祝ヴェネチア国際映画祭 銀獅子賞(監督賞)受賞! 『スパイの妻』英語字幕制作秘話
第77回 ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された『スパイの妻』で黒沢清監督が銀獅子賞(監督賞)を受賞し、国内外で大きな話題となっています。脚本執筆には、『ハッピーアワー』や『寝ても覚めても』の濱口竜介監督も参加。JVTAはこの作品の英語字幕とイタリア語字幕を担当、3人の修了生が翻訳を手がけました。
主演は蒼井優さん。太平洋戦争の開戦間近、貿易会社を営む夫、優作(高橋一生)が、仕事で訪れた満州で恐ろしい国家機密を偶然知ったことから、時代の波に翻弄されていく妻、聡子を演じています。真実を明らかにしようとする優作とスパイの妻と罵られても夫を信じぬく聡子、2人の運命は…。
今回は英語字幕を手がけた修了生、杉崎やよいさんと足立リリーさんに英語字幕翻訳について聞きました。
◆足立リリーさん
◆監督賞(銀獅子賞)受賞を聞いてのコメント
自分が英語字幕で携わった作品が銀獅子賞を受賞したのは、大変光栄ですし、嬉しいことです。個人的にそれに勝るとも劣らないくらい嬉しかったのは、審査委員長のケイト・ブランシェットさんが自分の英語字幕を見たことです(笑)。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
◆英語字幕を手がける上で難しかった点や工夫した点はありましたか?
翻訳作業用の映像は、効果音や音楽が全く入っていない整音前の、役者さんの息づかいや心臓の鼓動音までが残って聞こえる、現場そのままの「生の音」の映像でしたので、「完成版はこんな感じかな?」と想像しながら翻訳する必要がありました。
また、淀みない長台詞のやり取りや緊迫感みなぎる会話が多かったので、観客が眼精疲労にならないような読みやすい字幕作りを心がけました。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
一番気を遣った箇所は、「気を付け」「足踏み、進め」「左向け左」「右へならえ」などの軍隊の号令です。英語でも特殊な言い回しですので、海外の実際の軍隊の行進映像を見て、役者さんの動きと同じものを探し、見比べました。間違った英語表現を使ってしまわないように気をつけました。
◆これからご覧になる方へ見どころを教えてください。
順風満帆に思える人生や日々が、大きな出来事で180度変わってしまう。本作における戦争もそうですし、大災害も、そして今年の新型コロナウイルスの蔓延にも同じことが言えるかもしれません。どんなに裕福で平和であっても、一瞬で無くなることもある。この状況下で作品を見返し、より強くそう思いました。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
ヴェネチア国際映画祭の審査委員の方が、「オペラのような作品」と称賛していました。作品の内容はディープですが、当時にタイムスリップしたかのような映像美に、きっと目を奪われることでしょう。
◆杉崎やよいさん
◆監督賞(銀獅子賞)受賞を聞いてのコメント
「やっぱり!」という思いでした。❝伝統的な価値観に則って夫をたてる慎み深い女性❞から❝何を犠牲にしてでも夫を守ろうとする強い女性❞へと変化していく姿がとてもリアルに描かれていました。自分が少しでも関わることができて嬉しいです。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
◆英語字幕を手がける上で難しかった点や工夫した点はありましたか?
この映画は私にとって“Bravo!”(「お見事です。」)というセリフにつきます。ネタばれになってしまいますが、後半に二回出るセリフです。最初に見た時に訳語はすぐに浮かんだのですが、これで本当にいいのか、と何度も考えたところでもありました。この一言に一回目は憲兵隊を出し抜いた夫への称賛。二回目はその結果を見届けた達観も含んで、とても深い一言になっています。蒼井優さんの演技力の賜物ですが、それが伝わらなかったら大変と思い、悩みました。
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もう一つ、「これは出演者に申し訳ないな」と思ったのが執事の金村さんの名前を英語字幕版では一度も出せなかったこと。字数の関係で仕方がなかったのですが、俳優さんにとっては名前のある役とない役というのは違うのだろうな、と思いながら削りました。
※金村役を演じたみのすけさん
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◆これからご覧になる方へ見どころを教えてください。
銃弾は飛び交いません、スパイ同士の騙し合いでもありません。でもみんな闘っているんです。自分の人生に責任を持つ、ということを考えさせてくれる映画です。
「時代があなたを変えたとおっしゃるなら、あなたの方がその時代を変えることだってできたんじゃないんですか」と言い放つ聡子。そんな彼女がどう変わったのかをご覧ください。
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https://www.jvta.net/tyo/wife-of-a-spy-italian/
『スパイの妻』
公式サイト:https://wos.bitters.co.jp/
10月16日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!
蒼井優 高橋一生 坂東龍汰 恒松祐里 みのすけ 玄理 東出昌大 笹野高史
監督:黒沢清
脚本:濱口竜介 野原位 黒沢清 音楽:長岡亮介
配給:ビターズ・エンド
配給協力:『スパイの妻』プロモーションパートナーズ
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
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