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【座談会】第31回東京国際映画祭開幕!映画でたどる翻訳者の過去・現在・未来

【座談会】第31回東京国際映画祭開幕!映画でたどる翻訳者の過去・現在・未来

10月25日(木)に開幕した「第31回東京国際映画祭(TIFF)」。JVTA修了生からは、今井祥子さんがプログラミングチームのスタッフとして運営に携わるほか、日英映像翻訳科で講師も務める映像翻訳者、足立リリーさんと南久美子さんが「日本映画スプラッシュ部門」上映作品『僕のいない学校』の英語字幕を手がけています。そこで、JVTAでは石井清猛講師も参加の座談会を開催。貴重な「第1回東京国際映画祭」のパンフレットと、今年のTIFFのカタログを見ながら、映像翻訳者としての過去と現在、そして未来について語り合いました。
 

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CONTENTS
●1985年。「第一回東京国際映画祭」の時代
●“Day by day.”を「日々を生きる」に 字幕翻訳と出合った夏
●鋭い切り口の映画で触れた“大人の世界”
●『ビルマの竪琴』に衝撃を受けた小学生の頃
●「アジアや日本から世界に発信する」映画祭へ
●映像翻訳者を目指すなら、映画祭に足を運ぼう
●「好きであること」が求められるもう一つの理由
●「映像翻訳」のスキルの可能性は広がり続けている
 

――本日の座談会、きっかけは、JVTA代表・新楽講師の自宅で見つかったこの「第一回東京国際映画祭」のパンフレットです。保存状態も非常に良く、すごく珍しいものです。
 

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今井さん たぶん、TIFF(東京国際映画祭)の事務局にもないと思います。
〈一同、爆笑〉
石井 第一回当時(1985年)、新楽講師は大学生くらい。この映画祭で『パリ、テキサス』(1984/ヴィム・ヴェンダース監督)を見たらしいですよ。
 

1985年。「第一回東京国際映画祭」の時代
――早速なのですが、このパンフレット、読んでみていかがでしたか? 印象的だったのは、今井さんのTIFFの事務局の皆さんで盛り上がった、という話です。
 
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今井祥子●いまい・さちこ
JVTA修了生。東京国際映画祭をはじめとする数々の国際映画祭で運営スタッフとして活躍。映像翻訳者としても『あなたの旅立ち、綴ります』(2016/マーク・ベリントン)など、多くの話題作を手がける。
 

今井さん 特に掲載されている広告で盛り上がっていて(笑)。「時代を感じる」と話していました。この、「8ミリビデオが28万円の広告」とか、「ジョン・トラボルタが出ている缶酎ハイの広告」とか――。
 
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南さん “移動電話”みたいな広告もありましたね。
今井さん そうそう! “携帯無線”の広告もありましたよね。当時は画期的だったんでしょうね。
 

――初めて「東京国際映画祭」が開催された1985年、子どもだった今井さんは、やはり映画を多く見ていましたか?
 

今井さん いやー、当時はまだ映画とか、ほとんど見にいったことがなくって。ただ、すごく覚えているのは8歳くらいの時に、クリスマスか何かのシーズンに、親に映画に連れていってもらったことがあって。子ども向けのサンタクロースが出てくる実写映画を2回で4時間くらい、もう最前席で、かぶりつきで見ていたという。当時は入れ替え制とかではなかったので。そのことだけはすごく覚えていて、それが、何か映画との「出合い」だったかもしれないですね。
 

――“第一回”のパンフレットを見て、“ワッ!”と思った作品はありましたか?
 

今井さん “ワッ!”っていうか、――ラインナップがもう、アメリカ映画とヨーロッパ映画が多いのにびっくりして。こんなにアメリカ作品ばっかりだったんだ! って。フィルムの輸入とかの問題もあると思うんですけど、当時はアジア映画が全然上映されていなかったんだなと思いました。また、日本の映画監督は30年くらい、“巨匠”みたいな人たちが変わっていない、という印象も。
 
