ヴェネチア国際映画祭 黒沢清監督の『スパイの妻』上映後、現地の反響は?
第77回 ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された『スパイの妻』で黒沢清監督が銀獅子賞(監督賞)を受賞し、国内外で大きな話題となっています。JVTAはこの作品の英語字幕とイタリア語字幕を担当、3人の修了生が翻訳を手がけました。
主演は蒼井優さん。太平洋戦争の開戦間近、貿易会社を営む夫、優作(高橋一生)が、仕事で訪れた満州で恐ろしい国家機密を偶然知ったことから、時代の波に翻弄されていく妻、聡子を演じています。真実を明らかにしようとする優作とスパイの妻と罵られても夫を信じぬく聡子、2人の運命は…。
イタリア語字幕を手がけた修了生、モーゼレ・フェデリカさんにお話を聞きました。
◆まず、銀獅子賞(監督賞)の受賞を聞いた感想を教えてください。
ヴェネツィア国際映画祭で『スパイの妻』で黒沢清監督が監督賞を受賞されたと聞いた時、素晴らしい結果で大変嬉しく思いました。イタリア語字幕を担当させていただき、非常に光栄です。また、今回は現地での上映後の観客のインタビュー映像のイタリア語の内容を、直接監督に説明するという大役もいただきました。現地の方々のコメントを見て、改めて自分が作った字幕が現地の観客に見られたのだということを再認識できました。監督の演出意図を具現化した作品である映画を、人々が理解するためにその字幕がどれだけ重要で、翻訳者はいかに責任のある仕事かを実際に感じることができました。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
◆本編のイタリア語字幕をつくる上で大変だったことはありますか?
舞台は、第二次世界大戦間近の1940年代の日本。言うまでもなく、日本の文化と日本の歴史に関わるセリフがいくつかありました。例えば「ABCD包囲網」というキーワードが出てきます。主にヨーロッパの視点からしか歴史を学ばない一般的なイタリアの人々にとって、この言葉が意味するところが一体どんなことなのかさっぱり分からないのは仕方のないことです。このような場合、まず文字数制限を守りながらも、あまり説明的なセリフにせず、どうしたら日本語の意味とセリフの流れを自然にしてイタリア人にわかりやすくできるかという点に悩まされました。また、作品全体に関わる工夫として、やはり40年代の物語なので当時は使われていなかった言葉や表現を入れないように気をつけました。昔の映画やその時代が舞台の映画をイメージし、そこに出ている人物の話し方を考えながら字幕をつけました。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
◆現地の観客のインタビューで見た反響はいかがでしたか?
好評価のコメントが圧倒的でした。日本映画に詳しくない人も、黒沢監督の作品を初めて見た人も、とても良い印象だったようです。なかでも、主人公の聡子の役作りが非常に良くできていた、多くの感情の起伏を演じきって心をつかむような蒼井優さんの演技が素晴らしかった、という声が数多くありました。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
また、今までの映画で描かれた日本の戦争時代と違った視線で見られて新鮮だったというコメントも複数ありました。これは私自身も感じたことです。戦争映画でヨーロッパに入ってくる日本のイメージは、帝国主義的な軍事体制の中で日本人が命令に忠実に命を投げ出すような作品が殆どですが、『スパイの妻』ではそのような従来の作品とは違って、自分の意思で動く人物を初めて見ることができてとても興味深かったそうです。黒沢監督もこうした声は特に嬉しかったとのこと。監督のリアクションを生で直接聞けたのも本当に貴重な経験になりました。
※黒沢清監督
◆最後にこの作品の見どころを教えてください。
ストーリーはほとんど聡子の視点から描かれているので、観客も「妻」の目で物事を見ています。本当は何が起きているのか、何が真実で何が嘘なのか、すべて聡子と共に体験することになります。この演出によって物語にぐいぐい引き込まれていき、作品に完全に魅了されてしまいました。ちなみに、映画の中では様々な場面で、複数の映画の映像が映し出されます。この「劇中映画」の使い方も本当に面白い点だと思います。ぜひ、多くの皆さんに見ていただきたいですね。
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
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https://www.jvta.net/tyo/wife-of-a-spy-english/
『スパイの妻』
公式サイト:https://wos.bitters.co.jp/
10月16日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!
蒼井優 高橋一生 坂東龍汰 恒松祐里 みのすけ 玄理 東出昌大 笹野高史
監督:黒沢清
脚本:濱口竜介 野原位 黒沢清 音楽:長岡亮介
配給:ビターズ・エンド
配給協力:『スパイの妻』プロモーションパートナーズ
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
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