【サマスク2023レポート】機械翻訳を考えるにあたっての「大きな分かれ目」とは
ChatGPTの登場によって急激にAIの存在感が増した昨今。将来的な自分の仕事への影響に対して、漠然とした不安を抱く人もいるのではないだろううか。映像翻訳に関しても、「テクノロジーが発展すれば、いずれ映像翻訳者は必要なくなるのでは?」と言う人がいる。
2023年8月、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)ではサマースクールの一環として、映像翻訳とAIの現状、そしてその可能性を考える「映像翻訳とAIについて知っておきたい100のこと」を開催。JVTAで映像翻訳を教える石井清猛講師と、JVTAとともに機械翻訳の研究を行い、AI字幕翻訳ツールの開発に携わる国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の須藤克仁氏が登壇し、機械翻訳(MT)と生成AIの仕組みや活用方法、そして展望について解説した。
映像翻訳を学ぶ人や映像翻訳者として仕事をしている人が最も気になるのは、「ChatGPTを含む機械翻訳の精度が増せば、映像翻訳者の仕事はなくなるのでは」という点だろう。実際に文書翻訳や産業翻訳を中心に、機械翻訳の活用は増加している。須藤氏曰く、「ある程度直訳に近い世界では、機械翻訳の精度はかなり上がっている」という。翻訳のプロでない人がただ訳す場合との比較であれば、機械翻訳の方が平均的にはうまく翻訳できるようになっていると言うのだ。
しかしながら、直訳であれば翻訳としてOKだというわけではない。映像翻訳で言えば、翻訳者はストーリーのある作品を翻訳する際には流れを理解する必要がある。またドラマシリーズなどでは、翻訳する1話だけではなく、シリーズ全体の伏線を知らないと翻訳できない場面も多い。こうした「ひねりのある翻訳」は機械翻訳の弱点であり、人間である翻訳者によるブラッシュアップが不可欠だ。
須藤氏は機械翻訳を考えるにあたり、「人に見せる翻訳か、自分が読むだけの翻訳か」が大きな分かれ目だという。自分が見たり読んだりするだけの翻訳であれば、翻訳内容が間違っていたとしても責任をとるのは自分だ。しかし人に見せる場合は、間違いがないものを納品する必要がある。完成した納品物に対しどれだけの責任を持つか。「仮に機械翻訳が99.99%の精度だとしても、人間の翻訳者は必要だと思います」と須藤氏は語った。
セミナーでは今話題のChatGPTに関しても話題が広がった。須藤氏はこのChatGPTについて、「ChatGPTを『人間と同じように動くすごいもの』だと思う必要はない。『指示を上手に与えれば、かなりのことをやってくれるもの』と捉えるのがいいだろう」と解説。セミナー後半では、実際に翻訳者をアシストするChatGPTの使用方法も提案された。さらにJVTAとNAISTの共同開発であるAI字幕翻訳ツール「Subit!」に関しても紹介された。
テクノロジーは日々進化している。前述したように、機械翻訳は「平均値」的な言葉を返すことに関しては、かなり精度が上がっているという。しかし映像作品や文学作品の翻訳に求められるのは、「作品への理解」や「言葉の創造性」だ。新しい技術を上手に使いこなしながら、自身の作品解釈力や言葉のセンスを磨き続ける。それこそがこれからの映像翻訳者に必要なことなのだろう。
JVTAではこのようなテクノロジーの進化に合わせ、2023年10月期から機械翻訳やAIを翻訳作業に取り入れ活かすための最新技法をカリキュラムに導入する。今後もJVTAでは、時代に求められる映像翻訳者を育成するための指導を行っていく。
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