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石井「手作り感」を、すごく感じました。このパンフレットも、映画祭自体にも。冊子の冒頭部分に「メッセージ」があったりして。“意気込み”というか。一生懸命、部門の主旨とかを説明していて。「そうか、この部門はこういう主旨があって、こういう作品を集めているんだ」っていうのがすごく分かって良かったですね。メインの部門は「映画祭の映画祭」と題して、80年から85年のあいだに、世界の映画祭でいろいろ獲って、でも、当時日本でまだ公開していない「最新の映画」を上映しているんですよ。そのラインナップを見て、「これって、まだ公開してなかったんだ」というのも結構ありました。
今井さん 今でいうところの「ワールド・フォーカス」の部門がそれになるんですね。当時はまだ、海外で話題になったものに注目していて、「日本から何かを発信する」という感じではなかったんだな、っていう。
石井 日本は日本、みたいな。日本映画もやっているけど、“混ぜていない”みたいな感じがあります。
 

――石井講師は“賞金3億円”というのにも驚いていました。
 

石井 ああ! これですね。「ヤングシネマ’85 国際新進監督コンクール」部門。いわゆるコンペじゃないですか。これ、賞金が! 目を疑いました! 150万米ドル(当時邦額約3億9千万円)!
 
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足立さん・南さん えっ!
今井さん さすがバブル期ですね…!
石井 僕も、「新楽さん、これって間違いですよね?」って言ったら、笑って「バブルだから」って(笑)。
今井さん 賞金で映画が3本くらい作れますね。コンペの顔ぶれもすごいです。ミロス・フォアマンとか、(ベルナルド・)ベルトリッチの姿も!
石井 今村昌平もいますね!
 

“Day by day.”を「日々を生きる」に 字幕翻訳と出合った夏
――石井講師は1985年当時、中学2年生。映画少年でしたか?
 

石井 それが、あまり覚えていなかったんです。で、85年にどんな映画がやっていたのか調べていたら、やっぱり、映画見ていたんですよね。(地元は)広島でしたが、ジャッキー・チェンの映画とかすごく見ていて。あと、『さびしんぼう』(1985/大林信彦監督)とか。映画館に行った作品で85年の一番のクライマックスが『ランボー/怒りの脱出』(1985/ジョージ・P・コスマトス)! これですよ。もう、本当に仲間内で鬼のように盛り上がっていました。それで、思い出したのが、ランボーの戦いが終わって彼が去っていくんですけど、「どうするんだ?」と問いかける上官に対して「日々を生きる」みたいなセリフを言うわけです。それ、字幕なんですよ。
 

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石井清猛●いしい・きよたけ
JVTA修了生のための就業支援部門「メディア・トランスレーション・センター(MTC)」所属。映像翻訳チーフ・ディレクター、および同校講師を務める。英日・日英翻訳のディレクションや海外映画祭での特別上映、ワークショップの企画を手がける。
 

――日本語の字幕で、ですね。
 

石井 そう。中学の同級生で英語がすごく得意なやつと一緒に見にいって「あの時のセリフ――、最後のセリフが良かった」とか言うんですね。で、「ああ、“日々を生きる”みたいなことを言っていてかっこいいよね」って返したら、「違う、あれは最後に英語のセリフでなんて言っているか知っているか? “Day by day.”って言っているんだ」と。
 

――衝撃ですね!
 

石井 それを、「日々を生きる」って訳している。そんな話を、この座談会がある今日の朝に思い出したんです。あの時は単にシルベスター・スタローンのかっこいいセリフ、と思っていたんですが、今考えると、「字幕的に処理していたんだ!」と。“Day by day.”を「日々を生きる」――「その日ごと」とか訳したら、ダメじゃないですか!
今井さん:「一日、一日」とか(笑)
石井:そう、「一日、一日」とか言ったら、ずっこけますよね!? ああ、字幕についての話でいかにもなやつ、あったなあ! って。もう、それだけ! それを伝えたかったんです! 僕の話はそれだけで終わりでいいです!

〈一同、笑い〉
 

鋭い切り口の映画で触れた“大人の世界”
――南さんは、いかがでしたか?
 

