【サマスク2023レポート】易しい言葉を選ぶことが、読者への優しさにつながる
翻訳者の技量が問われるのは、実は外国語以上に母国語の力である。児童文学作家・翻訳家の小松原宏子さんは、子ども向けの翻訳という仕事柄、「分かりやすい言葉選び」を心掛けている。だが実際は対象年齢やジャンルを問わず、あらゆる翻訳に生きるテクニックでもあるのだ。
2023年8月、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)はサマースクールセミナー「世界的名作アリスの翻訳者小松原宏子氏に聞く!“分かりやすい言葉”を編み出すコツ」を開催した。小松原さん本人が登壇し、150人以上の参加者に向けて「誰にでも伝わる言葉・表現選び」を実践してみせた。
同氏は自身が手掛けた作品を例に、“private thing”という表現を小学生向けにどう訳すか、参加者に意見を求めた。大人であれば、前後の文脈から「プライベートなこと」で理解できるが、小学生の場合は表現を少し工夫しなければならない。参加者からは「ひみつ」「かくしごと」など様々なアイデアが出たが、ここでの訳出のポイントは「子どもが実際に体験しているような表現」にすることだ。最終的には辞書から平易な単語を選ぶのではなく、「二人が大切にしている場所に無断で立ち入る」という文章にアレンジした。このように翻訳者自身が想像力を働かせ、原語が指す内容をかみ砕いて訳出することが求められる。
「分かりやすい言葉や表現を選ぶということは、子ども向けに限らず、あらゆる翻訳作品に通じる考え方です。映像翻訳を学ぶ方たちにとっても、児童書翻訳は日本語表現を養う良い練習になると思います。少子化の日本で『児童書の需要は少ないのでは?』という声もありますが、今は子どもが大切にされ、良質な作品が求められています。少しでも興味がある方は、これを機会にチャレンジしてみてください」(小松原宏子さん)
児童文学には、誰にでも伝わる表現のヒントが散りばめられている。言葉のプロを目指す人は、ぜひ一度手に取ってみてほしい。
By Yukiko Takata
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