東京ろう映画祭フォーラム レポート③ ろう映画祭×シズカン コラボが生み出す可能性
JVTAでは、映像コンテンツのバリアフリー化に取り組むNPO法人、メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)と共に、バリアフリー講座を2011年に開講しました。見えにくい、聞こえにくい皆さんも映像を楽しめるよう、バリアフリー字幕や音声ガイドを作るプロを育成しています。また、さまざまな分野で映像のバリアフリー化に取り組む皆さんのお話を紹介しています。
今回は、「東京ろう映画祭」(TDF)のシンポジウムに参加してきました。TDFは日本では初の試みとして2017年にスタート。ろう者が出演するドキュメンタリー映画やろう者が監督をする作品や、これまでに日本語字幕が付いていなかった邦画など、全12作品を日本語字幕付きで上映。JVTAのバリアフリー講座修了生も字幕制作に協力しました。またTDFは今年、静岡市の映画上映イベント「シズオカ×カンヌウィーク」(通称シズカン)とのコラボで、第1回の同映画祭の上映作品から3作品を再上映。このイベントにも修了生の坂本晶子さんが企画協力として携わっています。
シンポジウムでは昨年の上映で話題を集めた短編映画『ジ・エンド』の上映と、TDF代表の牧原依里さんによる世界のろう映画祭視察の報告が行われました。今回はシズカン代表の岸田琢磨さんを迎えたトークの様子をご紹介します。
◆今年はシズカンとのコラボで3本のろう作品を上映
町おこしと映画祭には新たな可能性がある
※左から佐藤譲二さん、牧原依里さん、岸田琢磨さん
東京ろう映画祭は今年、静岡で行われた『シズオカ×カンヌウィーク』(シズカン)と提携し、ろうに関する映画3本を同市内で上映しました。このコラボをつないだのがJVTAバリアフリー講座修了生の坂本晶子さんです。坂本さんは、昨年の第1回ろう映画祭にバリアフリー字幕の制作ボランティアとして参加。この時、自身がスタッフとして関わるシズカンを牧原さんに紹介したことから、この企画が生まれました。この日はろう画家の佐藤譲二さんが進行役を務め、牧原さんに加え、シズカン代表の岸田琢磨さんが登壇し、今年の成果と今後の可能性について語りました。
※協定締結 写真右の左端がJVTA修了生の坂本晶子さんです。
静岡市では1991年にカンヌと姉妹都市になったことにちなみ、野外上映とマルシェを中心したイベント、“シズカン”を2010年にスタート。静岡市の登呂遺跡や七間町という商店街、清水マリンパークという海辺の公園で上映が行われ、2019年で10回目を迎えます。当初は町おこしの一環として始まり、3回目から行政も共催し、図書館で名画の上映や市立の小中学校でのフランス式給食、美術館で映画上映や関連展示などもしています。
今年は、牧原さんが共同監督を務めた『LISTEN リッスン』(登呂遺跡の野外上映)、現在劇場公開中の長編『ヴァンサンへの手紙』と短編『音のない世界で』の3作品が上映されたほか、手話の読み聞かせのワークショップが行われました。
※『LISTEN リッスン』
※『ヴァンサンへの手紙』
この作品は劇場でも公開されています。
公式サイト http://www.uplink.co.jp/vincent/
※『音のない世界で』
岸田さん「登呂遺跡の周りは田園と竪穴式住居、サイレント映画とその風景がとても幻想的です。もともと、作品そのものと同じくらい風景を楽しむ人が多く、ちょうどいい季節にワインや食事をしながら映画を楽しめるのがシズカンの醍醐味。『LISTEN リッスン』はすごくアートな作品という感想が多かったですね」
※昼の登呂遺跡
牧原さん「『LISTEN リッスン』は、大きなスクリーンで映し出されていて本当に幻想的でした。マルシェとスクリーンがあってもっと人の動きがあるのかと思っていたのですが、皆さん、しっかり静かに見てくれたのが嬉しかったです。もっとろう者の映画が広がると音のない映画を聴者も楽しめるようになるのかなと思いました。サイレント映画なので逆に集中しやすかったという意見もいただきました」
※『LISTEN リッスン』野外上映の様子
●シズカンは町おこしが原点
今後も地元密着型で映画を楽しんでもらいたい
シズカンの魅力は地域密着型で、誰もが気軽に映画を楽しめることにあります。マルシェや飲食店とコラボしながら、映画の面白さを共有してきました。
※シズカンでは映画を観ながら食事やドリンクも楽しめます。
岸田さん「今年初めてTDFとコラボしたことで、シズカンの常連の皆さんにろう映画という作品があるということを広く知ってもらえたという自負があります。上映にも手話の絵本の読み聞かせにも多くの参加者があり、手話を学びたい聴者も多いと分かりました。パルシェという静岡の駅ビルでも『音のない世界』という作品を上映しましたが、関係者から『これからろう映画を毎年上映したい』という声があがっています。これがろう映画を広げる機会にもなり、企業のCSRとしてのイメージアップにも貢献できれば、お互いにメリットがあると思います」
※『ヴァンサンへの手紙』の上映に牧原さんが登壇
牧原さん「映画祭は、観客と映画を結びつける場でありたいし、TDFではろう者の映画製作者を育てて質を上げ、聴者の方にもたくさん見てほしいという思いがあります。ですから聴者にとっても違和感がなく興味を持ってもらえる宣伝、企画も考えていく中で、シズカンのマルシェなどはとても参考になりました」
今後、東京ろう映画祭(TDF)は2年に一度開催予定でシズカンとのコラボ企画は開催しない年に行う予定です。JVTAも来年開催のTDF開催に協力していきます。今後、どのような企画が生まれるのか、楽しみですね。
◆東京ろう映画祭 公式サイト
https://www.tdf.tokyo/
◆『シズオカ×カンヌウィーク』(シズカン)公式サイト
http://www.cannes-shizuoka.jp/
※JVTAは映像をバリアフリー化するプロを養成しています。
◆MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座
http://www.jvtacademy.com/chair/lesson3.php
第1部、第2部のレポートはこちらからご覧ください。
・東京ろう映画祭フォーラム レポート① イギリスが取り組むバリアフリーとは?
https://www.jvta.net/tyo/tdf-forum2018-1/
・東京ろう映画祭フォーラム レポート② 世界で行われる「ろう映画祭」の現状と今後の課題
https://www.jvta.net/tyo/tdf-forum2018-2/