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南久美子●みなみ・くみこ
JVTA修了生。テレビ、映画、企業プロモーション映像などの日英字幕やボイスオーバーで活躍。日英映像翻訳科の講師も務める。
 

南さん ちょうど高校を卒業したのが85年でした。で、このパンフレットの映画を見て、あまり知っているものがなくて。――なんでだろう? と思ったんですけど、私は、小学校の時にカナダにいて、その時は、割と映画を見ていたんですね。向こうは、映画館もすごくいっぱいあって、例えば、夕食が終わった後に、じゃあ、映画を見にいこうか、みたいな環境でした。でも、高校の間は、私は中近東のアブダビと、あとイギリスで、ちょっと寮に入っていたので――。
 

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石井 すごいですね!
南さん それで、見られない時期があった、そうか、ここがブランクなんだ、と思いました。
石井 いわゆる、そういう、世の中と隔絶された――。
南さん そう、隔離されたような――特に、中近東に行ったときはすごく、センサーシップが厳しくて、アメリカからの映画とかもカットされまくり、何を見ているのか分からないくらいでした(笑)。レンタルビデオ屋さんもあまりないし、ただ、このパンフレットの中で一つだけ、ハリソン・フォードが出ている『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985/ピーター・ウェアー監督)を友達と映画館で見たのを覚えています。はじめ、主演がハリソン・フォードだって気がつかなかったんです。私、スターウォーズ世代なので、彼は、やっぱり宇宙にいるイメージだったので(笑)。

〈一同、笑い〉
 

南さん 私の中で、一番の思い出の映画は、スティーヴ・マックイーンが出ている『パピヨン』という映画です。父と一緒に映画館で見て――9歳くらいだったんですけど、あまりにも怖くて。スティーヴ・マックイーンが囚人の役なんですけど、えん罪なのでプリズンから逃げ出すんですね。何度も。で、警察に追いかけられて。バイオレンスもあるし――。当時はカナダにいて、ディズニーの実写映画をよく見ていたのですが、初めて大人の映画に触れて、あ、こんな映画もあるんだ、と。もう、全てが“上書き”されてしまって! 映画って、楽しいファンタジーな世界だけじゃなく、鋭い切り口もあるんだな、というのを、子どもながらに感じました。
 
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石井 確かに、大人な感じですよね。
南さん 家に帰ったら、父が母にすごく怒られていて。子どもをあんな映画に連れていくな! と(笑)。
 

『ビルマの竪琴』に衝撃を受けた小学生の頃
――足立さんはこのパンフレットの中に縁を感じる映画があったとか。
 
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足立リリー●あだち・りりー
JVTA修了生。ドキュメンタリー、映画、バラエティなどの日英字幕・ボイスオーバーに加え、その他さまざまな分野の翻訳を担当。日英映像翻訳科の講師も務める。
 

足立さん 1985年当時は小学校2~3年くらいだったと思うんですけど、――『ビルマの竪琴』(1985/市川崑監督)を見て、ものすごい衝撃を受けました。VHSで見たのかなあ。当時はアメリカに住んでいたので、映画館ではないと思うんですけど…。とにかく衝撃的で。「なんで一緒に帰国しないの~!」って。
石井〈手を叩いて爆笑〉
 
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足立さん「バカだよお! 水島さん、バカだよお!」って、ものすごく泣きましたね。そんな作品が第一回東京国際映画祭のパンフレットにラインナップされていて、ああ! この年だったんだ、と。作品に縁を感じましたね。
 
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石井 すごいですね。『ビルマの竪琴』に衝撃を受ける小学生なんて。
足立さん 小学校(時代)イチの衝撃だったと思います。ただ、映画で何が一番好きか、っていったら、「インディ・ジョーンズ」シリーズです。全部好きなんですけど、その中でも「最後の聖戦」がものすごく好きで! ――すごくマニアックですが、プロップ(映画や演劇で使われる物品)として、出てくる手帳が格好いいんですね。それをパラパラ、インディが革張りのをめくりながら、色々な記号とか、マップとかあって、それで冒険するんですけど、うわあ! と思って。それで、海外のプロップ好きの人が作った手帳のレプリカを数種類買って…。
石井 あはは(笑)
南さん 持っているの?
足立さん 持っています。何パターンか持っていて、――作る人によって微妙に違うんですけど、ちゃんと中の地図とかチケットとかも全部入ったパッケージに入れて。いつか、あれの日本語版を自分で作りたい、と思いつつ、――まだ2ページしか進んでいないんですけど(笑)
石井 もう訳し始めているんですか? すごい、良い話を聞きました。
足立さん “インディ”は、もう、大好きです。
 

「アジアや日本から世界に発信する」映画祭へ
――そんな時代に開催されたのが“第一回”。そして、今年でTIFFは31回目を迎えました。今井さんはスタッフの視点で、どんな変化を感じましたか?
 

