気鋭の才能あるクリエイターを輩出してきた。20周年を迎える今年、“コンペティション”には、過去最多の 1,246 本の応募作から厳選した 24 作品がノミネート、すべて国内初上映となる。JVTAは毎年、国内コンペティションの上映作品の英語字幕制作で協力してきた。今年も長編5本、短編5本の字幕を修了生が手がけている。
 


 

JVTAでは毎年、この映画祭とコラボした英語字幕PROゼミを開講。英語字幕PROゼミとはスポッティングから英語字幕づくりに取り組み、日英映像翻訳科の講師や翻訳ディレクターによる2度のフィードバックを受けられるゼミ形式のワークショップだ。今年も6人が参加し、2本の短編映画『野ざらされる人生へ』と『勝手に死ぬな』の英語字幕を担当。それぞれ3名の翻訳チームに分かれ、綿密な話し合いと細かい指導の下で英語字幕を完成させた。JVTAは、仕事としての実績を積みながらプロの指導によりさらなるスキルアップができるこうしたゼミで修了生のデビューをサポートしている。自分が英語字幕をつけた作品が映画祭で上映される「英語字幕PROゼミ」とは何か? 今回は、2つの翻訳チームに取材、作品の見どころ、参加者の声と共に紹介する。
 

『勝手に死ぬな』英題:Don’t Go(天野大地監督)
死んだ人間の記憶の断片を、特殊な装置を使って覗き見ることができる世界。海辺の町で交通事故に遭い急逝した父は、なぜか行き先を家族に偽っていた。遺された家族は真相を確かめるべく、亡き父の記憶に潜入する。(公式サイトより)

©DrunkenBird

 

英語字幕を手がけたのは、下平里美さんと柿内久美さん、富山彩さんの3人。チーム翻訳と講師のフィードバックを経て実際の映画祭の上映作品の字幕を作成できることは、翻訳者にとって一つの目標でもあり、柿内さんと富山さんは今回がこのゼミに3回目の参加となった。PROゼミでは、一つの作品を3つのパートに分けてまず各自が翻訳。その後、ジェシー・ナス講師による2度のフィードバックを経て全員で1つの字幕に整えていく。このゼミで話し合うのは、決して複雑な表現ばかりではない。講師のフィードバックではセリフの温度感やくだけ感について貴重なアドバイスがたくさんあり、勉強になったという。勉強会では間違いではないが、より会話の内容にあうカジュアルな表現に変える、人物の心情にあったより感情的な表現にするなどのブラッシュアップを行う。シンプルなセリフもそのニュアンスを伝えるために丁寧に掘り下げていく。
 

©DrunkenBird

「作品に対する自分の解釈と他のメンバーや講師の解釈を照らし合わせながら、セリフごとに何の情報(混乱・怒り・興奮などの感情やストーリーの流れ)を優先して訳すべきかを試行錯誤する過程が難しく、同時に面白くも感じました。自分では問題ないと思っていた訳が別のニュアンスに解釈される可能性がある点など、気づきも多い充実した内容のゼミでした。」(下平里美さん)
 

「私のパートは意訳が多いかもしれません。セリフ自体はあまり多くなく間が多かったので、そのまま翻訳すると分かりづらくなってしまうと思い、映像から感じる雰囲気などからかなり頭をひねって翻訳しました。全員で統一すべき単語や解釈についてなど、3人で多くを話し合いました。特に印象に残っているのは、私のパートでチームメートのお二人と意見が分かれたことです。後のシーンに繋げるために意訳をしたことを伝えご理解いただいたことがありました。最終的には私の翻訳が採用になりホッとしました。」(柿内久美さん)
 

「スピード感のある会話部分では文字数内で情報を入れ込むところにやはり苦労しました。きれいに短くすると台詞のトーンに合わなくなったりしてリライトを重ねましたが、100%の表現になかなか至らず悔しさも味わいました。また担当パートの切り替えの部分にまたがるシーンでのつながりを意識したワードチョイスも何を使うのか話し合いました。含みのある台詞部分などは雰囲気・リズム・温度感などそれぞれの解釈についてもしっかりと話し合いました。」(富山彩さん)
 

©DrunkenBird

『勝手に死ぬな』は、はじめは意表を突く展開だが、最後はじわっとくる、味わい深い作品だ。作品に深く向き合った翻訳者に見どころを聞いてみた。
 
「節々に盛り込まれた“間”や音が絶妙な笑いや涙を誘います。悲しいけれど、見終えたときには笑顔になれる心温まる作品です。」(下平さん)
 
「クスッと笑えてスゴク泣け、決して多くないセリフのその間からジンワリと心に響く、そんな家族の物語です。是非、日本語と英語字幕を比べながら観ていただきたいです。」(柿内さん)
 
「25分の短編とは思えない、笑って泣ける満足度の非常に高い作品です。素材の確認で視聴した時から心をつかまれました。監督がコメントされているように『普遍的な題材をあまり見たことがないジャンルの組み合わせ』で観ることにより強烈に印象づけられると感じました。諸外国と比べて淡白に見える日本の家族の、実は強く繋がっているところ、愛情も深いところがみられる素晴らしい作品だと思います。ハイライトはラストのお父さんの表情ですね。」(富山さん)
 

