『クイーン・オブ・アイルランド』が日本初上映 修了生が字幕とイベント通訳を担当
2015年、アイルランドで国民投票により同性婚が合法化されました。この運動に大きく尽力したのが、同国では誰もが知る国民的ドラァグクイーン“パンティ・ブリス”氏。その人生を切り取ったドキュメンタリー映画『クイーン・オブ・アイルランド』が2018 年10 月5 日(金)にユーロライブ(渋谷)にて上映されます。この作品は今回が日本初公開。日本語字幕をJVTAの修了生、土岐美佳さんが手がけました。
“パンティ・ブリス”こと、ローリー・オニール氏は1968年、アイルランドの小さな町バリンローブに誕生。約8割がカトリック教徒である同国では当時、同性愛が犯罪とされていました。そんな中で自分のことをゲイだと自覚しながら育ったローリーは、美大時代に出会ったドラァグクイーンの芸術性に魅かれ、80年代に東京へ。“パンティ”という芸名を名乗り、一躍人気を博しました。
母国へ戻ったのは90年代半ばのこと。“パンティ”はダブリンで一気にブレイクしますが、やがてHIVに感染していることが明らかに。しかし、彼はHIV チャリティの活動を積極的に行い、イベントや舞台、テレビなどで活躍するなど、アイルランドのゲイ・コミュニティを代表する存在となります。
【日本語字幕を担当した修了生の土岐美佳さんに聞く! 翻訳のポイントと見どころ】
★翻訳の悩みどころは口調
翻訳を進める上でまず苦労したのが、本作の主人公であるローリー・オニールの口調でした。ドラァグクイーンの「パンティ」としての話し方はいわゆるオネエ口調で統一したのですが、普段のローリーの口調も合わせるべきか悩みました。そこでドラァグクイーンが登場するリアリティー番組をいくつかチェックしてみたところ、女装をしていないシーンでも“オネエ口調”寄りで統一されていたのですが、ローリーの場合はあまりしっくりきませんでした。スクリプトでは話者が「ローリー」または「パンティ」と分けて記載されていたこと、またローリー自身がパンティのことを“alter ego”として触れていたことから、ローリーとパンティは別人格だと考え、ローリーとして話しているシーンでは男性寄りのニュートラルな口調を採用することにしました。
本作にはきわどいジョークが飛び交う楽しいステージシーンも多く登場しますが、基本的には硬派なドキュメンタリーです。そのあたりのバランスも意識するようにしました。
★感動的なスピーチを感情に流されずに訳す
また、2014年にローリーがテレビでゲイ差別のジャーナリストを告発したことで国会や世論を巻き込んだ大騒動が起こるのですが、この事態を受けて彼がパンティとして公の舞台に立ち、のちに「過去200年間のアイルランドで最も説得力のあるスピーチ」と絶賛される演説を行うシーンがあります。ホモフォビアをただ糾弾するのではなく、ユーモアを交えつつも心の痛みを切実に訴えた力強いスピーチに、私も翻訳しながら本当に胸が熱くなりました。ただ、感情が入りすぎてドラマチックに脚色しすぎないよう、パンティの言葉がストレートに届くような訳を心がけました。
私はこの作品を担当させていただくまでローリー/パンティのことを知らなかったのですが、アイルランドでは誰もが知る国民的ドラァグクイーンだそうです。知的でユーモアがあり、愛情にあふれた素敵な人で、字幕が仕上がった頃には私自身もすっかりファンになっていました。パンティとしてバブル期の東京で活動されていたこともあり、親近感も覚えます。ぜひ多くの方に見ていただき、パンティの魅力に触れていただきたいです。
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上映修了後、パンティ・ブリス氏ご本人がトークショーに登壇。通訳は修了生で講師の野村佳子さんが担当します。ぜひ、お出かけください!
※コナー・ホーガン監督とパンティ・ブリス氏
ドキュメンタリー映画『クイーン・オブ・アイルランド』 特別上映会
主催:NPO法人レインボー・リール東京
共催:アイルランド大使館(Twitter)
日時:2018年10月5日(金)18:45開場/19:00開演
会場:ユーロライブ(渋谷)
チケット料金:1,500円
※当日18:00~会場受付にて販売します(前売り券の販売はありません)
※整理番号順入場・自由席
http://rainbowreeltokyo.com/2018/ireland