今井さん アジアの新鋭監督たちが賞を競い合う「アジアの未来」や個性あふれる日本映画をおくる「日本映画スプラッシュ」の登場が大きな変化だと思います。欧米の映画を集めてきて上映するだけじゃなくて、アジアや日本から、新人を発掘して世界に発信していこう、というのが、映画祭としての一番の成長じゃないかな、と。それと、今年はおよそ1800本と応募作品数が最多でした。それだけ、世界から作品が集まる映画祭になったんだなって思いました。
 

――そんな「日本映画スプラッシュ」の枠の中で、今回、足立さんと南さんのお二人が日英翻訳されたのが『僕のいない学校』(2018/日原進太郎監督)です。お二人にとって、どんな作品でしたか?
『僕のいない学校』
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©MONKEY ACROBAT STUDIO
 

南さん 映画専門学校に通っている学生たちが、自分たちの作品を作り上げていく。そこに関わる先生たち。一人の先生が主人公なんですけど、自分もその学校の卒業生で、すごく、映画に対する熱い想いがあるんですけど、学校はビジネスでもあり、少子化もあって学生が少なくなり――。主人公と対立する悪役・木藤を矢柴俊博さんがめちゃくちゃ好演するんです! もう、本当に嫌なやつで!
足立さん 嫌なやつでしたね~!
石井 悪役がいいと作品が締まりますよね。
南さん そういう、矢柴さんが演じるキャラクターや、出演している、実際に映画を学んでいる学生さんたちのナチュラルな演技に(翻訳していて)すごく感情移入しちゃって! 映画は、静かな感じなんですが、観客の気持ちはすごくアップダウンがあって、面白かったです。
 

足立さん 本当の映画学校の学生さんたちが出ているということもあって、とてもリアルで。ドキュメンタリーにも見えて。学生と先生の、日常を覗いているような感覚になりました。感情移入もしますし、(訳している)自分でも、矢柴俊博さん演じる木藤に「悔しい! き~!」と思うところがありました(笑)。感情が揺さぶられましたね。
石井 それを、英語字幕にぶつけている感じですね。
南さん ぶつけました、もう――。
足立さん いかにそれを出すか! 会話が多い作品なので、テンポを伝えつつ、キャラクターの性格を出すことに注力しました。
南さん 木藤の字幕は気合を入れました(笑)。翻訳作業はすごく面白かったです。何度もリライトしましたが、なんか、ストッて、いい訳に落ち着いた時にああ、これだよな、って。
足立さん ああ、そうそう!
 

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一見関係ない仕事やジャンルが、実はつながっている
――英語字幕を通して、その見る人は、同じ感情を持てるわけですね(笑)。映像翻訳を学んでいる人に向けて、ヒントやアドバイスがあれば教えてください。
 

南さん 私の場合、長編映画を翻訳するのは、久しぶりでした。普段は割と、企業のプロモーション映像や商品を説明するものなどが多いのですが、普段の、企業映像を翻訳するスキルも、今回のような会話の多い、日常を伝えるタイプの映画にはすごく役立つんだな、ということが分かりました。企業映像は情報をとにかく多く伝えようとするので、ギリギリまで情報を圧縮して伝える訓練になります。一見関係ない仕事を、やっていても、いつの間にか、長編映画のスキルに結び付いているんだなと感じました。
 

――まったく違うジャンルの仕事も、どこかでつながっているんですね。
 

足立さん 日英映像翻訳のスキルアップについては、英日翻訳作品の、日本語字幕に注目して作品を見るだけでも、情報の取捨選択を学ぶという点で役立ちます。何を落として、何を実際に字幕にしているか――ああ、この情報は落としてもいいんだとか、今のジョーク、ここを出すんだ、とかです。日英でも、会話の情報を全部出すことは無理なので、ポイントを押さえられたら、どの情報を出したらいい、という選択が楽になります。
 

映像翻訳者を目指すなら、映画祭に足を運ぼう
――今井さんは映画祭スタッフの視点で、映像翻訳学習者に向けて、アドバイスを送るならどんな言葉が浮かびますか?
 