©DrunkenBird

『勝手に死ぬな』詳細はこちら
https://www.skipcity-dcf.jp/films/js08.html
 

『野ざらされる人生へ』英題:To a Hard Life(永里健太朗監督)
SNSで他人を中傷して憂さ晴らしをするだけが日課のたけし。ある朝目覚めると、見たこともない全く別人の姿になっていた。その容姿に満足できないものの、以前の自分よりはマシだと考えナンパに繰り出すが…。(公式サイトより)

©2023kurokishi film

 

『野ざらされる人生へ』の英語字幕を手がけたのは、飛田奈々さん、村野美穂さん、Y.Iさんの3人。普段は1人でトライアルに挑戦するなか、ゼミとしてチームで翻訳に取り組めるのは大きな学びとなったという。プロの現場でもアワード番組など本国での放送後に短納期で日本語版が制作される場合、数人のチームで一つの作品の翻訳に取りくむことも少なくない。40分の作品だが、約400枚の字幕を3人で作りあげた力作だ。
 

「他の人の翻訳から学ぶこと、人それぞれ、様々な訳や表現があり、他の方の訳をみることから勉強になることが非常に多く、毎回本当に楽しく、貴重な時間でした。」(Y.Iさん)
 

「お互いの原稿をチェックしたり、表現を統一したりしていく作業の中で、違った表現や異なる解釈の仕方を学ぶことができました。また勉強会では、具体的に何がダメなのか、どうすればよくなるのか、講師から丁寧に解説が頂けたのが良かったです。」(飛田奈々さん)
 

「授業を受けていたときにはイメージできていなかった字幕の演出という工程が、講師との勉強会ではっきりとわかるようになったのが大きな収穫でした。」(村野美穂さん)

©2023kurokishi film

 

チーム翻訳の場合、全体を通して違和感のない流れをつくることが求められる。翻訳者同士で、何度も出てくるワードの統一や解釈の相互理解、言葉のトーン、前後の情報の確認など、多くを話し合う必要があるのだ。例えば、「人生って面白い」というセリフにも、interesting、Intriguing、wonderfulなどの単語が候補に挙がり、精査していく。
 

「もとの日本語が意味をなさないセリフがあり、それをどう訳すかで悩みました。さらにそのセリフが別のパートにも出てくるため、それぞれの前後の流れも含めて考える必要があり、そのパートの担当者と何度もやり取りを繰り返しました。」(飛田さん)
 
「同じ文言や、呼び名など、チーム内で共通の単語で揃えなければならない部分が数か所あり、細かいニュアンスなどを確認し合ってそれぞれの箇所で同一の単語に決めました。私の担当箇所ではなかったのですが、言葉にならない発声部分や、理解し難いストーリーの展開部分を訳すのは、難しかったと思います。」(Y.I さん)
 

「『ダンディ』という言葉の英訳には苦労しました。日本語で『ダンディな男』とイメージ検索をすると、二枚目の日本人俳優など具体的な人物の画像がたくさん出てきます。一方で『a dandy man』でイメージ検索をすると、具体的な人物の画像ではなく、スーツのおしゃれな着こなし方について、つまりファッションの一例としての画像がたくさん出てきます。日本語と英語とでは「ダンディな男/a dandy man」と聞いて一般的に思い描くイメージが違うのです。では、日本語でいう『ダンディな男』を指す英語は何なのか?この答えにたどりつくのに、最終稿まで迷いに迷いました。」(村野美穂さん)
 

©2023kurokishi film

『野ざらされる人生へ』は、もてない男性が、ある日自身に突如訪れた思わぬ事態を通して自分の本心に向き合い人生が変わっていく物語。作品に深く向き合った翻訳者に見どころを聞いてみた。
 
「現実にはあり得ない世界に引き込んでくれる、まさに映画の醍醐味?を味わえる映画。自分はイケてないから…と嘆く人も夢や希望を持てる、元気がでる映画ではないかと思います。」(Y.Iさん)
 
「『ちょっと嫌な奴』と思っていた主人公のことをいつの間にか応援したくなり、最後には『私も頑張ろう』と前向きな気持ちになれる作品です。」(飛田奈々さん)
 
「この作品では、まるで息をするかのように世間に対する妬みだらけの悪態を吐くパッとしない中年の男が、本人も驚く予想外のストーリー展開で、最後には観客に勇気と希望を与えてくれます。字幕を制作する過程で繰り返しこの作品を観ましたが、何度見てもコメディ部分は面白く、毎回観終わった後にはこの作品に励まされた気分になります。漫才のような言葉の激しいやり取りで笑わせてくれる場面もあれば、往年の無声映画を彷彿させるスラップスティック・コメディでクスクスと笑わせてくれる場面もあり、『笑い』の表現の多様性も本作品の見どころの一つだと思います。」(村野美穂さん)
 

©2023kurokishi film

『野ざらされる人生へ』の詳細はこちら

https://www.skipcity-dcf.jp/films/js02.html
 
国際映画祭は、英語字幕付きで日本映画を観られる貴重な機会。ぜひ、字幕にも注目しながらご覧ください。
 

 

◆SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023(第20回)
期 間:
《スクリーン上映》2023年7月15日(土)~ 7月23日(日)
《オンライン配信》2023年7月22日(土)10:00 ~ 7月26日(水)23:00
会場:SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホールほか(埼玉県川口市) 主催:埼玉県、川口市、SKIP シティ国際映画祭実行委員会
公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp/

 

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