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プロの翻訳者は英文のどこを見て、何から考えるのか

プロの翻訳者は英文のどこを見て、何から考えるのか

翻訳では、英語から日本語に訳している時、いくつ辞書を調べてもぴったりと感じる訳語が見つからなかったり、原文を意識しすぎて日本語として不自然になってしまうことがある。そのような「翻訳の違和感」とどう向き合えばいいのか。そんな悩みを解決するため、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)ではサマースクール「日本語の訳文が出来上がるまで ~翻訳者は英文から何を感じ取るのか~」を開催。映像翻訳に必須の「英文解釈力」のレベルアップ目指す「ロジカルリーディング力強化コース」で指導を行い、自身もプロの映像翻訳者である山根講師山根講師が登壇し、プロの翻訳者による原文の読み解き方を解説した。


辞書で見つけた言葉は翻訳としてふさわしいのか?
今回のセミナーでは事前課題が用意され、参加者は各自翻訳に取り組んでからのセミナー参加となった。課題の一つとして取り上げられたのは次の文章。かつてアメリカで国務長官を務めていたヒラリー・クリントン氏が、外交のポイントについて語るインタビューの一部だ。


(課題文)
It’s rare that you get one big bang moment in diplomacy. There have been some, but usually it takes painstaking, patient deliberation where you keep looking for points of agreement where you narrow the areas of disagreement between you and another country or a group of countries. And it is not for the faint of heart because it does take so much time and energy.


山根講師はこのインタビューについて、まず1文目の“It’s rare that you get one big bang moment in diplomacy.”(「外交においてbig bang momentを得ることは稀である」)にある「big bang moment」という表現に注目した。

「『ビッグバン』と聞いてまず何を思い浮かべるか?」と山根講師が参加者へ質問すると、チャット欄に「宇宙の始まり」というようなワードが届いた。しかし課題のインタビュー内容は宇宙とは関係がない。では「何かの始まり」であるという意味なのか?「外交において、何かが始まるのことは稀である」という意味なのか?参加者に問いかけながら、山根講師は「big bang」の意味を辞書で確認した。すると辞書には、「大幅な改革」や「大規模な見直し」という訳が載っている。「『大幅な改革』という表現は外交に関係しそうだ」と言いつつ、山根講師は次の文の解説に進んだ。

続いて山根講師が注目したのは、次の文に登場する「painstaking, patient deliberation」という表現だ。1文目と2文目の関係性を読み解き、「外交というものは通常はpainstaking, patient deliberationが必要であり、big bang momentになることは稀である」という話をしていると説明。そして「big bang moment」と「painstaking, patient deliberation」は対の関係になっており、それを踏まえると「big bang」は「物事が一気に進展すること」のような意味合いになることが分かると解説した。

「辞書で引くだけでは、ピンとくる訳語は見つかりません。翻訳では、辞書に載っている訳語がそのまま使えるとは限らないのです。言葉の定義は文脈から決まります」

終了後、セミナー参加者からは「普段ふんわりと原文を解釈していたと実感した」「一語一語丁寧に読み解くことの大切さを再確認した」「意味は分かってると思っていたのに、見落としがたくさんあることに気づいた」などの声が届いた。今回のセミナーでは、何らかの翻訳経験、もしくは翻訳学習経験を持っている参加者が多かった。しかしプロとして活動している人でも、改めて「原文の読み解き方」の奥深さを実感することになったようだ。

英語から日本語への翻訳において、各単語にぴったりと合う訳語が必ずあるとは限らない。辞書に載っている訳語を意識するあまり、日本語が不自然になったり、伝えたい内容から離れてしまったりすることもある。辞書を確認することはもちろん必要だが、それだけで終わることなく、前後の文や単語との関係性をしっかりと把握することが重要だ。ただ言葉を置き換えるだけでは翻訳にならないということを実感するセミナーとなった。



お知らせ:
本セミナーの登壇者である山根克之講師が担当する「ロジカルリーディング力強化コース」が2023年10月24日(火)より順次開講!英文を「何となく読める」レベルから脱却し、確実な根拠に基づいて理解した内容を自分の言葉で説明できるようになるまで考え抜くトレーニングを行います。

セミナーを通して「もっと英文解釈力を磨きたい」「プロの映像翻訳者による翻訳プロセスをもっと知りたい」という方は、ぜひご受講ください。

ただ今、無料体験レッスンも開催中。コース詳細は体験レッスンの申込はこちら





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