今井さん 以前、JVTAでぴあフィルムフェスティバル(PFF)のプログラマー・荒木啓子さんが登壇するセミナーがあったじゃないですか。映像翻訳者を目指しているが沢山集まっていたんですけど、「映画祭に行ったことがある」という人が、すごく少なかったんです。ほとんど、いないくらいだったんですけど。それは、いくらなんでもまずいだろう、と思って。

石井 まさにそれですよ!

今井さん 映画祭って、まず、一番最初くらいに、やることになる分野で、映画祭でデビューする人も多いと思います。だから、まず、映画祭に来てほしいですよね。来て、どんな作品がかかっているのかとか。どんな雰囲気の中で上映されるのかとか――。やっぱり、字幕翻訳ソフトの画面で見るのと、(劇場の)大きな画面で見るのって、違います。ここで読み切れる、と思っても大きい画面で見たら無理だとか。とにかく、その大画面に慣れて欲しい。「どれが面白いか」、とかあまり考えないで、来て、気になるのを見てほしいですね。

石井 本当にそう思います。どれが面白いとか、面白くなかったらソンだとか、あまり考えない方がいいですよね。(劇場に)行ったら、得るものが絶対ありますから。

今井さん アメリカのドラマや映画ばかり見ている人も多いと思うんですけど、全然違う文化圏のものも、見て、例えばイスラム教だったら、こういう言葉づかいをするとか、そういうところにも注目してほしいですよね。

石井 映画祭って、日本映画でも映画館にかからないかもしれない作品も上映されるんです。「日本映画スプラッシュ」は、もう、新しい人ばかり。こういうのを見られるのも、映画祭ならでは。迷っているなら「何も考えるな、行け!」って言いたいです(笑)。
 
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「好きであること」が求められるもう一つの理由
――『僕のいない学校』の舞台である映画学校のように、JVTAも作り手を目指す学校です。作り手の気持ちで、映画祭に臨むと、ステップアップにつながるかもしれないですね。JVTAでは「日英映像翻訳科」が10月から始まりましたが、石井講師は、今の流れで学び始めた人にどんなアドバイスを送りたいですか?
 

石井 翻訳が好きっていうことと同じくらい――本当は“以前に”と言いたいところですけど、“以前”とはいかないまでも、「同じくらい」――映像とか映画が好きっていう人の方が、あるいは、映画が面白い、と思う人が、いいと思います。その方が、息の長い仕事ができる。絶対に! この座談会の皆さんの話を聞いていてもそうじゃない?「語学が好き」だけだと、キツイですよね。「好きだから、楽しくて続けられる」っていう意味だけじゃなくて、要はね、皆さんめちゃめちゃ優秀な翻訳者の方たちですけど、今井さんは、「自分の翻訳した映画作品のQ&Aに行くと今でも緊張する」って言っていました。それって、ものすごく普遍的で。なぜかと言えば、「責任」があるからなんだと思う。作品に対する「責任」があって、ちゃんと伝わったかな、というのを考えるわけですよ。その時のプレッシャーたるや、並々ならぬものがあります。メンタルを壊さないためにも、好きである必要があるんだと思います。世間では、あまり、“そっち側”は言われないんです。「要するに、好きだから続けられるってことですよね」って理解されるんですが、僕、最近それに気づいて。「そればっかりだと思われている!」と感じたんです。“好き”じゃなきゃいけない理由は、むしろ“そっち”ですよ。好きじゃなきゃ「この作品を背負う」っていうプレッシャーにつぶされてしまう。

今井さん「つまらないな」と思う映画でも、割と自分なりに面白いポイントを見つけられるかとか、大事ですよね。めちゃくちゃ面白いのは、なかなか巡ってきませんからね。
〈一同、『まさにそう!』〉
 
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石井 ――ここで、簡単に同意するじゃないですか。なかなか難しいですよ。それが。そういう経験も何度もされているし、実際に何か、(作品を)“愛しくなる”とか、そういうことを経験されている方だからそういう、パッと分かるんですが、なかなか、難しいですよ。何となく、映画の映像翻訳って、面白そうとか、普通の翻訳より楽そう、とか思っている人だと、たぶん、難しいと思うんですよ、息長く仕事をするというのは難しいと思います。
 

「映像翻訳」のスキルの可能性は広がり続けている
――“第一回”からずっと未来に進み続けて31回目となった東京国際映画祭です。皆さんはどんな未来に向かっていきたいですか?
 

