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「GIDではなくtrans man」~アイルランドのドラァグクイーンと字幕翻訳者が対談~

「GIDではなくtrans man」~アイルランドのドラァグクイーンと字幕翻訳者が対談~

10月5日(金)、渋谷のユーロライブで、映画『クイーン・オブ・アイルランド』の特別上映会が行われました。この作品は、アイルランドで国民的に知られるドラァグクイーン、パンティ・ブリスさんの半生を追ったドキュメンタリー。2015年に同国で同性婚が国民投票によって合法化を実現するまでの道のりが描かれています。この日は上映後にパンティさんご本人が登壇(通訳は修了生で講師の野村佳子さん)。会場は立ち見が出るほどの大盛況となりました。日本語字幕を担当した修了生の土岐美佳さんとMTCの秋山剛史ディレクターが会場に駆け付けました。
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©️Towa Hiyoshi

 
JVTAは上映中の楽屋でパンティさんにインタビューを敢行。パンティさんは90年代前半に来日し、日本でドラァグクイーンとして活躍、シンディ・ローパーの日本でのステージにダンサーとして出演したこともあるそうです。「パンティ」という名前も実は日本で生まれたもの。当時はコンビを組んでおり、本人はレティシア、相棒はルーリーンと名乗っていたものの、日本人に覚えてもらえず、覚えやすくてかわいいグループ名として「キャンディパンティ」が誕生しました。
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©️Towa Hiyoshi

 
当時、母国アイルランドでは、ゲイであることを公にできず、隠れるように暮らしていたとパンティさんは話します。

 
「日本では、ゲイであることは社会的にオープンにしたくないことであっても犯罪ではありません。しかし、アイルランドでは、1993年まで罰せられる対象でした。日本では他国と比べて、宗教上の縛りがないことも母国と状況が大きく違う理由だと思います。当時日本ではゲイとして堂々と歩けましたが、母国ではありえないことでした。私の場合は、家族が理解してくれたので、有難かった。この映画を観るとみな、私の両親のファンになったと言ってくれるんです。一方、私がアメリカで会った日本人男性は、彼がゲイであることを家族が認めてくれず、今も会ってもらえないと嘆いていました。悲しいことですね」
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※映画『クイーン・オブ・アイルランド』より

 
その後、帰国したパンティさんは、ダブリンに「パンティバー」をオープン。プライドパレードやテレビ、舞台などで活躍し、アイルランドのゲイ・コミュニティを代表する存在になります。そして2015年、アイルランドで行われた国民投票で同性婚の合法化を実現しました。

 
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※映画『クイーン・オブ・アイルランド』より

 
「2015年の国民投票を通してアイルランドでは、国民が自身を見る目が変わりました。より斬新的でよりリベラルな国民性だと自分たちで気づいたのです。賛成することによって自分の意見をもっと言えるんだと、より自信を持つことができました。それがアイルランドで中絶の合法化を求めて活動をしていた人にも勇気を与えたと思います(今年、国民投票で中絶も合法化)。国民投票を通じて、アイルランドでは、ゲイではない人たちもゲイである私たちを深く理解してくれていると分かりました。一部のゲイの人でだけでなく、政治家もタクシードライバーも学生もみなが投票してくれた結果なのです。ですから、今はゲイの人々もsecureであり、comfortableになりました。若者の中には投票のために、わざわざ他国から帰国してくれた人もいました」

 
この日の上映会を主催したのは「レインボー・リール東京」。20年以上にわたり、セクシュアルマイノリティをテーマにした映画を上映している歴史ある映画祭です。JVTAは毎年、このイベントを字幕でサポート。翻訳者は、LGBTQの人たちが不快に思わない言葉を選ぶために日々努力を続けています。そんな翻訳者たちにパンティさんからメッセージを頂きました。
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©️Towa Hiyoshi

 
「昨日、日本、フランス、アイルランドの代表が集う、LGBTQの人たちの権利について話し合うシンポジウムに参加したのですが、違和感があったのはGID(Gender Identity Disorder:性同一性障害)」という言葉です。いわゆる”ノーマル“の人たちとトランスジェンダーや同性愛の人たちの間に壁ができてしまうVery otheringな表現だからです。トランスジェンダーの人たちにも、思いやりや人間らしさをもって接してほしい。例えばガン患者の方に対し「Cancer」と呼んだりしないのと同じで、性的指向など一部分だけを見るのではなく、1人の人間として全体(whole package)を尊重してほしいと思っています」
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©️Towa Hiyoshi

 
今年の映画祭で英語字幕を担当した修了生が同じことで悩み、いろいろ調べた上でGID(性同一性障害)ではなく、トランスマンという言葉を選んだと伝えると「Yes, trans man. That’s good!」と共感してくれました。

