映画『ただいま、つなかん』バリアフリー上映 JVTAが学生の字幕制作をサポート
ドキュメンタリー映画『ただいま、つなかん』(風間健一監督)が、2024年春からバリアフリー上映される。この作品のバリアフリー字幕の制作にJVTAが、音声ガイドの制作にはユニバーサルシアターのシネマ・チュプキ・タバタが協力した。
被災をこえて続く宿
10年の物語
作品の舞台は、宮城県気仙沼市の民宿「唐桑御殿つなかん」。主人の菅野一代さんが東日本大震災後で被災した自宅を、現地に訪れた学生ボランティアたちの宿泊先として提供したことをきっかけに生まれた宿だ。日本財団ボラセンの前身となる日本財団学生ボランティアセンター(Gakuvo)が、震災後2021年度末までに東北3県の被災地に派遣した学生ボランティアの数はのべ約12,000人にのぼる。彼らのなかにはこの地に移住した人も少なくない。一代さんは、カキの養殖を生業としながら学生たちとの交流を深めてきた。現在も学生たちや観光客の拠り所として人気を集めるこの宿をめぐる約10年にわたる物語となっている。
聞こえない視聴者にも
作品を届けるために
バリアフリー上映を実現するため、公益財団法人日本財団ボランティアセンターが「日本語字幕・音声ガイド制作ボランティア! 映画バリアフリーPROJECT」を起ち上げ、学生ボランティア16名がワークショップ形式で字幕と音声ガイドの制作に取り組んだ。JVTAでは、東京校にて2023年11月から全5回の字幕ワークショップを開催。当校のバリアフリー講座でも講師を務める武田和佳奈講師が、「バリアフリー字幕とは何か?」「音を文字で伝えるとは?」などを解説しながら、字幕作りをサポートした。風間健一監督も同席し、その意図を聴きながらの制作となった。
バリアフリー字幕ではセリフの前に「話者名」を入れるのが大きな特徴の一つで、その表記も工夫するポイントとなる。この作品のナレーションを担当するのは、俳優の渡辺謙さんだ。
「個人的には、(渡辺謙)(ナレーション:渡辺謙)のような案が出てくると予想していたのですが、シンプルに(語り)となりました。学生たちからは、『主役は一代さんだから』 『映画のパンフレットでも語りだから、ナレーションではなく語りがいいと思う』とすんなり意見が一致し、結果的に主役である一代さんや学生たちにフォーカスが合ったいい字幕になったと思います」。(武田和佳奈講師)
ちなみに渡辺謙さんの声だという情報は、公式サイトなどの事前情報や、バリアフリー上映前の事前解説などでも知る機会がある。バリアフリー字幕のもうひとつの特徴は「音情報」だ。波や風の音、サイレン、ノック、爆発音のほか、笑い声なども大事な情報となる。
「当事者である男性がゲストでいらした5回目の話し合いも印象的でした。『音楽の字幕はあったほうがいいか』と学生に聞かれた彼が、『くどくなければ』と答えたのです。単純に音楽や音があるところに字幕を付ければいいというわけではなく、当事者の方にとっても(必要なところに)(必要なタイミングで)字幕が出ることが重要で、良かれと思って付けた字幕が場合によってはくどくなることもある、ということを再認識しました」。(武田和佳奈講師)
当事者の男性は、自身も年間100本近く鑑賞するという映画愛好家。多くの作品を観るなかでさまざまな字幕を目にされている。「聞こえる人たちだけでは気付けなかった『音』への指摘もあり、こうして当事者の方と意見を交換することで、よりたくさんの人に届く字幕を作れるのではないかという可能性を感じた」と武田講師は話す。映像の制作者、字幕の制作者、利用者とそれぞれの想いを知ることができたのは、学生にとっても大きな学びになったようだ。
「私は応募以前から手話を学んでおり、他の側面からも聴覚障害について関わりたいと思い応募しました。参加前は文字起こしソフトを使用して字幕をつけていると思っていましたが、自分たちの手で字幕を制作することで、実際は、視聴者の多様な背景を想像し、検討を重ねて制作することを体感しました。今後は些細に思えることでも、一度立ち止まって他の人はどう感じるのか、想像することを大切にしたいです」。(大学2年、バリアフリー字幕チーム 一栁 真央さん)
被災地で復興を支えた学生ボランティアの姿を伝えるバリアフリー字幕を同じく学生が制作した意欲作。バリアフリー上映は2月29日(木)からシネマ・チュプキ・タバタや全国の上映イベントで観ることができる。
『ただいま、つなかん』 公式サイト