南さん 今、JVTAで教えているんですが、やっぱり、受講中の皆さんがあまり、映画祭に行っていないんですね。講義で「皆さん、行ったことありますか」って言うと、10人中、一人くらい。「(映画祭を)知っていますか?」と聞いてもそれも知らない。それで、ぜひ、行ってくださいと言っています。――こういう映画祭が盛り上がらないと、映像業界ももっと盛り上がらないし。やはり、若い監督たちがもっとどんどん、自分の作品をプレゼンできる場所、それを見てもらえる場所って本当に必要だと思うんですよね。映画館に行くことの大切さも、伝えてきたいですね。

足立さん 今年は、英語台本の和訳案件が多いですけど、何か色々な部門をやってみたいですね。企画からだったりとか。
 

――以前JVTAのセミナーで、映像から作りたいことも仰っていましたね。

足立さん よく覚えていますね! 自分で撮って、自分で英語字幕を作る、っていうのが究極の夢です。

今井さん 私、映像翻訳を始めたころは、普通に、人気の海外ドラマの字幕をやりたいとか、劇場公開されるような、作品の字幕をやりたいとか、普通に思っていたんですけど、今、それをだいたい叶えちゃって。次に何をしたいかなって考えた時に、今は、映画祭のプログラミングやパンフレットの編集をやったりとかしていて、――そんなに一つに絞ることないんじゃないかと。映像翻訳や英語のスキルっていろんな場面で生かせると思います。私はもうちょっと、いろいろやっていきたいなっていうか。字幕一本じゃなくてもいいかなっては、思ってます。映画祭――私、結構よく働いていて好きなので、もうちょっと、映画を見る人や、監督とかと、直接かかわるような仕事をもっとしたいですね。

石井もう、三者三様で、しかも三人ともめちゃめちゃいい話、していただけましたね。この座談会、やって良かったです!
 

――石井講師の未来もちょっと聞いてみたいのですが。

石井 僕はいいですよ(笑) 僕が締めくくっちゃいけないでしょ!

今井さん 独立します! とか言われたらどうしよう(笑)

石井 個人的なことを言えば、こういう方たちと一緒に仕事ができるっていうのは、ここにいるからこそだから、それはもう、本当に楽しいですよ。JVTAの講師・ディレクターとして思うのは、今の流れで言うと、もっとこう関心を広げてもらって、――奇しくも、足立さんと今井さんが、幅広い仕事をやっているということがあって、南さんは教えていただいているじゃないですか。“第一回”の時代はたぶん、字幕っていったら「あ、映画のあれね」と思われるしかなかったと思うんですよ。でも「映像翻訳」は、現在はそんなことではない、っていうことにもう、ここにいる皆さん気づいている。だから、皆さんもそこを見た方がいいですよ、ということだけです。
 

――映像翻訳のスキルを学んだ人のキャリアは多くの可能性を秘めていると思いました。本日は皆さん、ありがとうございました!
 
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座談会終了後も、映画談義は続いた
 

<関連リンク>
●第31回東京国際映画祭(2018)
https://2018.tiff-jp.net/ja/
 

●日本映像翻訳アカデミー「日英映像翻訳科」
http://www.jvtacademy.com/chair/course4.php
 

●東京国際映画祭上映作品『僕のいない学校』
https://2018.tiff-jp.net/ja/lineup/film/31JPS06
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とある専門学校の映画学科に教員として勤める田原は、自身もクリエイターであることから、利益重視の学校運営によって創作活動が思うようにできない学生たちの現状に心を痛めていた。徐々に腐っていく学生たちに呼応するように、自身の創作活動も停滞している。 そんな折、上司である木藤の昇進を契機に思いがけず映画学科の学科長となった田原は、周囲の期待や自身の理想を胸に学科の立て直しを図るのだが…。
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