 

『クイーン・オブ・アイルランド』日本語字幕を担当
修了生 土岐美佳さんのコメント

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※左から土岐美佳さん、パンティさん、秋山剛史ディレクター

 
★翻訳の苦労や工夫をご本人に伝えられた
パンティさんの方から「翻訳する上で何が難しかった?」と聞いてくださったので、男性とドラァグクイーンという2つの姿で登場するので、口調で悩んだことをお伝えしました。「パンティさんがステージで披露するdirty jokeの訳も難しかった」と伝えると、「私はdirty jokeなんて言わないわよ」とジョークで返されました(笑)

 
また、作中にある「過去200年間のアイルランドで最も説得力のあるスピーチ」と称されたスピーチに強く心を揺さぶられたことはどうしてもお伝えしたかったので、「翻訳者として感情に流されず、一定の客観性を保って翻訳しようと努めたけれども、やはり感極まってしまい苦労した」ということもお伝えしました。
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※映画『クイーン・オブ・アイルランド』より

 
★言葉に対する思いを聞いて身が引き締まった
GID (性同一性障害)という言葉に対する思いを伺い、翻訳者として一つひとつの表現をさらに慎重に作らなければならないと感じました。
また、上映後のQ&Aで「12歳の頃の自分自身に対して、今なら何と声をかける?」という質問に対しての回答も心に響きました。
「何も変える必要がない、そのままの自分でいい。社会に出れば(当時学校で人気者だった)サッカー部のキャプテンが誰だったかなんて誰も気にしない、人とは違う変わった部分が個性として認められ、人々に愛されるから」
LGBTQの方々だけでなく、例えば学校で居場所がないと感じている若い人たちにも伝えたい言葉だと思いました。
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©️Towa Hiyoshi

 
★字幕を通じて多くの人にパンティさんの活動を知ってもらうお手伝いができた
会場は熱気にあふれていました。笑い声もよく聞こえ、感動して泣いている方も多かったようです。エンドクレジットが流れ始めた途端に歓声と拍手がわき起こり、私も胸が熱くなりました。Q&Aでも内容の濃い質問が多く、非常に熱心な観客が多かったのが印象的でした。
上映会には私の夫と友人も来てくれたのですが、「今まで知らなかったアイルランドの同性婚合法までの道のりを今回初めて知ることができて本当によかった、素晴らしい映画だった」と言ってくれました。字幕を通じて情報を広めるお手伝いが少しでもできることを改めて光栄に思いましたし、自分が字幕を手がけた作品に出演されている方にお会いしてお話を聞けるという滅多にない機会に恵まれ、翻訳者冥利に尽きる体験をさせていただきました。
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会場の質疑応答では、修了生で講師も務める野村佳子さんが通訳として登壇。この日は手話通訳士の方もいて、英語を野村さんが日本語に訳し、それを手話にするというプロの技が集約されていました。

 
◆イベントで通訳を担当
修了生で講師の野村佳子さんのコメント

インタビューやQ&Aの通訳を務める際は、ある程度質問を想定して準備をしていくのですが、今回の作品のテーマはあらゆる方向に話を広げられ、ブラジルの大統領選挙から、アイルランドの国民投票での中絶合法化など、幅広く深い質問が多かったのが印象的でした。質問はすべて観客からだったので(挙手が多かったため急遽そうなりました。とても珍しいことです)、なかなかスリリングな30分間でした(笑)。

 
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※野村佳子さん(左)とパンティさん

 
でもパンティさんはジョークを交えてテンポよく話されるので、楽しみながら訳すことができました。質問への答えが長くなってしまった時は、私をいじりながら気遣ってくださったりして、さすがエンターテイナーかつ国民のリーダーだなと感激しました。
手話通訳の方と組むのは今回が初めてで、できるだけスムーズにバトンを繋ぐように心がけたのですが、実際はどうだったか…。終了後、私の記号のようなメモを見て参考にしていたと聞いた時は正直驚きました。いろいろなコラボレーションの形があるものです。パンティさん、主催者の方々、そして観客の皆さんから私自身もたくさんの刺激をもらった夜でした。
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※最後にアイルランド大使館、レインボー・リール東京の皆さんと関係者全員で記念撮影
 ©️Towa Hiyoshi

 
JVTAは今後もレインボー・リール東京をサポートしていきます。

 
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『クイーン・オブ・アイルランド』が日本初上映 修了生が字幕とイベント通訳を担当
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【修了生の佐藤慶子さん】学生時代から通っていたレインボー・リール東京の上映作品で英語字幕を担当
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